水都・大垣に宿泊した翌日。秋晴れの好天に伊吹山もくっきりと見える。線路際とあって前夜は貨物列車の通過とか、朝も早くからムーンライトながらの到着やら接続の加古川行き(JR西日本の車両が乗り入れてましたな)の発車やらで窓の外が忙しい。でもまあ退屈することもなく、アパホテルは鉄道好きにはお勧めのホテルといっていいだろう。
朝食後、市街地を歩く。大垣といえば江戸期は戸田氏の治世にあった城下町だが、それよりも有名なのは松尾芭蕉「奥の細道」の結びの地としてである。復元された大垣城の天守閣を仰ぎ見て、かつて揖斐川から伊勢湾に続く水路の拠点である大垣の港に近い「奥の細道結びの地」跡に出る。大垣には松尾芭蕉と親交のあった谷木因という人物が居り、そのために「奥の細道」も結びになったという。私の自宅の近くには「奥の細道」の旅に出た千住宿があるのだが、今回大垣に直接来たことで、松島も平泉も最上川もどこかにぶっ飛んでしまった「奥の細道キセル旅」のような感じである。
奥の細道の資料館や大垣市の郷土館を見学した後、大垣駅に戻る。時刻は10時を回り、そろそろいい頃になってきた。
この日は私が最近所属することになった旅のサークルの集会の日で、今回の目的地が樽見鉄道乗車というものだったのだ。その集会に初参加ということで大垣までやってきたということ。樽見鉄道のホームまでやってきたが他の参加者の姿はまだなく、樽見鉄道の一日フリーきっぷと「うすずみ温泉」の入浴券と1000円分の食事券がついた「うすずみ温泉ゆったり食事プランクーポン」を3000円で購入。
集合時間になり、他の参加者も続々とホームに集まる。中には前日私と同じアパホテルに宿泊していたという人も。うーん、フロントなり朝食会場で顔を合わせてもよさそうなものだが、近いようで遠いものだ。で、本日はこの「うすずみ温泉」のクーポンを窓口で購入する、ということになっていたのだが、他にも同じようにクーポン券を求める客が窓口に並び(中にはこういう時に限ってややこしい注文をする客も)、その一方で事務の係員がホーム上の案内をしなければならないという忙しさのためにそれらをスムーズにさばけず、結局列車の発車が数分遅れた。私も集会初参加だが、出発が近いので皆さんへの挨拶もそこそこに乗車。
乗ったのは、国鉄から経営を引き継いだ樽見鉄道が最初に導入したという車両。この頃製造された小型車を指して「レールバス」と呼ぶのだが、その1両のレールバスは立ち客も大勢出るほどの盛況。サークル一行も吊革につかまっての出発。観光客だけではなく地元の家族連れや高校生くらいのグループも多い。
東海道線としばらく並走し、進路を北に向ける。大垣近郊の住宅地の一方、柿の畑が目に付く。これまで知らなかったのだが、大垣とは元々「大柿」という地名だったそうで、やはり柿が名産なのだという。柿では酒のアテにならないので気づかなかったのだが・・・。最初に柿を見て「みかん?」と言っていた人がいたが、みかんはこんな平地にはならないぞ。
しばらく吊革につかまりおしゃべりしながらの乗車。新しいショッピングモールができたという「モレラ岐阜」で家族連れや高校生たちが下車し、樽見鉄道の基地がある本巣では、かつてこの線を貨物輸送や客車列車牽引で活躍したDE10を見る(樽見のTをつけて、「TDE10」と名乗っている)。ただ、今の樽見鉄道は貨物も廃止になり、客車を引くこともなくなったので完全に放置状態。これからどうなってしまうのだろう。
谷汲口で華厳寺への参詣客を降ろし、このあたりから車内も空いてきた。吊革につかまっていた一行も着席し、車窓に目を凝らす。樽見鉄道の車窓のイメージとして、大垣近郊の田園地帯を行くのかなというふうに思っていたのだが、段々と両側に山が迫り、並走する根尾川の渓谷にも魅せられるようになる。
車内が観光客ばかりになったのを見計らって、運転手が車窓のスポットやら、鉄橋で根尾川の渓谷が見られるポイントをアナウンスする。鉄橋の上では徐行するサービスもやってくれ、乗客たちも立ち上がって左右の景色を見やる。もっと季節が進めばさぞかし紅葉のきれいなところだろう。樽見鉄道、なかなか変化のある車窓である。
終点一つ手前の水鳥(みどり)駅の近くには有名な根尾谷断層があり、運転士も「あのあたりに見えます」と徐行するのだが、結局わからなかった。かくして、大垣から乗ること1時間ほどで、ホーム1本きりの終点・樽見着。山を越えれば福井県という、その手前のどん詰まりのようなところである。運転手および同行者の話では、もともと樽見の駅舎というのもあったのだが、今年に火災で焼け落ちてしまったという。そのために、ホームの前に中途半端なスペースがガランと広がっているように見えるのだ。
さて、ここからサークル一行は、クーポンの目玉でもある「うすずみ温泉」に向かう。列車の到着に合わせて無料の送迎バスが出ており、これに揺られること10分で到着する・・・・。