【シンガポール小林宏彰、上家敬史】北方領土交渉を巡り、安倍晋三首相が歯舞群島と色丹島の2島返還を目指しつつ、国後、択捉両島では共同経済活動を実現して自由な往来などを可能にすることを念頭に置いていることが分かった。複数の政府関係者が15日、明らかにした。首相は14日の日ロ首脳会談で平和条約締結後の歯舞、色丹2島の引き渡しを明記した1956年の日ソ共同宣言を基礎に交渉の加速で合意したことを踏まえ、2島返還を軸にプーチン大統領との協議を本格化させる方針。長年、「四島返還」を目指してきた北方領土交渉は大きく転換した。
日ロ両政府は93年の東京宣言などで四島が領土交渉の対象だと確認しているが、ロシアは日ソ共同宣言に記述がない国後、択捉両島は「交渉の対象外」との姿勢を強めている。首相は2021年9月までの自民党総裁任期中の領土問題解決に向け、日本が「四島返還」を領土交渉の軸に位置付ける限り、プーチン氏が本格的な交渉に応じないと分析。共同経済活動の実現を通じ、国後、択捉両島に日本の主権が一定程度絡む形をつくりつつ、歯舞、色丹両島の返還に向けた交渉を加速させるべきだと判断した。
国後、択捉両島の領土交渉の継続を前提とした『2島先行返還』よりもさらに踏み込んだ想定で、事実上の国後、択捉両島の返還断念につながる懸念が大きいが、政府関係者は「元島民の高齢化が進んでおり、交渉を前進させて自由に故郷を訪問できるようにすることが重要だ」と説明。四島の帰属問題を解決し平和条約を締結するという日本の基本方針との整合性は「日本に四島が返還される場合だけでなく、『日本2島、ロシア2島』などの結果になったとしても、四島の帰属を巡る問題解決になる」と、早期に平和条約の具体的内容の検討に入る考えを示した。
前外相の岸田文雄自民党政調会長は15日の派閥会合で「極めて現実的な対応を考えなければならない」と、政府方針を全面的に支持する考えを表明。ただ政権内には「四島返還を断念したと受け止められれば、世論の批判は免れない」との懸念もある。国後、択捉両島での共同経済活動を早期に実現した上で領土交渉の継続を模索すべきだとの声もあり、首相はロシア側の出方を慎重に見極め、最終的な判断を下すとみられる。
ただロシア側の強硬姿勢を踏まえ、政府内では「国後、択捉の継続交渉を前提とした『2島先行返還』よりも踏み込んだ判断を示さなければ、プーチン氏は交渉に応じない」(官邸筋)との見方は強い。プーチン氏は15日、日本が同宣言の履行を拒否してきたと指摘。01年に森喜朗元首相と同宣言に沿って解決を目指すことで大筋合意したが、その後の小泉純一郎政権が四島返還の立場に戻ったとの強い不信感がある。ロシア外交筋は「安倍首相が再び方針を転換するようなことがあれば領土問題は永遠に解決しなくなる」とけん制した。