笠が岳、双六岳、黒部五郎岳など、北アルプス奥部の山から西に向かって流れ落ちる幾筋もの谷を集めた金木戸川は、双六川となり、高山市上宝町見座で高原川と合流したあと、神通川となって日本海に注ぐ。
いずれの谷も急峻で、昭和の初期まで人跡未踏の秘境、魔の谷と恐れられていた。
人の手のはいらなかった原生林も、国策の木材資源開発のために、森林軌道の敷設が計画された。
昭和5年の着工から昭和27年までの期間で、支線も含めてて総延長は22.000メートルの「金木戸森林軌道」が完成した。
森林軌道の活用による大規模伐採は、資源の枯渇を招き、その一方で安い外国材の輸入によって、林業の採算性が悪化していった。
昭和30年代に入ると、金木戸川流域の電源開発が始まり、ダムや発電所の建設のために軌道が利用されたが、自動車の発達とあいまって、安全性と効率性で軌道から林道網の整備へと変わっていった。
順次廃線や休止路線が続き、昭和38年に全路線が廃止となり、役割を終えて金木戸森林軌道は消えていった。
軌道の跡は林道に変わり、当時のトンネルの一部は、補強されたり拡幅されて現在も使われている。
青の洞門のような素掘りの隧道や崖の切り通しは、重機が無い時代の土木工事の苦労が偲ばれる。
軌道のレールが橋桁や難所のガードれるに使われていて、わずかに当時の痕跡を目にすることも出来た。
現在の金木戸林道は、木材の搬出も無くなり、工事車両や発電所の作業車が通るだけである。
林道の途切れる広河原の先で引き返したが、ここからは小倉谷や打込谷を遡上して笠が岳を目指す難易度の高い沢登りコースである。
産業遺跡を訪ねる猛暑のツーリングは、金木戸川の清流と自然を回復しつつある森で、暑さをしばし忘れさせてくれた。
デジブック 『金木戸林道ツーリング』