元同僚定例会での話。
近ごろ物忘れが激しいって。全員頷く。ひとりが歯医者の予約を2回も忘れたって嘆くのよ。
2回もか。
ひどいでしょ、信じられないわ自分がって。それはちとひどいよね、うん。
でも、あるあるな話。
コミュニティハウスで本のタイトル見て速攻で借りる。
きっとその手の話だから慰めてもらおうと。本の中で笑い飛ばそうとページをめくったわ。
いやいや違った、いい意味で裏切られた。
ポジティブなのよ明るいのよ、読後、お得意の「ま、いっか」が出そうなの。
この挿画がまた楽しくて 登場人物オールキャスト
四股を踏んでいるのは拓三さん
交通安全見守りも拓三さん
取っ組み合いはヒサさん
ポールの人は千鶴さん
ソファー寝転びの人は早苗さん
下の人はヒサさん
シニア世代7人の日常あるいは特別エピソード。青字は作者の川柳。
*もの忘れ (浅野拓三・68歳)
今日もまた アレ・コレ・ソレで 日が暮れて
拓三さん、近ごろレンタルビデオ店でDVDを借りてひとり名作映画鑑賞会をしている。
が、同じビデを何回も借りてめげるわけよ。
でもでも拓三さん、自分に言い聞かせる。
物忘れの一つや二つ、十や百・・・それが千でも万でも、気にしない気にしない・・・。
私もこの間、図書館で以前借りてきた本をまた借りてきた。
でもいいの、誰に迷惑かけるわけでもなし、気にしない気にしない。
*墓じまい (神楽一夫・72歳)
墓じまい しまうつもりが 大モメに
一夫さん、墓じまいをしようと家族、兄妹、親戚に相談をした。みんな大反対。
中で義弟だけが賛成してくれて、おまけに尊敬しているとまで言われて。
思わず涙ぐむわけよ。
次に思い出したのが大叔母で、墓じまいの件について洗いざらいぶちまけて相談するるわけ。
「あんたも難儀なことだったな。まんず、お疲れさんでした。大変だったなぁ」
またもや目頭が熱くなる。大叔母の言葉は続く。
「(略)めんこい子や孫たちに重荷をしょわさないように、あんたは、一生懸命考えたんだべ?
わたしは、それでいいと思う。墓じまい、いいじゃないか。わたしは大賛成だ」
またもや嗚咽がもれる。
一夫さん、立派立派、偉いわ。私も人生の大先輩にどやされて。
「おめが死んだら誰が始末する、残されたもんが迷惑だが。はよせんか」って。
私、独断専行でやった。
泣いている人は一夫さん
*ウォーキング(宮戸千鶴・66歳)
ウォーキング ポールか杖か 分からない
千鶴さん、膝が痛くてかかりつけの日出子先生に相談したら、ノルディックウォーキングを
勧められた。すっかりその気になって練習を始める、効果も出てきた。
やがて同じ趣味のお友達もできてすっかり調子に乗って、ああやっちゃった。
そんなときお友達とリハビリと称して一泊の温泉旅行に行くことになって。
知り合い以上友達未満と感じていた関係が少し深い関係を結ぶことができて。
人生の終わりが見えはじめたいま、知り合えたことに意味があるような気がした。
自分の一生の終盤戦に入って、こんな愉しみを見つけることができるなんて、
人生まだまだ捨てたもんじゃない。何歳になっても新しいことって起きるんだな。と思うわけ。
千鶴さん、柔軟なのね。誰のアドバイスも受け入れる柔らか頭を持っているのね。
頑固な私には新しいことを受け入れるのは難しい。
*遺影用 (岡慎平・68歳)
写真裏 メモを発見 遺影用
慎平さん、ふと手に取ったアルバムの中から1枚の写真が落ちて見てみると。
なんと、写真の裏に「遺影用」と。さあて「遺影用」と書いた犯人はだれだろう。
犯人探しが始まる。妻か娘か息子か。うーん、記憶が蘇った、それを書いたのは。
慎平さん、面白い。結果良ければすべてよし。犯人が分かってよかったね。
*まちの小さな本屋(福禄初子・80歳)
年とれば 町の本屋が ありがたい
ひとり暮らしで本が大好きな初子さん、ちょっとしたきっかけで町の本屋さんに
出入りするようになる。
初子さんはやがて常連客と顔馴染みになって、治子さん葵さんと読書仲良し三人組に
なっていた。三人は読書会を始めるようになり、小学校で読み聞かせをするようになり、
老人ホームへ慰問に行って本を読むなんてことも計画するようになる。
初子さんは、目に見えて生き生きしてきた。
ある日大きな地震が起き一人暮らしの初子さんを心配して、本屋の文樹が訪ねてみると。
初子さんはいろいろ備蓄しているから大丈夫、と言うの。
おまけに水の備蓄ならたっぷり用意してあるなんてことまで、そして自分の膝を見せ
「ほらここにも水、溜めてるの」なんて。
「いざとなったらさ、ここにストロー刺して、吸って飲もうと思っている。チューチューって」
自分のような一人暮らしの年寄りは、いざというときに頼れるのは結局、自分だけ。って。
初子さん、すごいわ。積極的だわ。ユーモアあり覚悟ありの人生。お手本にしなければの人。
*いじわる (一条ヒサ・73歳)
世の中は バカばっかりだ 腹の立つ
ヒサさんはいじわるをして喜ぶ。
一日一善ならぬ、一日一悪だ。何か、とてもいいことをしたような爽快感があった。
なんて悦に入るばあさんなの。
禁煙している隣のジジイの禁煙を破るよう仕向けたり、同じように嫌われている天敵の
トメさんね、この人はイヤミだと言って具合が悪そうなトメさんに弔辞を渡したりするの。
はあ、ここまですれば大したものね。
そんないじわるの一つ神社に行って昔書いた絵馬に追加して書くから絵馬を探させてくれ、
なんて。そりゃあ神官も戸惑う。でも押し切ったヒサさん自分が昔書いた絵馬を見て愕然とするの。
<今年は皆から愛される年寄りになれます様に一条ヒサ>
境内のベンチに腰を下ろしてぼんやりと、そこへ男の子が。
お母さんに、一人だけでいいから仲良しのお友達ができたらいいと教えられている男のことの会話で
ヒサさん、人生の大センパイとしてかっこつけなきゃいけない。
「そう。あたしにもいるよ、一人だけ」
自分には友だちと呼べる相手などいないけど、老い先短い人生でも終わったわけじゃないから
ここからだって友だちはできるかもしれないって。
ヒサさん、いじわるも大変だ。
長谷川町子さんのいじわるばあさんを思い出したりしたの。ヒサさんのこと、なんとなく好きかも。
*上にサバ (土谷早苗・98歳)
高齢を 褒められたくて 上にサバ
早苗さん、年に似合わず足腰はしっかりしているし、もちろん頭の方だって、しゃんとしている。
早苗さん、趣味で写真を続けている。もう70年以上も。
で、長年の念願だった個展を開くことを決心したんだって。そして準備も手配も何もかも
自分でやって、いやただひとりお孫さんの手を借りてね。最初はぽつぽつだった客足が最終日に
突如急増、大盛況。おまけに肖像写真を撮って欲しと言う男性まで現れて。
「死は、皆にひとしなみに訪れるもの。でも人生のどこかで、まんざらでもなかったなと
思えたら、それはいい人生だったと、あたしは思う」
早苗さん、素敵。
私も、まんざらでもなかったなと思える人生にしたい。今からでも遅くないわよね。
シニア世代、それぞれのあるあるなお話があたたかい。
読み終わった後、これまでもこの後も、人生捨てたもんじゃないと思わせてくれるのよ。
ひっくり返って、にやにやしながら読んでたの、ごめんなさい。
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