宮古で迎えた朝、外の天候は雨が降ったりやんだりというもので、秋の好天は期待できないというところである。三陸の海を目指すといっても、そううまくいくものではない。
さて時刻表で検討した結果、午前中は宮古に近い浄土ヶ浜で過ごすとして、午後から三陸鉄道で北上、途中の島越からでる遊覧船で北リアスの名勝・北山崎を海上から眺め、臨時快速「さんりくトレイン北山崎」で盛岡に出て新幹線で帰京するということにする。というわけで、宮古駅前からバスに乗り、漁港沿いの集落を回りながら20分ほどで浄土ヶ浜のターミナルに到着。夏の間は混雑防止と環境保護のため、マイカーは入り江に近い駐車場までしか入れず、後は路線バスか徒歩で入ることになる。
浄土ヶ浜からは、40分で島めぐりをする遊覧船に乗船。早くも小雨がぱらついてきたが、まだ傘をささずとも大丈夫かな。
その景観の穏やかさから「極楽浄土のようである」と言われたことから名前がついて浄土ヶ浜であるが、一旦外海にでると、「極楽浄土」からは一転、荒々しい岩の彫刻が立ち並ぶ。ガイドの声によれば、陸地側を「表浄土ヶ浜」、外海側を「裏浄土ヶ浜」というそうで、やはり物事「表と裏」があるものである。
出航してしばらくは遊覧船のパートナーはウミネコ。ところかまわずに舞い、顔のすぐ近くまで寄ってくる。すぐ横で「ウミネコパン」をかざしている観光客がおり、そのパン目がけて飛んでくるので、余計に怖い。鳥類というもの、飛んでいる姿を離れたところから見る分にはきれいだなとか美しいなという思いもするのだが、こう間近に見ると、結構グロテスクである。
さてウミネコも縄張りがあるのか、遊覧船が次第に沖のほうに出ると追跡をやめ、波間に羽を浮かべて休憩する。その間に、リアス式海岸を形成する数々の岩の姿を眺める。断崖絶壁が並び、あそこから飛び降りたらひとたまりもないだろうなというくらいのものである。遊覧船からでしか見ることのできない奇岩も多い。
もっとも、ガイドの声によれば同じ「三陸」といっても、宮古を境とした北と南では陸地の形成の仕方が異なるようで、南側が沈下によるもの、そして北側が隆起によるものという。南側が穏やかな感じがするのに対して、北側の海岸に、山脈がプツンと切れたような断崖絶壁が並ぶのもこの地形の成り立ちによるものとかで、「三陸リアス式海岸」とはいうものの、全て同じ特徴のものと片付けるわけにはいかないようである。
40分の遊覧を終えてやってきたのは、岩手県立水産科学館。三陸の海の成り立ちや、そこで漁業を生業として暮らす人々の生活、そして水産資源についての紹介である。館内中央の大型スクリーンで、岩手の漁業のこれまでとこれからについて、父親と息子の会話形式で紹介するというのをやっており、そのやり取りを聞きながら展示品を見て回る。三陸といえばリアス式海岸。その地形の複雑さゆえに近代の大型港を背景とした工業がさほど発展することはなかったが(釜石は例外かな)、その分、暖流と寒流が衝突する三陸の海を背景とした漁業の豊かさが語られており、時代にあった漁業の進め方を行う中で、次世代にも漁業の素晴らしさを伝えてほしいというストーリーである。
漁業といえば記憶に新しいのが、燃料費の高騰を受けてこれに抗議するという意味合いでの「操業中止→デモ」というのがある。問題が燃料費の高騰だけにとどまらないというのが深刻なのであるが、第一次産業で成り立っている自治体としても死活問題である。いろいろな制約があるのだろうが、こうした県立の施設でも、漁業について紹介するのであれば、もっと昨今の漁業を取り巻く問題についてドラスティックに語ってもいいかなと思う。その方が、観光客へのインパクトも大きいのではないだろうか・・・。
水産科学館を出て、奥浄土ヶ浜に出る。先ほど遊覧船で見た入り江であり、外の岩が壁になってこの海岸にはほとんど波が立たず、水も透き通っている。晴れていれば海面がエメラルド色になるということで、その意味で天気が悪いのは残念。
実は前日とこの日、この浄土ヶ浜を舞台に「秋刀魚づくし」というイベントが行われている。三陸の秋の味覚・秋刀魚をいろいろに味わえるということで、昼食はこれで決まりである。
受付のテントで参加費1000円を支払うと、料理の載ったお盆をくれる。載っているのは生さんま1尾、さんまの天日干し1尾、ほたて貝1枚、さんまの甘露煮、刺身のパック、まいたけご飯、そしてつみれ汁を入れるお椀。面白いのは、「秋刀魚づくし」といっても漁師が大型の網で焼いたさんまを参加者に振舞うというのではなく、さんま2尾にほたて貝は「自分で」炭火のかかった網で焼くというもの。ごちそうと体験イベントが合わさった形である。
小雨がぱらつくのでレストハウスの軒先に網が置かれ、参加者は自分のさんまとほたて貝を網に載せてしばし焼き上がりを待つ。さすがは旬のさんま、脂が垂れて火の勢いも強くなる。塩をかけたり、はさみでひっくり返したりワーワーやること20分、ようやくさんまの焼き上がり。
つみれ汁を注いでもらい、レストハウスの中で豪華な昼食。1000円でこれだけのボリュームはなかなか食べられるものではない。居酒屋でプロが焼くより見栄えは多少悪いが、生焼けにならず、黒焦げにもならず、ほどほどにできたのではないだろうか。一つ注文するとすれば、「大根おろしがあればなおよかったかな・・・」。
美しい海岸をめでつつの秋刀魚づくし、これには大満足である。
さんまは目黒ならぬ宮古に限る・・・かな?