ウィンザー通信

アメリカ東海岸の小さな町で、米国人鍼灸師の夫&空ちゃん海ちゃんと暮らすピアノ弾き&教師の、日々の思いをつづります。

ゲーム狂想曲

2009年05月27日 | 家族とわたし
それはそれは長い狂想曲です。かれこれもう17年になります。
我が家にゲーム機が参入してきたのは、わたしが息子達を連れて前の婚家を出た、1992年の初夏でした。
陽の当たらない隠れ家のような、五軒長屋の一番奥の、昔置き屋だった小さな家で、親子三人だけの生活が始まりましたが、
当時のわたしは、自分で決心して行動したにもかかわらず、罪の意識と自己嫌悪に苛まれていて、昼間はなんとか普通を取り繕えましたが、夜になって息子達が眠った後、ウナギ床の狭い台所のシンクの前で膝を抱え、激しく泣いては吐き、また泣いては吐くという毎日を送っていました。
わたしに怒りを覚えながらも、それでもなんとか支えてやろうと思った父が大阪から大津にやって来て、
「これで遊んで元気出しや。ほんで、おかあさん助けたりや」と言いながら、息子達の小さな手に、四角い箱を乗せました。
その当時流行り出したゲームボーイでした。
息子達は小躍りして大喜び。わたしは内心、なんてことしてくれんのよぉ~と思いつつ、父の想いはありがたかったので、笑ってお礼を言いました。

ゲーム機を子供が手にするのをできるだけ遅くする。これは、子育てをする上での最重要項目でしたが、呆気なく却下されてしまったわけです。
週末だけ、わたし達の様子を見に通っていた今の旦那が、嬉々としてゲームに熱中するTとKを初めて目にした時の顔が忘れられません。

息子達とわたし達の、ゲームというお化けを挟んでの闘いが始まりました。
特にKは、どういうわけか、やり始めた頃から、どんな種類のゲームでもちょちょいのちょい、
ローリングゲームであろうが、戦闘ゲームであろうが、もうなんでもかんでもおかまいなく制覇してしまうのです。
Tもそこそこうまかったのですが、Kにはかないません。それで兄弟喧嘩にもなりました。意地になって練習して、Tも周りの子供よりはかなりうまかったようです。
Kとゲームで対戦したさに、いろんな子が毎日のように遊びに来ました。
テレビの前に群がる男の子達。外はいい天気なのに、ちっとも外遊びしなくなった息子達。
なんとか外に出そうと、自転車やフリスビーやローラーブレードなどをクリスマスや誕生日に合わせて買ってもらったり与えたり、
週末になると、近くの公園に無理矢理引っ張り出して遊んだり、
巨大な磁石に引き寄せられる息子達を、なんとかこちら側に留めておきたくて、毎日のように旦那とわたしは知恵を絞り合いました。

日に日に大きくなるにつれ、じわじわとゲーム時間が増えていきました。
その時間をなんとか減らそうと、時間割を作ったり、自己申請用紙に記入させたり、家族会議を設けたり、
ゲームお化けにしっかり抱き込まれたふたりの足首を掴みながら、わたし達の気持ちを聞いてもらいたくて、ずっと叫んできたような気がします。

家族四人で京都の合気道道場に通っていた頃、その時も相変わらず悩んでいた旦那がふと、道場の先生に尋ねてみたそうです。
「どうしたら、息子達のゲーム熱を冷ますことができるでしょう?」
「それはねえ、やりたいだけやらせることだよ。ダメだと言われたら余計にやりたくなるでしょ人間って。やりたいだけやったらいつか飽きますよきっと」
それもそうだと思った旦那は、それまでの路線をころりと変えて、やりたいだけやらせてみようかと言い出しました。
とりあえず、平日は一日にできる時間を制限し、週末はやりたい放題、ということにしてみました。

それからも、数えきれないほどのルールが作られては破られ、変更されたり無視されたり、たまには守ったり、親も子供も山盛りのため息をついてきました。

そしてこちらに引っ越してきて、Kはある特定の戦闘ゲームで、アメリカの東海岸のチャンピオンにもなりました。
彼を取り巻く男の子や大人の男性は数多く、時にはとんでもなく遠い州からKに会いに来る人もいます。
好きなこと(ゲーム)が得意だから、遊んでいる時は楽しくてしょうがない、とKは言います。そりゃそうだ、とわたしも思います。
でも、彼が見失ってきたもの、経験し損なってきたもの、無視してきたものの多さを考えると、わたしはどうしても虚しくなってしまいます。
Kは、野球もテニスもバレーボールも、すぐにうまくなったし、良い選手になると太鼓判も押されました。
ドラムセットもティンパニーも、それからピアノも、別に専門家について学んだわけでもないのに、人にちゃんと聞かせられる曲が少ないですがあります。
友達は性別、年齢、人種、どれをとってもいろいろで、分け隔てなく仲良くやってます。
彼の人生の中にゲームお化けさえ入って来なかったら、今頃きっと……などと、親のわたし達はついつい思ってしまうのです。

今、夏休みに入って、まだバイト先を決めていないKは、昼過ぎまで寝て、起きたらすぐにゲームをして、たまに台所に入ってきてガサガサと食べ、また部屋に戻ってゲームをするか昼寝。
夕方近くにモソモソと出てきて、友人の家に遊びに行って午前様。そしてまたお昼過ぎまで寝る。
あまりにも情けない姿を見て見ぬ振りをしているつもりでも、やっぱり心の片隅では、毎日少しずつ不満が溜まってきているのでしょう、
昨日、友人の家に行くのに、修理を終えて戻ってきたクラウンではなく、旦那が仕事用に使っているスバルを貸して欲しいというKに、異常に腹が立った旦那。
車とは全く違うことを連発で文句を言い、それもかなり尖った声で、荒い言葉使いでぶちまけてしまったと、旦那はとても凹んでいました。

今日は水曜日。旦那もわたしも、一週間のうちで一番忙しい日です。
珍しくどこにも出かけない様子のKに、夕飯係を頼みました。
得意のカレーを作り、密かにお風呂場の浴槽の中をピカピカに磨いてくれたK。
昨日、旦那が何を怒鳴ったのか知らないけれど、Kもきっと、そろそろ親が爆発する頃だと分かっていたのかもしれません。

怒ったりホッとしたり、こんなこっちゃいかんと焦ったり、ここまで好きならこれもこの子の生き方と思ったり、親の気持ち子供の気持ち、どちらも切ないです。


コメント (2)
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