風そよぐ部屋

ウォーキングと映画の無味感想ノート

映画/しあわせの絵の具 愛を描く人モード・ルイス

2018年08月14日 | 映画

素敵な作品です。カナダの女性画家モード・ルイスさんの半生を描いています。
モード・ルイス(1903年~1970年)さんは、カナダの田舎の風景、動物、草花をモチーフに、明るい色彩と
シンプルなタッチで温かみと幸福感のある絵を描いた画家です。私は知りませんでした。

映画は、かなり寒々と荒涼感のあるカナダの雄大な自然を背景に、しっとりと良く仕上がっています。

モードは、若年性関節リウマチを患い、手足が不自由で体も小さく、激しい偏見と差別を受けました。
自立を目指した彼女は、住み込みの家政婦の仕事をようやく手に入れます。
そこは、孤児院で育ち、魚の小売り業を細々と営むエべレット・ルイスの掘っ立て小屋でした。
その小屋は狭く、ベッドは屋根裏に一つしか無く、二人は一つベッドで寝るしかありませんでした。
ぎこちなく背を向けてベッドで寝る様子はおかしいです。
彼は、充分教育が受けられず、読み書き充分にできない無教養で少しぶっきらぼうな男でした。
モードは、障害のせいで家事も上手にこなせませんが、エべレットの冷たい仕打ちにも、
なんとか食らいついて行きます。
その合間に、絵を描き始めます。
彼女の絵は、決して上手くはありませんが、南国のような暖かみのある色彩とほのぼのとした絵柄でした。

絵はがきなどが少しずつ売れましたが裕福では無かったそうです。
映画の最後に、実物の彼女のビデオ映像が数分流れます。
主演したホーキンスはこの映像を穴の開くほど見たのでしょう、本当の障害者のように見事に演じました。

主演したホーキンスはお世辞にも美人ではありませんが、この映像を穴の開くほど見たのでしょう、
手足が曲がり、上手く歩けない若年性のリウマチのモードを誠に見事に演じました。
モードさん、一見ひ弱そうですが、ちょっとドジで抜けてて、それでいて茶目っ気も。
他方、エベレットさんもはじめは威張っていたのに、次第にすっかり彼女の「尻の下に敷かれる」優しさに。【8月6日】





映画/15時17分、パリ行き

2018年08月08日 | 映画


正直言って、駄作です。
イーストウッドも老いたな、彼の薄っぺらな「英雄アメリカ人」映画です。         
2015年パリの列車で銃乱射事件が発生しました。
たまたまその場に居合わせたアメリカ軍兵士が、犯人を取り押さえました。
その当事者が映画を演じると言うことだけが今回の目玉で、ただそれだけの映画です。
それでは場が持たないので、パリやローマの観光名所が多く写されます。 【7月23日】

映画/スリー・ビルボード

2018年07月28日 | 映画


原題は、Three Billboards Outside Ebbing, Missouri と長いです。
ビルボードとは、道路脇の広告、地名のミズーリーが付けられているのは、意味深です。
黒人青年が、白人警官にピストルで射殺された州です。
クライムサスペンスです。おもしろかったです。
ストーリーは複雑ではありません。かなり支離滅裂です。
娘がレイプされ、殺されたミルドレッドは、5000ドルで「娘はレイプされた、
警察署長は何しているんだ」などの巨大な看板を立てます。

舞台は、映画のタイトルにあるようにアメリカ中央部のミズーリ州の架空の田舎町です。
おそらく、ミズーリ州にはいろんな意味が込められていると思います。
過日、黒人青年が白人警官に射殺された州です。しかし、多くの白人が裕福では無く、
プアホワイトと言われる貧困白人も多く、また多くの移民が住んでいる州でもあるそうです。
アメリカの巨大な穀物生産地で、特にトウモロコシです。
さて、この映画のほとんどの登場人物は、すこぶる「暴力的」です。
「まとも」の定義は、難しいのですが、まともなのは、看板を請け負った広告代理店の若き所長と
ミルドレッドの息子の二人だけです。
一番ひどいのは、レイシストで悪徳警官のディクソンです。
乱暴な母親へのマザコンを持ち、怒りにまかせて広告店の店長を窓から投げ捨て大けがをさせたり、
ミルドレッドの看板を燃やしてしまいます。
彼女の店の黒人女性店員をマリファナ所持で逮捕したり、やりたい放題です。
所長はかなり好意に描かれていますが、若いのに膵臓がんでピストル自殺してしまいます。
ミルドレッドの夫は、家を出て、なんと19歳の女性と住んでます。
ミルドレッドも、看板が焼かれた復讐に警察を火炎瓶で消滅させてしまいます。
彼女が息子を学校に送った時、車にジュースの空き缶を投げられた時、
三人の男女の股間を蹴っ飛ばしてしまいます。
気に障った歯医者の指を歯科医のドリルで穴を開けてしまったり…、
ディクソンに負けず劣らずの傍若無人の暴力を発揮します。
中古車店を経営しているジェームズは、彼女の警察署の放火を目撃します。
ミルドレッドを密かに思っている彼は、そのことを隠し、彼女を食事に誘います。
彼は、小人症です。
警察署の火事で悪徳警官・ディクソンは瀕死の大やけどをします。
病院で同室となったのは、自分が窓から放り投げ重症の広告店店長でした。
でも彼は、泣きながらディクソンに飲み物を与えます。
この映画で唯一と言って良いほどの「お涙シーン」でした。
しかし、この場面はこの映画のもう一つのテーマ「赦し」の象徴でもありました。
自死した署長は、ディクソンに「お前は、落ち着けば良い警官になれる」と遺書します。
心を入れ替えた彼は、食堂で、レイプしたことがあると与太話に興じる青年の声が耳に入ります。
その時は、彼はすでに警官を首になっていたのですが、彼を挑発し、殴られます。
そのすきに彼の皮膚を取り、DNA鑑定を依頼します。
彼は、その男がレイプ犯では無いかとミルドレッドに伝え、協力しようとします。
彼は、ミルドレッドのレイプ犯ではではありませんでしたが、二人はライフルを持って
彼の住むオハイオ州に向かいます。
「どうする?」と言うディクソンの問いに、彼女は「道すがら考えれば良いさ」と穏やかな顔で答え、
彼も、うとうと寝入り、映画はここで終わります。
映画の最後になってやっと穏やかなミズーリの農村風景が流れます。
アメリカ社会の暴力性、野蛮さの実情を私は承知してはいませんが、
今なおそれがアメリカに根強く存在することは想像できます。
この映画の登場人物はほとんど我々の想像をはるかに超える「短絡的」、「暴力的」です。
彼らの多くは極端な貧困者ではありませんが、女性、黒人、小人症、知恵遅れ、の人々です。
差別や偏見を受け、いずれもコンプレックス、劣等感を抱え、自身と社会に鬱積し、
それを晴らすかのように潜在していた暴力が瞬間的に発露します。
これは、今のアメリカ社会の縮図なのか、と私は思いました。
ミルドレッドを演じ、第90回アカデミー主演女優賞したフランシス・マクドーマンドさん、

不美人でひどく年寄りに見えました。60歳だそうです。  左は、ディクソン
でも、コレが成功しています。
私の好きなシャリー・ストーンやニコール・キッドマンだったらこの映画は大失敗でしたでしょう。
後日談があります。オスカー授賞式後、そのオスカー像が会場で盗まれました。
犯人はすぐ逮捕されましたが、彼女は犯人の解放を頼んだそうです。
この映画では、美人の女性は3人ほどしか出てきません。
一人は署長の奥さん、広告店の女性職員、そしてミルドレッドのお店の黒人女性。
ストーリーのディテールはかなり支離滅裂ですのでそれは無視です。      【7月23日】




映画/あなたの旅立ち、綴ります

2018年07月24日 | 映画


おもしろかったですが、映画としては普通作です。
82歳のシャーリー・マクレーン、なんとも魅力的です。ものすごいしわくちゃを堂々と披露しています。
でも、ストリーは工夫とひねりががなさ過ぎでした。   右は、アマンダ・サイフリッド

私も、今日はやりの終活を、少し考えさせられました。
私は死亡通知も葬儀も不要で、バケットリストを強いて言えば、充実や精一杯では無く、
出来るだけ楽しく行きたい、です。   【7月9日鑑賞でしたが感想が遅れました。】

映画/ベロニカとの記憶

2018年07月10日 | 映画


退屈でつまらなかった。
ミステリードラマというので少し期待したのですが、全くの期待外れでした。
特に前半は、テンポも無くだらだら観いっぱい。 トニーの元に、40年も前の
初恋の女性・ベロニカの母親の弁護士から、「遺品」があるとの手紙が届きました。
トニーと母親は無関係なのですから、遺品があるなんて不可思議です。
普通なら、そんな手紙は無視するのに、彼はかなり執拗に調べ始めます。
それは彼女の日記なのですが、ベロニカはすでに廃棄していました。
トニーの同級生・エイドリアンは自死しました。
その原因が自分にあるのではとトニーはずっと思っていたのですが、
実は、彼が関係を持ったのはベロニカの母で、彼女が妊娠したからというのです。
40年も前のことですから、自分に都合良いように記憶された記憶も曖昧です。
ベロニカとトニーはお互い良い感情を持っていましたが、肉体関係までには進みませんでした。
それは、彼女の母親の性癖、そしておそらく父親と兄の性格などが影響したようなのですが、
それらは一切明らかにされません。
この映画の最大の欠陥は、この映画の最も重要なそれらを語らないことです。
晩年のベロニカを演じたのは、英国の女優で「さざなみ」に出演したシャーロット・ランブリング、
その私のブログは、 「さざなみ」のランプリング です。   【7月9日】

映画/彼女がその名を知らない鳥たち

2018年06月26日 | 映画


おもしろかったです。
私の好きな女優の一人、蒼井優さんが主演し、沢山の賞を取ったそうです。
かなりのカマトトイメージの彼女が、ラブシーンを演じたのは一つの脱皮と言えますが、
貧乳の彼女、さすがおっぱいは映りませんでした。
松坂桃李とのキスシーンは「官能的」などと言われているそうですが、たいしたことないし、
これもそして他のセックスシーンも全く不要です。
ポルノ映画では無いのですから、そんなシーン無しの方がはるかに良いです。
サスペンスクライム風で面白いのですが、途中で過去の出来事の真実・結末が予想されてしまいます。
いずれの登場人物も常人の枠をはるかに越えた「異常」なダメ人間ばかりです。
この設定も私は賛成できません。
なぜなら、「普通で無い異常」は、他人事に思えるからです。
異常さのない普通の生活の中に忍び込んで来る恐ろしさを描いてほしいのです。
記憶の喪失は安易な禁じ手ですし、陣治の自死はそれ以上に無策でした。
手に負えなくなった筋書きにさじを投げ、安直な結末にせざるを得なかったのでしょう。
十和子はこの新たな現実に耐え、生きられるとは思えません
後は、観客は勝手に考えろと言うことなのでしょう。
"究極の愛"は、何とも的外れです。
気になったのは阿部サダヲのドーランが濃すぎ、汚すぎで不自然さでした。
きちんと自然な日焼け顔にするべきでした。    【6月18日】

映画/勝手にふるえてろ

2018年06月20日 | 映画


おもしろそうで、ちょっぴり期待したのだけど残念でした。
絶滅危惧種愛好オタクのヨシカは、中学のイケメン同級生イチにずっとあこがれて来ました。
会社の同僚男性・ニに一方的に好かれています。
この三人の設定、個性・描き方が、一面的すぎしかもステレオタイプ過ぎます。
ヨシカは、ナイスバディではないですがかなりの美人で、イチはイケメン意外に個性は
描かれておらず、ニは全くの軽薄です。
ヨシカのアパートの隣人は、「名前に引きずられるタイプなの」とオカリナを愛する
岡理奈[片桐はいり]、彼女とつきあうようになる長髪お下げのコンビニ店員が傑作でした。
前半は、かなり軽妙にテンポ良かったのですが、途中で息切れ、退屈となりました。
彼女が日常接する人々で彼らとの会話がストップモーションで映ります。
しかし、それは彼女の幻想会話で、彼女は彼らの名前すらを知らないと嘆きますが、
現在は、駅員や、コンビニ店員、会社の掃除の人など人々は名札を付けているので、
「名前は知っているけど、話したこと無い」とするべきです。
それ以外にも、ディテールの設定が現実的で無く、嘘っぽいのは良くありません。
ストリーが現実的で無いのですから、細かい設定の真実さはとても重要で大事です。
結末は、予想通り、驚き無し、でした。
まぁっ、ちょっと楽しめたけど、普通作以下でした。  【6月18日】

映画/ローズの秘密の頁

2018年06月13日 | 映画


サスペンス風映画で面白かったですが、難しかったです。
原題は、The secret scripture(聖書)、アイルランド映画です。
舞台は、アイルランド。北アイルランドではつい最近まで深刻な「紛争」が続いて来ました。
イギリスの「のどに刺さったトゲ」と長年言われ、「アイルランド問題の解決無しにイギリス労働者の解放は無い」
と言う趣旨のことをマルクスは言っています。
それは宗教対立、貧困の南北対立、民族差別、領土問題が複雑に絡み合い、
そして何よりイギリスが北アイルランドを属国的支配をしてきたからでしょう。
そんな複雑なことを舞台にしているのです。
映画は、それらが背景も言いたいのですが、物語のディテールを整理しきれず、説明できていません。
物語の主人公のローズはマイケルに恋しプロテスタント教会で結婚します。
カトリックの神父・ゴーントは地元の権力者で、「聖職者」なのにローズに異常なほど横恋慕するです。
彼は、ローズが生んだ男子を奪い、養子に出し、彼女を幼子を殺したとして、精神病院に監禁してしまうのです。
こうして40年の月日が流れます。
そこは、我々の想像を超える刑務所以上の過酷で苛烈さです。
ローズは、聖書に秘密の日記を認めていました。
映画の最後の結末は、伏せますが、ドンデン返しが待っています。
この映画は、長年続いた「北アイルランド紛争」が表面的、一応の和解を迎えたから生まれた映画だと思うのですが、
かつてのカトリックの暴力性、今日もなお根付いているナチスの優生思想、今日のレイシズムなどの問題と恐怖が
根本にあります。
きわめて刺激的テーマです。アイルランドの抱える問題を描きながらもストーリーを複雑にしないで
シンプルに描けば良かったとつくづく思い、残念です。
若きローズ役のルーニー・マーラが美しいです。
彼女が出演した映画の私のブログは、キャロル です。     【6月4日】

映画/ロング、ロングバケーション

2018年06月05日 | 映画


面白かったです。
原題は、The leisure seeker、ここのleisureは日本語のレジャーでなく楽しみでしょうか。
自分の終末をどう迎えるかは、最近はやりのトピックです。
私の父は56歳で亡くなりました。その年を迎えた時、私はそのことを考え始めました。
私の生まれた年の平均寿命を調べたら、なんと0歳では50歳そこそこでした。
さて、映画、末期がんの妻・エラが何とも魅力的でした。
彼女は、まだら痴呆症の夫・ジョンを健気にケアしています。
その二人が、キャンピングカーで旅に出ます。
これは映画だから許されることで、実際的には殺人行為ですからやってはいけません。
冒頭、「おならをした?」とジョンが言います。
エラは、車の床に穴が開いていて排気ガスが漏れているのに気づき、ガムテープで塞ぎます。
重要なシーンで、映画の最後、このガムテープがはがされされます。
末期がん、痴呆症というちょっと重たい話題を徹底したコメディにしたのが大成功です。
しかし、お漏らしをしたジョンが体を拭かれている時、ジョンが勃起し、挿入するシーンは不要でした。
また、排気ガスを車に引き込んで自死する結末の評価は、別れると思いますが、
そのまま旅を続けるエンディングだけでなかったのはなにより良かったです。
さて、高齢社会の現在、尊厳死、延命治療の是非、終末をどう迎えるかは、まだ議論が始まったばかりです。
それらを訳知り顔に語って稼ぐ著名人がやたら増えて、ちょっと気分の悪い私ですが、
塩野七生さんの「ローマ人の物語」に、あるローマの貴族達は、食を拒否して死を迎える話があります。
ローマ的「即身仏」のようで私にはとても興味深いエピソードでした。       【6月4日】

映画/マルクス・エンゲルス

2018年05月30日 | 映画

原題:The Young Karl Marx 監督:ラウル・ペック(ハイチ出身) 2017年/フランス・ドイツ・ベルギー/118分
マルクスは、1818年5月5日生まれ、つまり今年はマルクス生誕200年、それを記念して作られた映画で、
鳴り物入りの評判でしたが、映画は凡作でした。
近代世界で最も社会的影響を与えた人物を125分で描くことがそもそも無謀です。
映画は、若きマルクスとエンゲルスが出会い、1848年革命、共産党宣言を執筆する数年に限定したのですが、
それでも全く成功していません。
その理由は、この映画の目的、意図が全くわからないからです。
共産党宣言が生まれた背景は、ヨーロッパを席巻した1848年革命です。
その革命は、フランス革命とナポレオン戦争で荒廃・混乱したヨーロッパ秩序をそれ以前の従来の
君主制・絶対王制への回帰によって安定させようとした反動的なウィーン体制を打ち砕く運動で、
ヨーロッパ各地で勃発しましたが、結果は失敗に終わりました。
その革命は、「諸国民の春」とも呼ばれました。
エンゲルスは、蜂起に武器を持って参加しますが、映画はこの肝心の人民の蜂起には触れません。
1848年当時の日本と言うと、この5年後に黒船が来た幕末の時代です。
イギリスで起きた産業革命は、多くの労働者を生み出しましたが、プロレタリアートという、
階級の概念はまだまだ希薄でした。
激動のヨーロッパは様々な社会思想と運動潮流を生み出していました。
プルードンの無政府主義が強い影響力を持つ一方、キリスト教的社会主義などまさに「百花繚乱」でした。
さて、若きユダヤ人マルクスは、頭脳明晰でした。
ボン大学在学中に貴族の娘・イエニーと結婚し、ベルリン大学に編入します。
大学卒業後、妻の父親コネでベルリン大学の哲学教授の椅子を姑息に狙いますが、ダメでした。
失意のなか、ジャーナリストとして生計を立てますが、彼には家庭経済観念がほとんど皆無だったそうです。
その後、パリに出て、若きエンゲルスに運命的に出会い、48年革命に出合います。  晩年の二人

彼は、マルクスより2歳若いのですが、マルクスよりはるかに大人で、すでに経済学に関心を持っていました。
マルクスは、貴族の娘・イェニーを妻としますが、エンゲルスはアイルランド出身の娘・エメリーと結婚します。
彼女は、エンゲルスの父親がマンチェスターで所有するの紡績工場で働く労働者でした。
イエニーはインテリ、エメリーはかなり過激なリブ的活動家だったようで、
映画の中でも「私は貧しくても自由が良い、子どもはいらない、妹はエンゲルスが好きだから、
彼女が彼の子どもを産めば良い」なんて言っていました。
女性は立派なのに、エンゲルスは「女たらし」と揶揄されるほど、またマルクスもイエニーの使用人・レンヒェンとの
間に子どもまでもうけていたそうです。
なんとイエニーは実家のメイドをそのまま連れて来ていたのです。
だいぶ脱線してしまいましたが、映画ではこの時代彼らが何と格闘したのか、が実に曖昧なのです。
48年革命こそが二人を根本的に動かしたはずです。
映画は、それをもっと具体的に映像的にも描くべきでした。
彼らの思想もまだまだ未成熟・未分化でした。
共産主義とその革命観、唯物史観と哲学、資本論に結実する経済学などいずれも確立されていません。
当時の思想状況に対する彼らの思想的格闘についても描くべきでした。
この二つを描かないのは、若き彼らの人間的魅力をもほとんど描いていないと言うことです。
映画前半、全く不要の、マルクスと妻とのベッドシーンなどを入れ、冒頭から興ざめでした。
そんな映像より、マルクスもエンゲルスも子どもを背中に乗せてお馬ごっこして機嫌を取ったそうで、
それらのシーンの方がよっぽど気が利いていると私は思います。
いずれにしても、期待した作品であったが故に、大いに落胆しました。
【岩波ホール創立50周年記念作品だそうです。】【5月28日鑑賞】
-----------------------------------------------
以下、蛇足です。
私は、2016年5月、マルクスが生まれたトリーアを訪れました。
トリーアは、ケルンから南西に180kmほど、ルクセンブルクの国境の近くにあります。
  
古代ローマ時代の遺跡の残るドイツ最古の町とも言われているそうです。
200年前のトリーアは想像できませんが、若きマルクスが、大聖堂や黒い門(ポルタニグラ)・浴場跡等の古代ローマの遺跡を見、
散歩してしていたのかと思うと不思議な気がしました。
彼の父はユダヤ教ラビで弁護士でした。
古代ローマ人は、ケルンやトリーアなど今に至る要衝の地を発見し、建設したのはやはり偉大でした。
その時のブログはドイツの旅7/ケルン3・マルクスの生まれたトリーアを訪れる。 です。
その時のマルクスの生家の写真[転載]
   
蛇足ついでに、
中国政府は、トリーア市に「マルクス生誕200記念のマルクス像」を送ったそうです。

序幕から5日後放火にあったそうです。ドイツでは、マルクスの評価は分かれているそうです。  【終わり】

映画/gifted・ギフテッド

2018年05月28日 | 映画


Giftedは、先天的に、平均よりも、顕著に高度な知的能力やそれを有している人のことらしいです。
日本では、ほとんどなじみがありません。欧米や、中国では一定求められているようです。
数学に特別の能力を持つギフテッド少女・メアリーをとりまく物語です。
「一定や普通」とは何か、は見解が分かれる所です。
凡人の私たちは、自分と子どもが「一定・平均」よりちょっと上だけで大喜びです。
ギフテッドの評価が極端にわかれる両者がドタバタする物語です。
メアリーの担任が良いキャラで、彼女とメアリーの育ての叔父さんとが出来てしまうのも良いですね。 
映画全体は、ありふれた所に着地する、面白けど普通作でした。  【5月21日】

映画/はじまりのボーイ ミーツ ガール

2018年05月26日 | 映画


原題は、Le Coeur en Braille 点字で書かれた心。Coeurは心、Brailleは点字だそうです。
邦題は、余りに幼稚、なんてこった です。
結構楽しめますが、普通作です。
失明が近い優等生マリーは、劣等生ヴィクトールをアッシー代わりに使います。
テストの前日、二人は家出します。
このエピソードは良くなかったです。
マリーの父親がヴィクトールをたたきます。それを見たマリーの母親は夫をたたきます。
良いシーンでした。
私は、チェロの音は大好きです。特に低音が。
なのに映画の最後、マリーの演奏がオーケストラになってしまい、興ざめでした。【5月21日】

映画/否定と肯定[Denial]

2018年05月18日 | 映画


面白かったです。でも、映画としては普通作です。
ホロコーストがあったか無かったかを法廷で争うかなり異色の物語です。
ホロコースト否定論者アーヴィングは、ユダヤ人歴史学者デボラがその著書で名誉を毀損したと訴えました。
弁護団は、ホロコーストが存在したことの証明を生存者の証言ではなく、アーヴィングの矛盾・嘘をつくことで、
それを暴くことを主張します。
デボラは頑なに前者にこだわりますが、弁護団はそれを拒否します。
歴史、出来事で何が真実、事実かの判断は簡単ではありません。
日本の、植民地支配、創氏改名、慰安婦問題、南京虐殺、盧溝橋事件、731部隊など近代に限ってもそうです。
特に民族紛争と中近東の内戦、紛争により大量の難民が発生し偏狭なレイシズムとナショナリズムの
うねりで現代の希望であったユーロの内部に生まれた対立・分裂は深刻です。
そんな恐れを感じながら映画を見ていましたが、残念ながら映画のできとしては普通作でした。
特に、デボラがかなりヒステリックに大声を上げるのは特にいただけませんでした。
ホロコーストを否定するアーヴィングの主張ももう少し丁寧に扱う方が良かったと思います。
優生保護法による「不妊手術」の問題は、日本の今の人権を考える一大試金石です。
それは否定できない事実なのですが、そこで被害を受けた人々の名誉と人権の回復は果たして、
なされるのでしょうか。                 【5月7日】

Nocturnal Animals

2018年05月11日 | 映画


捨てた夫から届いた小説草稿を読む捨てた妻の物語です。
サスペンス風で楽しめました。でも、普通作です。
キィワードは、リベンジとノクターナルアニマルズです。
リベンジする主体は誰か、ノクターナルアニマルズは誰なのか、です。
小説草稿の内容もごくありふれたもので、創造性などありません。
私は、彼の作品は、彼に起きた出来事とはじめは思いました。
逮捕され、刑に処せられる前に送られたラブレターかと思ったのです。
そうでもなさそうです。
20年も前に捨てられた男が、元妻に作品の感想を求める「異常」=偏執性が恐ろしいです。
妻は、子ども時代もそして現在もものすごいセレブです。
でもそんな彼女は、現夫の不倫などで満たされず、睡眠薬頼みです。
うつつに見る夢=幻想がノクターナルアニマル=野獣と言うことなのでしょうか?
単数で無く複数になっているのはなぜでしょう?
最後、彼女は、意を決して彼に会いに行きます。
その時、彼女は真っ赤なルージュ・黒いマニキュアを落とし、豊かな胸元は広いですが、
かなり質素な服装で、密かに心躍らせてレストランに向かいます。
しかし、彼は登場しませんでした。
これがリベンジなのですか?

疑問がいくつもあります。
映画の冒頭、異常に太った女性達の踊る場面が延々と続いた意味も不明でした。
カンヌでは無く、ヴェネチア映画賞を受賞したそうですが…。
主演のエイミー・アダムスは、典型的なハリウッド白人美人です。

彼女が主演したビッグ・アイズの私のブログは、ビッグ・アイズ です。  【5月7日】

映画/IT-それが見えたら、終わり。

2018年05月04日 | 映画


私はホラー映画は好まないのでほとんど見ませんが、楽しめました。
ホラーですからストーリーは奇想天外、リアリティなしです。
単純なホラーでは無い魅力を持っているように私は感じました。
主人公は吃音の少年、転校生、母から過保護を受ける病気がちの少年、ユダヤ教のラビの息子、
父親に性的虐待を受けている少女、両親を火事で亡くした黒人少年などで、彼らは、
いつもびくびくしている臆病で、「負け犬(LOSER)」と呼ばれるいじめられっ子達です。
彼らをいじめる不良の少年も警察官の父親から弱虫と脅され暴力を受けています。
実は彼こそ、逆説的にいうとこの映画のシンボルでもありました。
彼は父親の虐待に恐怖して、いわばその恐怖から逃れるように虚勢的に他の子ども達を脅すのです。
舞台は、メイン州デリーで1990年、子ども連続殺人事件が物語が発生します。
子どもたちを誘拐し、食べてしまうピエロ=ペニーワイズが神出鬼没します。

大人にはその姿は見えません。
子どもたちが、恐怖を感じたときそのピエロは出現します。
どうしてピエロなのか、そのピエロは実在しているのかは、わかりません。
90年版ではそれの正体は巨大な蜘蛛の化け物だったそうですが、本作は、第一部ということで、
その正体は明らかにされないまま映画は終わります。
27年後に彼は再出現するそうで、大人篇「第2章」は2019年公開だそうです。
一人の少年が腕を骨折しギブスします。一人の少女がそのギブスに"LOSER"と落書きします。
少年は、Sの字を消してVとし、LOVER と書き換えました。面白かったです。
最大の難点は騒々過ぎる音です。音で脅かすのはいただけません。
ピエロを演じたビル・スカルスガルド 主人公の少年を演じたジェイデン・リーバハー

リーバハーは、『ヴィンセントが教えてくれたこと』でこれまたいじめられっ子・オリヴァーを演じました。
そのブログはここです。