大津から長浜に来て、竹生島に渡る。竹生島にある宝厳寺は西国三十三所めぐりで訪ねたこともあるが、神仏霊場めぐりの札所でもある。いずれにしても、船でなければ訪ねることができないというのはある意味難所である。特に冬の時季は観光船の便数も限られている。広島からだと訪ねるまで結構大変なので、この年末年始、当初の目的地が京都だったこともあり、もう少し足を延ばしてみようということで指名した。
長浜12時50分発の便に乗る。大津で初日の出クルーズに乗ったこともあり、長浜発はこの時間となった。ここでも旅行会社の旗を持った添乗員が案内する団体に出会う。ひょっとしたら琵琶湖初日の出クルーズにもいたかもしれない。話の内容から、西国三十三所めぐりというよりは正月の滋賀であちこちお参りしようということで、さらに三井寺の除夜の鐘にもいたのでは?と推察してしまう。これでもし大津から長浜に来るまでに多賀大社にも参詣していようものなら、元日の滋賀のスポットを満喫するツアーである。
竹生島に向かうのは高速船タイプの「リオグランデ」。琵琶湖汽船もさまざまなタイプの船舶を用意している。竹生島まで30分ほどということもあり、2階のベンチ席に陣取る。まずは穏やかな長浜港を出航する。
そして湖の風を受けて・・・となれば旅の風情も高まるものだが、元日である。雨や雪は降っていないが、高速船ということで向かい風を受ける。そして波も高い。さすがに波しぶきが入ることはないが、結構揺れる。途中、1階のデッキにも下りてみるがどこかにつかまっていないと転倒しそうだ。
その中、前方に竹生島の姿が見えて来た。ここまで来れば一安心である。少しずつ船着き場を含めた宝厳寺、竹生島神社の姿も大きくなる。
船着き場に着く。14時40分発の折り返しまで1時間20分、島での滞在となる。やはり冬というためか、以前に訪ねた時よりも上陸客の姿は少ないように思う。
島の上陸料を納め、まずは宝厳寺への参詣ということで長い石段を上る。165段の石段は「祈りの階段」と呼ばれているが、その段数の割に勾配が急なので、一歩一歩がきつい。
そして境内に入る。行列ができているわけではないが、滞在時間が限られていることもあり先に朱印をいただく。ここでも、西国三十三所の重ね印と、神仏霊場めぐりの朱印である。なお、西国三十三所の朱印はこの下にある観音堂「大悲殿」であるが、神仏霊場めぐりの朱印は本堂の本尊である「弁才天」と記される。
宝厳寺は聖武天皇の勅願により行基が開いたとされるが、聖武天皇の夢枕に天照大神が現れ、琵琶湖に浮かぶ小島は弁才天の聖地で、ここに寺院を建立すると国家泰平、五穀豊穣、万民豊楽となるだろうとのお告げがあったという。後に伝教大師、弘法大師も訪ね、豊臣秀吉の保護も受けた。
竹生島の弁才天は江ノ島、宮島と並び日本三大弁才天の一つとされる(組み合わせは諸説あるが)。ともかくここでお勤めとする。
多宝塔を経て、観音堂に下りる。これまで訪ねた時は観音堂、そして玄関の唐門は大規模な修復作業中だったが、6年をかけた作業を経て2020年4月に完成したとのことで、鮮やかな姿を見せている。この姿を見るのは初めてだ。檜皮葺の屋根の葺き替え、内部の漆の塗り替えが行われ、別の寺に来たかのようである。こちらの観音堂でもう一度お勤めとする。
舟廊下を伝って竹生島神社に出る。宝厳寺、竹生島神社と今はそれぞれ別の寺社の扱いだが、明治以前はモロに神仏習合の世界だった。竹生島神社の祭神である市杵島姫命(宗像三女神の一つ)と弁才天とは同一視されていた。訪れる人も、迎える寺社側も、そこまで厳密に区切っているわけではない。
こちらでは龍神拝所から、湖に突き出た鳥居に向けてのかわらけ投げが名物である。かわらけが鳥居の間をくぐると龍神が願いを叶えてくれるというので、挑戦するツアー客の姿も見られた。そのうちの一投が見事鳥居の間を抜け、拍手も起こる。新年早々、いいことがありそうだ。
おっと、ここで神仏霊場めぐりの次のスポットを選ぶくじ引き&あみだくじである。今回出たところには、中1日おいて1月3日、広島に戻る前に訪ねることにする。
くじ引きで出たのは・・
・帯解寺(奈良5番)
・松尾寺(京都52番)
・熊野本宮大社(和歌山4番)
・西宮神社(兵庫2番)
・闘鶏神社(和歌山5番)
・仁和寺(京都12番)
京都は京都でも、松尾寺は舞鶴にある西国三十三所第29番の札所で、もし行くとなればそれだけで1日がかり、天橋立とセットでレンタカーも使うことになるだろう。大阪から広島へは安く上げるべく高速バスで戻る予定にしていたが、松尾寺まで行ったのでは間に合わない。夜の新幹線利用となるか。そして、ここで熊野本宮が出るか・・。熊野三山はそれだけで1泊2日かけて回ることになるだろうから、今回では無理である。
その中であみだくじで出たのは・・・3枠に入った帯解寺。ここなら奈良ということで無理なく行けそうだ。思わずほっとする。
これで観光船乗り場に向かう。先に長浜から一隻の高速船がやって来るが、こちらは「貸切」の表示がある。正月に琵琶湖周辺の初詣スポットを回るツアーだろう。
その後に、往路に乗船した「リオグランデ」がやって来る。何だかマンションの名前のようだが、元々はスペイン語で「大きな川」という意味だそうだ。見る人が見れば、琵琶湖は湖ではなく「大きな川」になるのかな・・。まあ、かつて瀬戸内海を見て「日本にも大きな川があるんですね」とのたまった中国の要人もいたので、そういう見方もわからないでもない。その一方で、琵琶湖を湖と思っていたら海に漕ぎ出すようで、冬の比良おろしで水難事故に遭った人もいた。だから「湖」といっても「海」と同じようなものだ・・という向きもある。それが琵琶湖の面白さの一つと言えるだろう。
先ほどはデッキで大いに揺れたので、暖かい客室に入る。逆に最前列の席に陣取る。こちらはこちらでまた波立てて進むのだが、この先は戻るだけだし、外にいるよりはホッとできる。
長浜港に無事に到着し、そのまま駅に向かって新快速に乗る。前の記事にも書いたが、せっかく宝厳寺を訪ねたのに、JR西日本の「駅からはじまる西国三十三所」のデジタルスタンプを改札口で取得するのを忘れてしまった。これは長浜八幡宮を脇からお参りしたことの罰当たりとして受け止め、いずれ取得しなおすことにする。
新快速でそのまま走り抜け、大阪に到着。元日の夜は意外なところでの宿泊となった・・・。