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千葉伸夫『チャプリンが日本を走った』その4

2018-01-14 06:34:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。
・「(前略)兄シドニー・チャプリンは、弟について、
 『チャーリーの処世の信条は、やはり“努力”と“忍耐”でしょうね。かれの映画をご覧下さい。みすぼらしいが満幅の闘志を抱いた人間がかならず顔を出している。ファイティング・スピリッツ、それは人生におけるかれの真実の姿です。かれは実際精根を尽くして果てるまで働きます』
 と日本で述べた。この言葉がチャプリンの過去と将来とを示していたようだ。もし、チャプリンが『街の灯』を最後にサイレントの時代が終わったと感じて、映画作りを止めてしまったとすると、歴史的評価は大きく後退したことは間違いない」

・「日本でチャプリン暗殺計画が一般に知られたのは、1933年7月25日、横須賀の海軍東京軍法会議の公判二日目だった」

・「1936年に、映画監督の伊丹万作もまた、『巴里の屋根の下』(1930、日本公開は1931)、『百万(ル・ミリオン)』(1931、同年に日本公開)、『自由を我等に』(1931、日本では1932)、『巴里祭』(1932、日本では1933)など、パリ下町のオペレッタと風刺喜劇でトーキーを切り開いてきた監督ルネ・クレールと比較して、チャプリンに死亡宣告をした。
 『最後の喜劇俳優、チャプリン。最初の喜劇監督、クレエル。
  悲劇的要素で持っている喜劇、チャプリン。喜劇だけで最高の椅子を勝ち得た、クレエル。
  ゲテ物、チャプリン。本場物、クレエル。
  世界で一番頑迷なトオキイ反対論者(彼が明治維新に遭遇していたら明治三十年頃まで丁(ちょん)まげをつけていたにちがいない)チャプリン。
  世界中で一番良くトオキイを飼いならした人間、クレエル。
  感傷派代表、チャプリン。理論派代表、クレエル』」

・「(前略)(『モダンタイムズ』は)1920年代に芸術と認められた映画が、世界恐慌の今、それぞれ危機をかかえた国々で、どう〈機械〉というものをとらえたかという観点からみると、こういうことになるだろう。
 まず、その筆頭は、1927年にドイツで公開され、29年に日本に登場したフリッツ・ラング監督の『メトロポリス』だろう。この作品は、20世紀のモダナイゼーションの危機を、映像によって見せた壮大な幕開きと呼ぶのにふさわしい、威圧する巨大な高層建築、独裁者、巨大な機械を操作するロボットにされた地下の労働者、周囲の労働者地区……。人びとの労働は機械のもとで、もの化されている。ドイツにあっては、第一次大戦後のインフレーションが中産階級の没落を招いた結果、独裁者と労働者という二極に極端に分解していった。その様子が『メトロポリス』でまざまざと映しだされていた」

・「ソヴィエトで1929年に公開され、日本に31年に登場した、エイゼンシュテイン監督『全線』は、スターリンによる農業の集団化という、ソヴィエトの新五ヵ年計画を反映していた。機械は『全線』にあってもひとつの大きな主役であった。一台の牛乳のクリーム分離機が導入されるシーンの歓喜は、サイレント映画末期のモンタージュの饗宴でもあった。農民の素朴なさまやモンタージュのおおげさなこと。ラストの個人農地の境界線をトラクターが心地良さそうに破壊していくシーンも印象的だ。たとえ、その破壊が生産に寄与したものかどうか不明としても」

・「フランス公開が1931年、日本公開が翌32年のルネ・クレール監督『自由を我等に』は、刑務所の木馬作りと工場でのレコード・プレイヤー作りから逃げる二人が主人公。服務者と社長からともに浮浪者となった二人は、工場労働者とコーラスする。ユートピアというより、アナーキーなヴィジョン、モティーフがあり、個人主義と友情を優先するフランス的な庶民性が濃い。『自由を我等に』が、ルネ・クレールの好んで止まないスラプスティック仕立てなことは、アナーキーなヴィジョンとつながっていたはずだ」

・「アメリカからはチャプリンの『モダンダイムズ』だ。万年失業のチャーリーは労働運動と間違えられ、ぶた箱へ。やっと就職して機械工になると、ベルト・コンベヤーのシステムに組み込まれる。ここが映画の見せ場である。巨大機械とのシゴトは自分が機械になることだった。これをむずかしくいうと〈もの化〉という(今日ではあらゆる領域にこの人間のもの化がひろがっている)。(中略)
 失業か、労働運動か、機械化=もの化か、浮浪し放浪するか、状況は劇画化され、そのために選択肢がかぎられ、逆にインパクトは鮮明となっている。『メトロポリス』のように秘密の集団を作って決起することはしない。ノイローゼを引き起こしたもの化から逃走、失業し、浮浪者となって、放浪の旅にでる」(また明日へ続きます……)

 →Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto