2月も終わる頃、南房を巡った。
ここ毎年、菜の花が咲く頃に房総に行くことが年中行事のようになっている。
秋には彼岸花、春には菜の花、ポピー、夏には浜木綿が咲き乱れる南房総は、いつの季節もボクの目を楽しませてくれる。
ひなびた港。潮の香りが微かにする。
東京湾の内湾を出て館山に入ると、潮の香りは若干強くなる。
千葉県も南端までくると、さすがに旅気分だ。
館山はウミガメの産卵地でも有名だが、今もウミガメが来るのだろうか。
取材が終わって、「花清」という割烹料理のお店で昼食をいただく。
白い木綿の暖簾が小春日和の風にたなびいている。
ランチのコース。
お造りはさすが。地ものである。
温泉旅館に泊まると、決まってお造りが出てくる。それが山奥にあっても。さすがに山奥のそれには閉口する。
やっぱり、魚は地ものでなくてはいけない。
「お造り」は潮の香りのするところで食べたいものだ。
そうこうするうちに、給仕の方が、小鍋に火を入れに来た。ボクはそれをてっきり、鍋物なのかと思っていたが、実はそうではなかった。
初めて聞いたのだが、それは「イカのしゃぶしゃぶ」だったのである。
薄く造られた白いイカの身を沸騰した出汁のおつゆに浸すと、少し身が縮こまって白さが際立つ。そう、この瞬間だろうとイカを出汁つゆにつけて食べると、これまで食べたこともない食感が口の中に広がるのだ。
イカであってイカでない。つまり、イカ以上でもなくイカ以下でもない。
こりこりとした食感に、時折ブチっといく感覚は、それはそれは悪くない。
「イカのしゃぶしゃぶ」は最高だった。
イカは偉大である。
刺身はもちろん、焼いてよし、似てよしの万能プレーヤーだ。
しかも、「イカそうめん」や「イカ徳利」といったように、違うものに代用される。これがたことなるとそうはいかない。
「花清」のお座敷に座っていても、磯の香りがただよってくる。
座敷も香りも料理も落ち着く。
ランチなのに、ついついビールを頼んで、一杯飲りながらおかずをつつく。
やっぱり春は南房が一番だ。
春を感じる、房総の旅である。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます