そろそろ日が傾き始めた伊勢中川駅。ここから近鉄名古屋までは78.8キロ。山陽姫路から近鉄名古屋までが282.2キロだから、残り4分の1の行程となる。この区間はそれこそ特急で走り抜けることがほとんどで、各駅停車に乗るのは初めてである。
やってきた15時54分発の白塚行であるが、この白塚から伊勢方面の賢島までの各駅停車にはワンマン列車が走っている。近鉄の他の路線でもワンマン運転を行っているところはあるが、こちらのように運賃箱が運転台のところにあり、無人駅では一部のドアしか開けないという本格的な運転に会うのは初めてである。近鉄もバラエティに富んだ特急という花形がいる一方で、地方路線の苦戦も強いられている。先日話の上がった内部・八王子線の廃止論議や、こうしたワンマン化というのもまた一面である。
やはり一部の駅では前の車両のドアだけが広がる。さすがに皆きっぷや定期券を持っているようで運賃箱に現金を入れる人はいなかったが、「近鉄もこうなったか」という複雑な思いを持つ。
津でホームの向こうにJR紀勢線の気動車に出会うなどして、伊勢中川から20分で白塚に到着。車庫のある駅で、各駅停車はここを境に名古屋行と賢島行に分かれるようである。ホームの向かいに3両の名古屋行。今度はさすがに普通のロングシート車両である。この旅で最後の列車ということになる。山陽姫路から数えて11本目である。
豊津上野、千里、磯山という、初めて聞くような名前の駅に停まっていく。この辺りに住む人というのは津とか四日市とかに通勤する人が多いのだろうか。あ、その間に鈴鹿というところもあるな。
その鈴鹿の玄関駅である白子に到着。ここで特急と急行を通すために10分停車となる。そろそろ辺りも暗くなり、風も冷たくなってきた。乗り換えの客も列車が来るまで各駅停車の中で座って待つ。外ではその寒風の中、おそらく次の総選挙に出るであろう某党の候補者(タスキから見るに「本人」という方なんだろう)がマイク片手に演説中。ダイヤに少し乱れがあったようで、先行列車はそれぞれ5分ほど遅れてやってきた。そのために各駅停車も5分遅れでの発車。これで外も暗くなり、景色もほとんど見えなくなってきた。
こうなると後は淡々と進むだけ。駅ごとに乗客が増えてきて、立つ人も出るようになってきたところで四日市に到着。ここでも特急に急行をやり過ごす。まだ17時を過ぎたところだが、もう19時くらいの感じである。それにしても、朝から9時間経過してまだ三重県というのも、恐るべし各駅停車。
この先、四日市近郊の利用客と、名古屋へ向かう客の入れ替わりが結構ある。桑名を過ぎ、揖斐川、長良川の鉄橋を渡る。暗闇の遥か向こうにナガシマスパーランドのジェットコースターの照明が見える。伊勢長島といえば夜のイルミネーションが名高い「なばなの里」がある。近鉄でも盛んにPRし、急行の臨時停車も行っている。イルミネーションは一度も見たことがないので、どんなものか行ってもいい。ただし今日はだめだ。
駅ごとにドアが開いて冷たい風が来るからか、途中で眠気を催すこともなく来ることができた。暖房がよく効いていたら夕方の時間帯となるとウトウトとするところであった。蟹江で列車を先行させた後は、路面図を見て名古屋までのカウントダウンを始める。そのうちJRの気動車車両も見えてきて、名古屋が近づいたことを教えてくれる。
そして地下にもぐり、18時16分、定刻より4分遅れて近鉄名古屋に到着した。山陽姫路を出てちょうど10時間が経過したところ。おそらく、この旅のきっかけとなった毎日新聞の記者氏と同じ列車での到着となった。やれやれ、お疲れさんである。
夕食にはほどよい時間ということで、新幹線側に出たすぐの居酒屋「鶴八」に入る。名古屋の郷土料理がいろいろあるので、「世界の山ちゃん」とはまた違った名古屋らしさを味わえるところである。まずはビール1杯。今回は食事でも途中下車というのができなかったし、ロングシート車両となれば「飲み鉄」をすることはできない。別に仕事をしたわけではないが、一つの区切りということで、ビールの喉越しを味わう。
三河の地鶏の刺身や手羽先、鶏ちゃん鍋などで人心地ついた。帰りは21時発のアーバンライナーである。それまで時間がある。何でも駅前にイルミネーションがあるとのことで、「なばなの里」には行けないが名古屋に来た記念ということでしばし見物しよう。
JR名古屋駅のセントラルタワーズ、そして名鉄、近鉄の名古屋駅ビル。これらとのコラボレーションが美しい。しばし、寒さを忘れて見物する。この旅を応援してくれた方にも携帯メールで、旅のせめてものお裾分けをする。
そして帰りは、近鉄の各駅停車6時間を一気に2時間で巻き戻す特急アーバンライナーの乗車である。近鉄名古屋での特急の発車メロディであるワルツ「ドナウ川のさざなみ」に送られての発車。それにしても、近鉄でなぜ「ドナウ川のさざなみ」なのか。ネットでいろいろ検索してみたがはっきりした答えがみつからない。最後に聴くとちょっぴり切なくなるが・・・。
帰りの特急は暗闇の中を快走する。ナガシマスパーランドの灯りも見えなくなったし、西青山駅などはいつの間に過ぎたのだろうか。充実感と徒労感の両方を味わったような一日であった。
それでもふと、「これの逆コースをやったらどうなるだろうか」と思ったりする。いや仮にやったとしても、今度は途中下車してあちこち歩きながら、3日間くらいかけてやるとするかな・・・。