ポール・オースターの'06年作品『写字室の旅』を読みました。
カメラと盗聴器によって監視されている部屋の中にパジャマ姿の老人が監禁されている。彼は自分が誰か、なぜここにいるのかが分からない。部屋にはベッドと机と椅子があり、物には白いテープが貼ってあって、その物の名前(「机」とか「壁」とか)が書かれている。老人の胸は罪悪感に満ち、自分が恐ろしい不正の犠牲者なのではないかと疑っている。そして私たちはこの老人のことをミスター・ブランクと呼ぶことにする。ミスター・ブランクは椅子に座り、前後に揺れると、幼い頃に木馬に乗って様々な想像の旅をしたことを思い出す。そして机の上にきちんと積み上げられた紙と写真の山を見て、一番の上の写真を手に取ると、自分が一言「アンナ」とささやくのが聞こえ、自分が彼女を殺したのではないかという疑念が生じ、写真を脇に押しやる。そして今度は書類を手に取ると、そこには「私が自分の話を語り始めたとたん、大佐らは私を殴り倒し、私は意識を失った」と書かれていた。そこで電話が鳴り、ジェームズ・P・フラッドと名乗る元警官が「もう一度お話したい」と言ってくる。フラッドはアンナがミスター・ブランクに食事を1日3回持ってきてくれることを教えてくれ、この物語には大勢の人間がかかわっているが、完全にあなたの味方なのは彼女だけで、ほかの連中は相当の恨みつらみがあると言うのだった。
めまいを感じながら、ミスター・ブランクは机に戻り、書類の先を読みはじめる。「以来ずっと私はこの部屋に閉じ込められている。私の名はグラーフ。ここはウルティマの駐屯地、連邦の西の端に位置し、異人領に接している。私は命令を受けて、本来は禁じられている異人領に侵入し、その報告をすべく帰ってきた。私の話が聞いてもらえなければ、私は外へ連れ出されて射殺されるだろう」
ミスター・ブランクは読むのをやめる。その内容をどう捉えたらいいのか、さっぱりわからない。やがて彼は椅子が回転することを発見し、喜びに浸る。そこへアンナが入って来る。写真からは35年が経ったと言い、彼女は処置のためと言って薬をミスター・ブランクに飲ませた後、朝の食事を持ってきてくれ、薬のせいでミスター・ブランクの手が震えるため、食べさせてもくれる。あなたを愛していると言うアンナは、ミスター・ブランクが請うと唇に優しくキスをしてくれ、浴室で体を洗ってくれ、勃起したペニスを手でこすり、射精までさせてくれる。ミスター・ブランクの質問にもアンアは素直に答えてくれ、以前自分は彼によって滅亡と死の場所に送り出されたこと、夫は3年前に亡くなったこと、ミスター・ブランクがいなければ夫とは出会えなかったことを教えれくれる。そしてピーター・スティルマン・ジュニアの特別な要請ということで、上から下まで白い服を着せてくれた後、アンナは去った。ピーター・スティルマン・ジュニアは、ミスター・ブランクが任務で彼を送り出した時、全身白の格好をさせたのだと言う。そしてミスター・ブランクは任務という名の元に、何百人もの人を送り出してきたのだともアンナは言った‥‥。
'03年作品『オラクル・ナイト』と同様に、全体が複文的な構造を取っており、グラーフを主人公にした物語が語られる一方で、結局ミスター・ブランクの存在自体が謎のまま、この小説の中に取り込まれ、そしてこの小説を書いているオースター自身も最後に現れて終わるという構成は、非常に変わったものでした。ミスター・ブランクの犯した罪を一つ一つ取り上げていけば、G・ガルシア=マルケスのような小説にまで発展するのではと期待させる、そんな小説でもありました。ちなみに柴田元幸さんの「訳者あとがき」によると、この小説の登場人物の名前はみな、これまでのオースター作品に登場した人物なのだそうで、過去のオースター作品の登場人物の名前を覚えている人は、それを知らない人とはまた違った楽しみ方ができるのだそうです。(私はオースター・ファンですが、読んでいて全く気がつきませんでした。)なお、上記以降のあらすじは、私のサイト「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)の「Favorite Novels」の「ポール・オースター」の場所にアップしておきましたので、興味のある方は是非ご覧ください。
→「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)
カメラと盗聴器によって監視されている部屋の中にパジャマ姿の老人が監禁されている。彼は自分が誰か、なぜここにいるのかが分からない。部屋にはベッドと机と椅子があり、物には白いテープが貼ってあって、その物の名前(「机」とか「壁」とか)が書かれている。老人の胸は罪悪感に満ち、自分が恐ろしい不正の犠牲者なのではないかと疑っている。そして私たちはこの老人のことをミスター・ブランクと呼ぶことにする。ミスター・ブランクは椅子に座り、前後に揺れると、幼い頃に木馬に乗って様々な想像の旅をしたことを思い出す。そして机の上にきちんと積み上げられた紙と写真の山を見て、一番の上の写真を手に取ると、自分が一言「アンナ」とささやくのが聞こえ、自分が彼女を殺したのではないかという疑念が生じ、写真を脇に押しやる。そして今度は書類を手に取ると、そこには「私が自分の話を語り始めたとたん、大佐らは私を殴り倒し、私は意識を失った」と書かれていた。そこで電話が鳴り、ジェームズ・P・フラッドと名乗る元警官が「もう一度お話したい」と言ってくる。フラッドはアンナがミスター・ブランクに食事を1日3回持ってきてくれることを教えてくれ、この物語には大勢の人間がかかわっているが、完全にあなたの味方なのは彼女だけで、ほかの連中は相当の恨みつらみがあると言うのだった。
めまいを感じながら、ミスター・ブランクは机に戻り、書類の先を読みはじめる。「以来ずっと私はこの部屋に閉じ込められている。私の名はグラーフ。ここはウルティマの駐屯地、連邦の西の端に位置し、異人領に接している。私は命令を受けて、本来は禁じられている異人領に侵入し、その報告をすべく帰ってきた。私の話が聞いてもらえなければ、私は外へ連れ出されて射殺されるだろう」
ミスター・ブランクは読むのをやめる。その内容をどう捉えたらいいのか、さっぱりわからない。やがて彼は椅子が回転することを発見し、喜びに浸る。そこへアンナが入って来る。写真からは35年が経ったと言い、彼女は処置のためと言って薬をミスター・ブランクに飲ませた後、朝の食事を持ってきてくれ、薬のせいでミスター・ブランクの手が震えるため、食べさせてもくれる。あなたを愛していると言うアンナは、ミスター・ブランクが請うと唇に優しくキスをしてくれ、浴室で体を洗ってくれ、勃起したペニスを手でこすり、射精までさせてくれる。ミスター・ブランクの質問にもアンアは素直に答えてくれ、以前自分は彼によって滅亡と死の場所に送り出されたこと、夫は3年前に亡くなったこと、ミスター・ブランクがいなければ夫とは出会えなかったことを教えれくれる。そしてピーター・スティルマン・ジュニアの特別な要請ということで、上から下まで白い服を着せてくれた後、アンナは去った。ピーター・スティルマン・ジュニアは、ミスター・ブランクが任務で彼を送り出した時、全身白の格好をさせたのだと言う。そしてミスター・ブランクは任務という名の元に、何百人もの人を送り出してきたのだともアンナは言った‥‥。
'03年作品『オラクル・ナイト』と同様に、全体が複文的な構造を取っており、グラーフを主人公にした物語が語られる一方で、結局ミスター・ブランクの存在自体が謎のまま、この小説の中に取り込まれ、そしてこの小説を書いているオースター自身も最後に現れて終わるという構成は、非常に変わったものでした。ミスター・ブランクの犯した罪を一つ一つ取り上げていけば、G・ガルシア=マルケスのような小説にまで発展するのではと期待させる、そんな小説でもありました。ちなみに柴田元幸さんの「訳者あとがき」によると、この小説の登場人物の名前はみな、これまでのオースター作品に登場した人物なのだそうで、過去のオースター作品の登場人物の名前を覚えている人は、それを知らない人とはまた違った楽しみ方ができるのだそうです。(私はオースター・ファンですが、読んでいて全く気がつきませんでした。)なお、上記以降のあらすじは、私のサイト「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)の「Favorite Novels」の「ポール・オースター」の場所にアップしておきましたので、興味のある方は是非ご覧ください。
→「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)
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