津山駅に戻り、みまさかスローライフ列車の入線のアナウンスを聞いて急いでホームに上がる。幸い、出発まで1時間近くあるということでそれほど大勢の乗客がいたわけではないが、3両の気動車のボックス席はそれぞれ「一番乗り」の客が占領することになった。
私も辛うじてボックス席を確保することができた。最初にこれができるかどうかで、この先の旅のアドバンテージを得られるかどうかというところがある。
それにしても早々とホームに来たものである。前日の列車ではホームで記念式典もあったようでもっとごった返していたそうだが、この日はまだホームをぶらつくだけの余裕はある。津山駅のホームも昔ながらの造りが残されており、気動車とよく合う。まずは列車をゆっくり撮影する時間があるというのがよい。
少しずつ乗客がやってきた。それぞれボックスに相席になったり、ロングシートに陣取ったりとあるが、乗客が「殺到」するというところまではなかった。ただ、乗り合わせた人の会話を聞くに、前日は「これまでの運転で最も乗客が多かったのではないか」と言われるくらいの大勢の客で、それこそ通路まですし詰め、スローライフどころか、山手線、大阪環状線並みの混雑ぶりを見せたという。恐るべし「鉄道ブーム」。
この日は日曜日ということもあったのか、あるいは朝から降り続ける雨のせいか、そこまでの混雑にはならないようである。こういう列車に発車間際に飛び込んでくるという人はそういるものではなく、ある程度の時間が来たところでも、ボックス席でもまだ若干の余裕がある(座席に置いた荷物をどかさなくても、立ち客が出るところまでには至らなかった)という乗車率。まあ、このくらいなら「スローライフ」も楽しむことができるか。
発車時刻となり、智頭に向けて出発。臨時列車とはいえ各駅に停車していく。まずは津山の市街地を東に向けて走り、東津山から高野へ。雨の中ではあるが沿線に三脚を立てる人たち、あるいは家の庭先に出て列車を見送る地元のご夫婦の姿も見える。地元の人たちにも知られるようになったイベント列車ということのようだ。
スローライフということなら、地酒片手に揺られるのはいかがですか・・・・ということで、コンビニで仕入れた中国勝山の「御前酒」のワンカップを片手に、いざ因美線の旅へ・・・。
高野の次は美作滝尾。ここは木造の駅舎が残る駅で、映画「男はつらいよ」のロケ地にもなったという。山田洋次監督がその風情を気に入ったということでロケ地採用となった。その木造駅舎がスローライフにマッチするということで、停車時間を長く取って駅舎の観察と地元のおもてなしの時間ということになる。
雨の中、気動車が到着すると、駅前の道の両側に立てられたテントから一斉に大きな拍手が沸く。地元の人たちによるお茶やコーヒーの無料サービス、あるいは弁当や焼きそばの販売、果ては地元の福祉施設でつくったパンとか、野菜、米も売られている。一斉に「いかがですか!」の声がかかり、傘を持った乗客たちが両側にうろうろする光景が広がる。うーん、晴れていればよかったのだが・・・。
そしてそんな中で獅子舞の踊りも披露される。見物客も一斉にカメラを向け、若い衆の踊りに拍手を送る。
・・・ここでは20分あまり停車するのだが、実はこういう熱気というのは最初の数分。まず駅前に出て、飲むものを飲み、買うものを買えば(駅舎の中で立って焼きそばをすする乗客も結構いたが)、後は落ち着くものである。
一通り行事を済ませた乗客は車内に戻り、ある程度客がいなくなると木造駅舎の観察もゆっくりできるようになる。
普段はほとんど乗客もおらず、静かなたたずまいであろう美作滝尾駅だが、たまにはこういう賑わいがあってもいいだろう。ふらりとやってきた乗客の一人でもこの駅舎にほっとするものや、改めて美作の豊かな里山風景に惹かれればプラスになることだから。
停車時間も終わり、最後は地元の皆さんがホームに出て列車のお見送り。車内からも結構手が振られる。昔の汽車旅の風情が再現されたようで、結構いい感じである。なるほど、スローライフ列車はこんな感じで進んでいくのだな。
この先の主な駅でもこうしたおもてなしがあるそうだ。雨の中であるが、これからどうなるか楽しみである・・・・。