5日に行われたオリックス・バファローズ対千葉ロッテマリーンズ戦は80年代の近鉄バファローズの復刻ユニフォームを着用しての試合。私もこのために帽子をはじめとしたグッズを買い込んだり、ユニフォームを誂えたりして楽しみにしていた試合である。内野自由席に、「混戦BB会」の鈍な支障さんとともに現れる。
「80年代」とはいうもの、今季の復刻イベントでのメインテーマは1988年の川崎球場での「10・19ダブルヘッダー」、そして翌年西武ライオンズを破っての優勝、この辺りである。近鉄いてまえ打線がパ・リーグに、いや日本中に旋風を巻き起こした時期と言っていいだろう。
・・・そして、私たちにとっては、本来であれば一緒に観戦するはずであったが先月に急逝した大和人さんの追悼試合の意味合いがある。バッグには彼の写真を忍ばせてきた。以前の記事にも書いたが、これまで共に観戦した試合では「引き締まった投手戦で短時間で試合終了」というためしはなく、たいがい乱打戦か、投手交代ばかり見せられるだらけた試合か、延長戦、4時間超え、さらには何かミラクルかトラブルが起こるといったところである。果たしてこの日もそのようなことになるのだろうか。
さて試合前のメモリアルピッチ。「10・19」の第一試合、代打で同点二塁打を放ったお祭り男・村上隆行氏の登場である。現在も関西独立リーグで監督を務めるだけあってまだ若く、試合前のトークでは「135キロ出す」とか言っていたそうだ。
結局125キロというスピードガンであったが、キレのある投球でスタンドを沸かせる。
「10・19」か・・・。試合前、試合中には当時の場面や選手たちの証言が流れる。ABC安部アナウンサーの「ディス イズ プロ野球!!」という名実況も聴けた。
メンバー紹介が終わり、ふと審判の名前を見ると「二塁 佐藤」とある。この佐藤純一塁審は元近鉄の選手。「10・19」の第一試合で代走で出場し、鈴木のヒットで本塁に戻ろうとするも間に合わず、結局三本間に挟まれて憤死、涙を流したという選手である。立場が審判となった今、この復刻試合にどのような気持ちで臨んでいたのだろうか。そんな話も鈍な支障さんと交わす。
さて試合。オリックスはフィガロが先発。「速いボールあるのに何で勝てないのかな」などというが、初めからどうもコントロールが決まらない。確かにスピードはあり、150キロは軽く超え、最高で155キロまで行く。打者のほうが打ち損じてくれて序盤は無失点でしのぐ。
一方のロッテ先発はプロ初となる中郷。こちらもなかなかイキのいい投球であるが、スケールズ、後藤がそれぞれ詰まりながらも連打を放ち早速チャンス到来。
ここでT-岡田が二遊間を破る先制タイムリー。この日大勢の近鉄ユニフォームで埋まったスタンド(といっても、上段席は内外野とも「80年代のパ・リーグのような光景」であったが・・・)が沸く。
続くバルディリスもライトへ。ちょっと浅いかなとも思ったが二死でランナー後藤ということで三塁コーチは躊躇なく腕を回す。そこで本塁に突っ込んだが送球のほうが早く追加点ならず。歓声がため息に変わる。何だかこの後嫌な展開になりそうな・・・。
この後はフィガロ、中郷ともランナーを許すが何とかしのぐ投球。それにしてもボール数が多く、イニングの終了に時間がかかる。「ひょっとしたら、また4時間ペースでしょうか。また波乱含みで」と支障さんと話す。
そんな直後の4回、ロッテの4番ホワイトセルがちょこんと当ててレフトへ。するとこれが意外にも伸びてスタンドに入る。あっさりとロッテが1対1の同点に追いつく。
これでリズムが崩れたか、続く角中、サブローに連続四球。犠打で進塁したところを8番田中が前進守備の間を抜くタイムリーで2点追加。田中は二塁を欲張って狭殺プレーでアウトになったがこれで3対1。何だか嫌な展開になってきた。
そして、乱戦模様となったのがその裏。先頭のバルディリスが左中間への大きな当たり。私たちのいた一塁側上段席からはフェンス上の看板のところで入ったように見えた。1点差となる一発でスタンドは大いに沸いたが、その直後に怒号に変わる。二塁塁審が二塁打という判定をしたのだ。
審判団が集まり、ビデオ協議に入るという。二塁といえば・・・そう、佐藤塁審。「佐藤純一!絶対入っとるやろ!」「お前も近鉄の選手やったやろ!」というヤジが飛ぶ。私たちも「あの10・19のことで何かわだかまりを持っているのかな」などと話す。「こんなところにも10・19があったんやな・・・」
それにしても、ビデオ判定をやるのはいいのだが、バックスクリーンには大型ビジョンもあるのだし、凡打でもリプレーをやるのに、こういう時に限って何もやらないのはどういうことだろうか。テレビで見る分には何回も繰り返し映し出されるが、球場に足を運んでいる客に対しては失礼なことではないかと思う。
結局、判定は覆らず無死二塁で試合再開。ただこの後、竹原、伊藤が続けて大きな外野フライ。タッチアップ2回でバルディリスが生還して3対2と詰め寄る。まあ、結果は本塁打と凡打2つと変わらなかったが・・・。
フィガロは4回で降板、5回に二番手の古川も井口にタイムリーを打たれて4対2とリードが広がる。俊足バッターを配置し、ヒットをコツコツ続けて得点を挙げるロッテらしい攻撃にオリックスは劣勢。
その裏、ロッテも先発の中郷から橋本に交代。2点を追う展開ながら川端が死球、スケールズのヒットで無死一・二塁と追い上げのチャンス。ここで後藤の打球はレフトへ。角中が懸命に突っ込むがわずかの差でワンバウンド。急いで二塁に送球すると、二塁の佐藤塁審がアウトのコール。この展開にまたスタンドが騒然とする。何がどうなったのやら。ここで岡田監督が抗議にでる。
岡田監督、審判団、ロッテの内野陣の言い争い。しばらく審判団と話していた岡田監督はベンチに引き揚げてきたが、今度はロッテ内野陣が納得いかない感じで審判団に詰め寄る。そこに西村監督も登場。うーん、「10・19」の時も近鉄・中西コーチが鼻をかみながら審判に詰め寄ったり、ロッテ・有藤監督の「制限時間が迫る中での9分間の抗議」もあったなあ。「佐藤!またお前か!」「有藤出てこい!」というヤジも飛ぶ。何もそういうところまで復刻しなくても・・・。
主審の説明もよくわからなかったが、帰宅後にテキストを確認したところでは、レフト前のワンバウンドで打者後藤はセーフ、セカンドへの送球で、一塁走者のスケールズがフォースアウト、直接捕られたかと思い二塁に戻ってきた川端はセーフ。ということで一死一・二塁で試合再開。
こうなればスタンドのファンも熱くなる。次は主砲・李大浩。しかし空振りの三振に倒れる。いやそれでも浪速の轟砲・T-岡田がいる・・・。
3球目を鋭く振りぬく。すると打球は一直線に右中間スタンドへ。ゴタゴタしたムードにケリをつけるべく、一発で決めた逆転3ラン。
・・・T-岡田が戻ってきた時、私の目には涙があふれていた。「・・・これは、大和人さんが打たせてくれたんだ」と。別にT-岡田には関係のない話ではあるが、何だか大和人さんが今日はスタンドのどこかにいて、「やっぱり我々が来ると試合がもつれるんですね」と言っているような気がするのである。
これで5対4と試合がひっくり返る。後は中継ぎから平野、岸田とつなぐ展開。そして迎えた7回表。この回から4人目の中山が登板。一死一塁から角中の二遊間への当たり、ショートの安達が回り込んで一塁送球・・・が低くて李大浩が後ろにそらす。これで二・三塁となったところで平野が登板。
ところがサブローが鮮やかに流し打ち。これで2者が生還して6対5と再びロッテがリード。ここまでシーソーゲームになるか。
「近鉄バファローズの歌」が流れた7回裏、いてまえ打線の逆襲。まずは先頭の川端が二塁打、「スケさん、こらしめてやりなさい」のスケールズが四球で続く。後藤凡退で李大浩がストレートの四球。一死満塁というまたとない場面で迎えるはT-岡田。当然、もう一本期待するところ。大和人さんの奇跡は再び起こるのか。
・・・ところが、現実はそううまくはいかないもの。ここで交代した薮田の前に力のない二飛、続くバルディリスも遊ゴロに倒れ、スタンドからは悲鳴があがった。
オリックスは岸田も投入し結局6対5のまま9回へ。ロッテのマウンドは薮田に代わって抑えを任されたルーキーの益田。サイドスローからの投球に「李大浩まで回せ!」の応援もむなしく川端、スケールズが凡退。後藤も空振り三振・・・・がファールの判定となり一度は命拾いしたが、最後はライナーに倒れて試合終了。3番手の南昌輝がプロ初勝利、最後の益田にプロ初セーブがついた。ヒーローインタビューは逆転打のサブローではなく、プロ初勝利の南。和歌山出身ということで「大阪の皆さんの前で勝ててよかったです」というコメントであった。
9回までで3時間53分。「やっぱり、我々らしいドタバタした試合になりましたね。大和人さんも喜んでますよ」と鈍な支障さん。残念ながら白星をプレゼントすることはできなかったが、「らしい」試合ということで、追悼試合としてこれからも私たちの心の中に残るのかな、という気がした。
・・・これからも天国で、「熱戦」を見守っていてほしいと思う・・・・。