今日は昼からソプラノのポーレットと3曲合わせ、その後すぐに家を出て、ケリー&ウーヴェ夫婦の家に遊びと治療を兼ねて行った。
ウーヴェはもう6週間も腰を痛めていて、別の鍼灸師の治療を数回受けたのだけど改善せず、痛み止めの薬もいまいちで、そもそもそういう錠剤が好きではない彼なので、じゃあボクが、と今度は旦那が名乗り出たのだった。
ケリーとウーヴェは、2才半の可愛い坊やハンスのおかあさんとおとうさん。
本当はここにハンスの写真を載っけたいのだけど、彼らの了承をまだ得ていないので、今はやめておこう。
それはもう可愛い、クルクル巻き毛の、ひとり遊びがとても上手で利口な男の子で、機関車トーマスのことについてはなんでも聞きたまえ、と言わんばかりの熱中ぶりを見せてくれた。
ウーヴェが作ってくれた美味しいパスタ料理とサラダ、それからソムリエの資格を持つ彼ならではの飲み心地の良いワインをいただきながらいろんな話をしていたのだけど、退屈してきたハンスがむずかり出したので、彼と一緒に木の積み木でタワーを作って遊んだ。
家の中を走り回ってしっかり運動できたハンスは、眠くなってグタグタになり、いつもよりも早くベッドに。
ケリーが彼を寝かしつけている間に、その、なんとも驚くべき話が出てきたのだった。
ケリーは旦那がモーガン・スタンリーでバイトしていた時の元同僚。旦那がクビになってからも彼女は長いこと残り、責任のある仕事を任されていたのだけれど、出産と同時に退職し、今はおかあさん業に専念している。
ケリー達は5年前にスタテン・アイランドに家を買い、マンハッタンのアパートからそこに引っ越した。
引っ越してからの彼らは、古い家の改装に精を出したのだけど、ケリーの、すべてにおける細部への強いこだわりのすごさは半端ではなく、作業をする誰もが根を上げたくなるほどの徹底的なダメ出しの伝説は数えきれないほど。
旦那もある時バイトで、部屋の中の壁塗りを引き受けたのだけど、その時そのすごさがうわさ通りであったことを身を以て体験したらしい。
で、その話をわたしにしながらしみじみと、「ボクには到底受け入れられることとちゃう」と言い、その後ケラケラ笑い飛ばしていた。
で、今夜、また新しい伝説を聞いた。
彼らの地味でアンティークな色だった家の外壁が、鮮やかで暖かな山吹色に、枠は少しくすんだ緑色に塗り替えられていた。
その壁塗りの作業中、業者が彼女にちゃんと確認しないまま、色は同じなのだけど、サテンタイプのペンキを前から半分ぐらいまで塗ってしまったらしい。
塗り終わったのを彼女に見せたところ、「サテンではなくマットタイプのペンキの方がいい」と彼女が言い出し、そこに居た誰もが(夫のウーヴェも含む)、「いや、サテンもマットも見た感じ違わないよ。それにもう、家の半分以上を塗ってしまったしね。これでいいんじゃないの?」と思ったらしい。
けれども、彼女ひとり、頑として認めず、とうとう塗り直すことに。
その頃の彼女は、色やタイプや形をどうするかで頭がいっぱいになり、ネットで調べ尽くし、見尽くし、考え込んだあまり眠れなくなっていたのだそうだ。
ある晩、仕事と幼児の世話でぐったり疲れて寝ていたウーヴェは、夜中の2時ぐらいに、「ねえウーヴェ、ちょっとこの色がいいと思うのよ。起きて一緒に見てくれない?」とケリーに起こされ、そのまま2時間ほど、パソコンの画面を妻と一緒に眺めなければならなかった。
絶句しながらその話を聞くわたし達に、さらにウーヴェは、「もちろんその時はもうクタクタに疲れていたんだけど、彼女は家のことに集中するあまり、眠れない夜が続いていたし、もしボクが起きて彼女と一緒に考えてあげることで、彼女が少しでも安心できるならと思って」と言い切った。
そしてさらに、「あの時はもう、ほんとにえらいことだったけど、そして彼女のあの病的なまでのこだわりと妥協をしないしつこさには相当困ったけれど、でも、彼女のおかげで、今の快適で心地良い空間を得られたと思ってる。彼女が居なかったらきっとボクは、この家を買った5年前と全く同じ状態の部屋で暮らしているはずだからね」と、二階で息子を寝かしつけている妻に感謝を込めて語った。
なんというポジティブ思考!なんという愛情!
感動でワナワナと心を震わせながらふと横の旦那を見ると、「なんやねん、なんか言いたいことでもありまんのか?」と、早くも牽制の態勢に入っている。
いや、マジで、もしわたしが夜の夜中に、「なあちょっとちょっと、今思いついてんけどさ、あそこの窓にはこの色のカーテンがええと思うねん。ほんでな、その写真、見つけたから、あんたも寝てんと起きて、わたしと一緒に見て考えてくれへん?」なんてなこと言うたらどないする?
「アホちゃうか?今ボクが何してんのか見てわからんか?寝てんねん!上瞼と下瞼をほれ、こんなふうにピタッとくっつけてんねん。これを人は眠ってるって言うねん!ほんで、寝てる人にアホみたいなことで話しかけたらあかんねん!おやすみ!」と言ふ。
なんという簡潔なお答え。まああんたの相方20年近くもやってきて、そんなこと聞こうとも思わんし、ましてや寝てるあんたを起こそうなんて……くわばらくわばら。
ほんま、夫婦の数だけありまんな、いろいろと。
ウーヴェはもう6週間も腰を痛めていて、別の鍼灸師の治療を数回受けたのだけど改善せず、痛み止めの薬もいまいちで、そもそもそういう錠剤が好きではない彼なので、じゃあボクが、と今度は旦那が名乗り出たのだった。
ケリーとウーヴェは、2才半の可愛い坊やハンスのおかあさんとおとうさん。
本当はここにハンスの写真を載っけたいのだけど、彼らの了承をまだ得ていないので、今はやめておこう。
それはもう可愛い、クルクル巻き毛の、ひとり遊びがとても上手で利口な男の子で、機関車トーマスのことについてはなんでも聞きたまえ、と言わんばかりの熱中ぶりを見せてくれた。
ウーヴェが作ってくれた美味しいパスタ料理とサラダ、それからソムリエの資格を持つ彼ならではの飲み心地の良いワインをいただきながらいろんな話をしていたのだけど、退屈してきたハンスがむずかり出したので、彼と一緒に木の積み木でタワーを作って遊んだ。
家の中を走り回ってしっかり運動できたハンスは、眠くなってグタグタになり、いつもよりも早くベッドに。
ケリーが彼を寝かしつけている間に、その、なんとも驚くべき話が出てきたのだった。
ケリーは旦那がモーガン・スタンリーでバイトしていた時の元同僚。旦那がクビになってからも彼女は長いこと残り、責任のある仕事を任されていたのだけれど、出産と同時に退職し、今はおかあさん業に専念している。
ケリー達は5年前にスタテン・アイランドに家を買い、マンハッタンのアパートからそこに引っ越した。
引っ越してからの彼らは、古い家の改装に精を出したのだけど、ケリーの、すべてにおける細部への強いこだわりのすごさは半端ではなく、作業をする誰もが根を上げたくなるほどの徹底的なダメ出しの伝説は数えきれないほど。
旦那もある時バイトで、部屋の中の壁塗りを引き受けたのだけど、その時そのすごさがうわさ通りであったことを身を以て体験したらしい。
で、その話をわたしにしながらしみじみと、「ボクには到底受け入れられることとちゃう」と言い、その後ケラケラ笑い飛ばしていた。
で、今夜、また新しい伝説を聞いた。
彼らの地味でアンティークな色だった家の外壁が、鮮やかで暖かな山吹色に、枠は少しくすんだ緑色に塗り替えられていた。
その壁塗りの作業中、業者が彼女にちゃんと確認しないまま、色は同じなのだけど、サテンタイプのペンキを前から半分ぐらいまで塗ってしまったらしい。
塗り終わったのを彼女に見せたところ、「サテンではなくマットタイプのペンキの方がいい」と彼女が言い出し、そこに居た誰もが(夫のウーヴェも含む)、「いや、サテンもマットも見た感じ違わないよ。それにもう、家の半分以上を塗ってしまったしね。これでいいんじゃないの?」と思ったらしい。
けれども、彼女ひとり、頑として認めず、とうとう塗り直すことに。
その頃の彼女は、色やタイプや形をどうするかで頭がいっぱいになり、ネットで調べ尽くし、見尽くし、考え込んだあまり眠れなくなっていたのだそうだ。
ある晩、仕事と幼児の世話でぐったり疲れて寝ていたウーヴェは、夜中の2時ぐらいに、「ねえウーヴェ、ちょっとこの色がいいと思うのよ。起きて一緒に見てくれない?」とケリーに起こされ、そのまま2時間ほど、パソコンの画面を妻と一緒に眺めなければならなかった。
絶句しながらその話を聞くわたし達に、さらにウーヴェは、「もちろんその時はもうクタクタに疲れていたんだけど、彼女は家のことに集中するあまり、眠れない夜が続いていたし、もしボクが起きて彼女と一緒に考えてあげることで、彼女が少しでも安心できるならと思って」と言い切った。
そしてさらに、「あの時はもう、ほんとにえらいことだったけど、そして彼女のあの病的なまでのこだわりと妥協をしないしつこさには相当困ったけれど、でも、彼女のおかげで、今の快適で心地良い空間を得られたと思ってる。彼女が居なかったらきっとボクは、この家を買った5年前と全く同じ状態の部屋で暮らしているはずだからね」と、二階で息子を寝かしつけている妻に感謝を込めて語った。
なんというポジティブ思考!なんという愛情!
感動でワナワナと心を震わせながらふと横の旦那を見ると、「なんやねん、なんか言いたいことでもありまんのか?」と、早くも牽制の態勢に入っている。
いや、マジで、もしわたしが夜の夜中に、「なあちょっとちょっと、今思いついてんけどさ、あそこの窓にはこの色のカーテンがええと思うねん。ほんでな、その写真、見つけたから、あんたも寝てんと起きて、わたしと一緒に見て考えてくれへん?」なんてなこと言うたらどないする?
「アホちゃうか?今ボクが何してんのか見てわからんか?寝てんねん!上瞼と下瞼をほれ、こんなふうにピタッとくっつけてんねん。これを人は眠ってるって言うねん!ほんで、寝てる人にアホみたいなことで話しかけたらあかんねん!おやすみ!」と言ふ。
なんという簡潔なお答え。まああんたの相方20年近くもやってきて、そんなこと聞こうとも思わんし、ましてや寝てるあんたを起こそうなんて……くわばらくわばら。
ほんま、夫婦の数だけありまんな、いろいろと。