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金子勝・武本俊彦『儲かる農業論 エネルギー兼業農家のすすめ』その3

2020-05-21 07:46:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。

「新しい農家経営モデルへ」
 実際、将来にわたって日本の農業は存続しうるかどうかという岐路に立たされています。もし、このまま農業が衰退したら、どういうことになるのでしょうか。二十一世紀の初めに穀物価格の高騰と世界的な食糧危機が起きましたが、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が警告するような地球温暖化に伴う食料・水危機等が起きることも懸念されています。将来、こうした事態に日本は対処できるのでしょうか。さらに環太平洋連携協定(TPP)で懸念されるさらなる食料自給率の低下に加え、貿易赤字が24ヵ月間(2014年6月時点)続く中で、日本は今後も海外から食料を確保できるのでしょうか。農業や食料の問題は、当面は何とかなるように見えます。しかし、いったんリスクが発生すると、社会は深刻な危機に陥ります。
 ここで立ち止まって農業≒専業農家という「常識」を疑い、どのようにすれば、農業者が生き残り、消費者が安全・安心な食を確保できるのかを考える時がきたのかもしれません。
 本書のタイトルにある「エネルギー兼業農家」は、そのあるべき姿を示しています。それは、文字通り、エネルギーを売ることを兼業にする小規模農家を指しています。そして、それこそが筆者が主張してきた6次産業化と併せて、安全・安心を基軸にした未来を先取りする、先端的な農業経営のあり方なのです。

 以上が「はじめに」の文章でした。次には「おわりに」と題された文章も全文こちらに転載させていただきます。

「自転車に乗って「常識」を疑う」
 本書は、筆者の金子勝と武本俊彦が自転車をこぎながら話す中で生まれた本です。
 二人は、同じ高校で学び、同じハンドボールクラブに入る等、高校時代から40年来の友人関係にあります。最近は、高校時代の仲間との草野球チーム「地球防衛軍」にともに参加し、時々、ママチャリ・サイクリングとキャッチボールをしています。健康づくりが目的ですが、ついつい、食料・農業から環境・エネルギーにわたる諸問題が話題になってしまう、理屈っぽいサイクリングです。本書は、そうした日々の意見交換の中から、基本的な構想が生まれました。
 自転車で風を切りながら、「これまで常識とされてきた考え方に従っているかぎり、この閉塞した日本の状況は打ち破れないなあ」と、大声で言い合います。本書の中心である、「エネルギー兼業農家」は、大規模専業農家ではなく発電する兼業農家であり、農業論としてもエネルギー論としても「常識」とは異なるものです。
 一つの出来事が、私たち二人を「常識」破りの議論に強く駆り立てました。いうまでもなく、それは2011年3月に東日本大震災が起こり、福島第一原発の事故によって、放射性物質が大量に環境中に放出されたことです。

「「原発推進」へ舵を切る安倍政権」
 1950年代生まれの私たち世代は、若い時に、水俣病やイタイイタイ病といった悲惨な公害病を「経験」しました。福島第一原発事故は、三年半経(た)っても10万人以上の故郷に戻れない人々を生み出しており、かつての公害をも上回る史上最悪の環境汚染をもたらしていることに、強い憤りを感じます。情報を隠し、加害企業も担当官庁も責任をとらず、東京電力の救済優先で、事故収拾も進まず、賠償支払いも除染も進んでいません。被災者を置き去りにした現状は、かつての公害病問題を忘れてしまったかのようです。
 しかし、国民の大多数は脱原発への意思を明らかにし、2012年、当時の野田政権はそれを受けて2030年代に原発をゼロにする目標を掲げました。さらに福島第一原発事故を受けて世界の国々は、原発や大規模火力発電に象徴される「集中・メインフレーム型」の電力システムを見直し始めました。再生可能エネルギーと省エネが急速に普及し、ICTの進歩とあいまって、「地域分散・ネットワーク型」のエネルギー・システムが生まれつつあります。
 ところが、その後の政権交代によって誕生した第二次安倍政権では、2014年4月に第三次改定されたエネルギー基本計画において、国民の多数の意思は引き続き脱原発であるにもかかわらず、原発を「重要なベースロード電源」と位置づけ、脱原発の旗を一方的に降ろしてしまいました。
 こうしたエネルギー政策の方向転換は、その前に行なわれた秘密保護法の制定の経過や、その後の集団的自衛権に関する違憲解釈の変更を閣議決定で行うことと同様、国民への十分な説明や国民を代表する国会での十分な議論を経ることもなく、選挙で選ばれた以上は何でもできるといわんばかりのやり方で、立憲主義の否定以外のなにものでもありません。

(また明日へ続きます……)

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