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黒沢清監督『予兆・散歩する侵略者』第三話・その1

2018-06-04 06:19:00 | ノンジャンル
 自宅。エツコ「今日は病院休んでよ。私が電話しておく。1日ゆっくり寝たら、きっと落ち着くから。外に出ないでね。約束だよ」タツオ「分かった」。家を出るエツコ。
 “葉子、急でごめん。病院に行ってくる。心配しないで。でも、もし午後になっても会社に行かなかったら、警察に電話して”とメールを送るエツコ。病院に向かって歩く。
 看護婦「ここで少々お待ちください」「はい」。坐ると、妙な金属音。両耳をふさぐエツコ。金属のコップに刺さっている多くの鋏が揺れて音を出している。音が止み、振り向くと、廊下に真壁が現れる。(中略)真壁、エツコに歩み寄り「エツコさん、どうも。今日は山際君、お休みのようですね」「ええ、ちょっと具合が悪くて」「昨日は元気だったのにな」「真壁さん、その件でお話があります」「何でしょう?」「夫を解放してやって下さい」「山際君がそう言ったんですか?」「いえ、あの人何も話してくれません」「あなたは僕に何か感じてますね。最初に会った時から」「ええ」「きっと特別な人間なんだ。(中略)」「あなたは誰なんです?」「誰だと思いますか?」「普通の人間じゃない」「ということは」「……異物」「異物、あー、それだ。いい表現ですね。異物。イメージして」。逃げるエツコ。追う真壁。追いこまれたエツコの額に指先をつける真壁は、すぐに指先を引っ込める。「あつ、今君、何をした? 奪えない。どうして? すごいな。すごいよ、君は!」「夫を解放してくれるんですか?」「ああ、もちろんいつでも。山際君は僕のただのガイドです」「ガイド?」「気の合ったパートナーのようなものですよ。彼が誰かを選び、僕はその人間から概念をいただく。予想外だったのは、その相手から概念がすっぽり抜け落ちたってことですか」「ミユキも?」「彼女のことは知りません。やったのは僕たちじゃない。山際君を責めないで下さい」「夫はどうやったら自由になれるんですか?」「簡単なんだけどな。彼にその気があれば」「右手のしびれ。あれも真壁さんのせいですよね?」「僕は何もしていません。多分精神的なものでしょう。心の中にやましい部分があると、無意識に体に拒否反応が出るようですから」「やましい? どういうことです?」「山際君は実に人間臭い人間だということです。でもあなたは違う。特別な人間だ。あなたを隅々まで調べたい。どうしてあなたのような個体が誕生したのか、我々は大いに興味を持ちました」「我々って誰のことです?」。真壁、指を上に向けて上を向き、また視線をエツコに戻す。逃げ出すエツコ。葉子とぶつかり転倒。「エツコ、大丈夫?」。
 ベッドで目覚めるエツコ。葉子「気が付いた?」「あっ、葉子、でもどうしてここへ?」「あんなメールもらったら誰だって心配になるよ」「真壁さんに会った?」「え、誰?」「真壁先生。外科医の。いい、葉子、絶対あの人に会っちゃだめだよ」「うん、分かった」。小森医師、現れ「いやいやいやいや、浅川さんの件では大分僕が怖がらせちゃったみたいですね。すみませんでした。確かに新種のウイルスが健忘症を起こしているのは事実です。でもね、それって真壁先生と何の関係もありませんよ」「いいえ、あの人は普通の人間じゃありません」。看護師、隣の部屋と仕切っていたカーテンを開ける。葉子「あのさ、エツコの言ってること分からなくはないんだけど、少し休んで冷静になった方がいいと思うんだよね」「信じてないのね。葉子」「信じてるよ。エツコが何かにひどく怯えてるのはよく分かる。でも」「分かった。小堀先生、真壁先生をここに呼んでください」「いや、それは」「早く。全部あの人に話してもらいます」「うーん」。小森、電話をかける。「ああ、心療内科の小森なんだけど、そっちに真壁先生いる? あっそう、いや、いや、分かった。じゃあいい」。電話を切る。「病院内にはいないみたいですね」エツコ、あわてて「私、戻ります」。葉子も後を追う。
 廊下。「エツコ、待って。どうしたの。もう少し詳しく話して」「話したってどうせ信じてくれないでしょ」「ちゃんと話してくれなきゃ、誰だって信じないよ。エツコの言ってること」「だよね」「何があったの? 最初から話して」「悪いけど葉子、今はそんな時間ないの」。エツコ去る。葉子も部屋に戻り、荷物を持って去ろうとすると、小森が電話しているのが聞こえる。「こっちはなぜ彼女が気付いたのか分かりません。あれはガイドじゃないです。きっと何か特別な能力を持っているんでしょう。だから真壁が……、えっ? いや、無理ですよ。これ以上秘密にしておくなんて。ええ、ええ、それは分かってますが、とにかく真壁の方はそちらでお願いします。こっちではもう手の出しようがないですから。お願いします」。ブラインドの間から小森を見る葉子。(明日へ続きます……)

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