EU離脱、英議会承認遠く メイ政権は切り崩し模索
「英国は振り出しに戻る」。ロイター通信によると、メイ氏は26日の英議会で、離脱案否決のリスクは大きいと警告する見通し。「これよりも良い合意は存在しない」と反対派議員をけん制する考えだ。
合意案の可決に必要な320票を巡り、メイ氏は多数派工作を続ける。22日に自らの応援団である北アイルランド系の経済界と会談。「離脱案は経済の混乱を防ぎ、投資につながる」と説得し、閣外協力する北アイルランドの地域政党、民主統一党(DUP)の説得にあたってもらう約束を取り付けた。週内にもDUPと経済界が会談する見通しだ。
ただDUPのフォスター党首は「離脱案にがっかりした」と批判する。DUPは「アイルランド問題が解決しない場合は、北アイルランドに限り製品や食品の基準などはEUルールに従う」という合意に反発。「英国本土と分断される」と10人全員が反対に回る姿勢を崩さない。
手をかえ品をかえ多数派工作を続けるメイ政権だが、離脱案への支持はなかなか広がらない。保守党内にも「EUの属国になる」との批判があり、現状では過半数320票に対し40~70票ほど不足しているとみられる。
新しい流れは反対派の主張が細分化してきたことだ。「EUに縛られ続ける」と反対し続けてきた与党強硬派のほか、再度の国民投票を求める親EU派、英国水域での漁業権の確保を求めるスコットランド系の議員など、それぞれの反対理由がはっきりしてきた。
メイ政権は対応次第ではまだ情勢をひっくりかえせると見込む。ハント外相は25日のBBCのテレビ番組で「政府を倒すのは不可能だ。首相は議会で否決されても辞めない」と反対派にけん制球を投げた。メイ政権は硬軟を使い分けながら、月内に予定される天王山の採決の時まで反対派への翻意を迫る方針だ。
メイ氏が打開策と見込むのが、懸案のアイルランド国境問題の解決策だ。20日の定例閣議後、メイ政権の閣僚らは「今日は生産的な閣議だった」と口々に語った。
この閣議で示されたのは、IT(情報技術)を使って国境以外で関税や税関手続きを済ませる案。この案が通れば、国境での通関手続きの必要がなくなり、EUの関税同盟から抜け出せる。EU側は以前、この案を「非現実的だ」と否定していたが、与党強硬派向けの対策として英側が水面下の交渉で合意案に滑り込ませた。
英・EUは離脱後も英領北アイルランドとEU加盟国アイルランドの間で厳しい国境管理を避けることで一致したが、本格的な解決策は見いだせていない。移行期間が終わるまでに具体策がまとまらなければ、英国全体をEU関税同盟に事実上残すことで合意したものの、英の強硬離脱派は「ずっとEUルールに従うことになる」と反発している。