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ジェフリー・ディーヴァー『スキン・コレクター』

2016-12-13 04:56:00 | ノンジャンル
 ジェフリー・ディーヴァーの’14年作品『スキン・コレクター』を読みました。
第一部「絶版本 11月5日火曜 正午」
 地下室に在庫を取りに行ったクロエが、地下室を出ようと向きを変えたとき、背後から何かが飛びかかってきた。口に布きれが押しつけられる。勢いよく振り返ると、目の前に男がいた。男は黄色っぽいラテックスゴムのマスクを頭からすっぽりかぶっていた。そしてクロエの衣服で覆われていない部分、腕や首の肌をなめるように見ている。ふと見ると、男の服の袖がずり上がっていた。気味の悪いタトゥーがのぞいている。男は易々と彼女を引きずって小さな扉を抜けると、下に設備室のような空間が見えた。自分は転がり落ちているらしい。一瞬ののち、目に突き刺さるようなまぶしい光がトンネルを満たした。男が装着した、炭鉱労働者が使うようなヘッドランプの光だ。男はクロエの首に注射をし、次に腕の静脈に注射をした。温かな感覚が全身に広がった。闇が周囲に滴り落ち、物音は遠ざかっていく。
ビリー・ヘイブンは電池の節約のためにアメリカン・イーグルのタトゥーマシンの電源を切った。一歩引いてしゃがみ、ここまでの出来栄えを確認する。完璧ではないが、なかなかの仕上がりだ。今回は急ぐほうを優先する手もあっただろう。だが、それはだめだ。いつもどおりの“ビリー・モッド”でなくてはならなかった。彼の住む町、彼の店では、彼の作品は“ビリー・モッド”と呼ばれている。ビリー・ヘイブンは、被害者を改めて観察した。クロエ。胸の名札に目が留まった。手袋をはめた手を伸ばしてクロエの皮膚をそっとなぞり、軽くつまんで引っ張った。しなやかで肌理が細かく、張りがある。トンネルのなかは息が詰まるほど暑かった。19世紀から20世紀にかけてこの一帯にハチの巣状に巡らされたトンネルは、工場や倉庫や中継施設を結ぶ物資の輸送手段として使われていた。いまとなってはその用途には利用されていないトンネルは、ビリーの目的にうってつけの場所だった。時間の経過を警告するアラーム。最後の仕上げをさせてくれ。マシンのスイッチを入れた。じじじじじじ…… 少し前に手早く描いたブラッドラインをなぞって、一度に1ミリずつライニング針で輪郭にインクを入れていく。十分後、タトゥーはほぼ完成した。クロエの呼吸が深くなり始めていた。麻酔はそろそろ切れるだろう。文字の最後の一つを仕上げる。いいぞ。これぞビリー・モッドだ。ただし、まだ完成ではない。ビリーは外科用メスを取り出すと、クロエの上に身を乗り出し、輝くばかりに美しい肌をふたたび平らに伸ばした。
四肢麻痺の科学捜査の天才、リンカーン・ライムは、今まで唯一自分を苦しめてきた一人の男の死に動揺していた。ウォッチメイカーは、ライムが知るなかでもっとも好奇心をそそる犯罪者だ。いまも正体をつかみきれない男、リチャード・ローガンは、基本的にはプロの殺し屋だが、テロから窃盗まで、ありとあらゆるタイプの犯罪をやってのける。ライムが計画を邪魔したときでもなお、ウォッチメイカーは社会に大きな損害を与えた。そのウォッチメイカーが死んだ。心臓発作。ライムはローガンに花を送るように、彼の介護士であるトムに頼んだ。尊敬に値する敵に弔意を表したかったし、部下を葬儀に潜入させる口実にもなる。ライムはやって来たニューヨーク市警の刑事、ロン・セリットーから、刺青に使ったのはインクではなく毒薬で、それが死の原因になったであろうこと、文章の一部の言葉が彫ってあったことを聞き、仕事上の相棒であり、プライベートでは恋人でもあるアメリア・サックスに「このあともまだ事件は続くということだ。メッセージをすべて伝え終わるまで」と言った。
セリットーが詳しい説明をした。「被害者はクロエ・ムーア、26歳。パートタイムの女優だ。CMに何本か出てた。サスペンスドラマのちょい役もいくつか。それだけじゃ食っていけなくて、ブティックで販売員をしていた」。対人関係のトラブルはないようだった。ライムはニューヨーク市警の巡査、ロナルド・プラスキーをウォッチメイカーの葬儀にもぐりこませ、サックスは死体発見現場に急行した。……

 ここまでで上下段全451ページのうちの39ページ。ちなみに第二部は「アンダーグラウンド・マン 11月6日水曜 正午」、第三部は「赤いムカデ 11月7日木曜 午前9時」、第四部は「アンダーグラウンド・ウーマン 11月8日金曜 午前8時」、第五部は「再会 11月9日土曜 午後5時」、第六部は「皮膚(スキン)と骨(ボーン) 11月11日火曜 午後1時」となっています。犯人側と捜索側からの描写が並行して描かれ、最後にはウォッチメイカーに授けられたアイディアで、キリスト教原理主義者たちがニューヨークの上水道に毒を混ぜ合わせ、大量虐殺を起こそうとするという話になっていました。どんでん返しに次ぐどんでん返し、ディーヴァー、いまだに健在です。

石井輝男監督『セクシー地帯』&フランシス・フォード・コッポラ監督『アウトサイダー』他

2016-12-12 05:19:00 | ノンジャンル
 今日は小津安二郎監督の生誕113年目にあたり、54回忌にもあたります。素晴らしい映画の数々を残してくれた小津監督に改めて感謝したいと思います。

 さて、石井輝男監督の’61年作品『セクシー地帯』をWOWOWシネマで見ました。女スリ(三原葉子)に上司から任されていた書類を盗まれた吉岡(吉田輝男)が、それをきっかけに、売春あっせん業をしている連中のことを知ることになり、そこで売春をしている女(池内淳子)などの協力を借りて、その斡旋業者をせん滅するという物語でした。オールロケに近く、白と黒のはっきりするハイキーな画調と、背景に常に流れているジャズはヌーヴェル・ヴァーグの影響を思わせました。
 また、フランシス・フォード・コッポラ監督の’83年作品『アウトサイダー』[ディレクターズ・カット版]もWOWOWシネマで見ました。仲間を助けようとして、敵の不良グループの1人を刺殺してしまった青年が、リーダー(マット・デイモン)の指示のもと、無人の教会に身をひそめますが、たまたまそこを離れた時に火事が発生し、2人は中に残されていた数人の子供を助けあげます。そのことで、1人はひどい火傷を負って死んでしまいますが、もう1人は免罪され、ラスト、敵の不良グループと味方の不良グループの全面的な戦争があり、そこでも勝った味方グループに明るい未来が開かれるといったストーリーで、わき役にトム・クルーズが出ていました。
 また、ロバート・ロッセン監督のデビュー作である’47年作品『ジョニー・オクロック』もWOWOWシネマで見ました。カジノのオーナー(ディック・パウエル)が、自分が相棒だと思っていた男に裏切られ、ギャンブラーを射殺した悪徳刑事ブレイデンを殺され、その現場にいたことでやはり殺された女性の姉と恋に落ちるという映画で、刑事役にリー・J・コッブが出ていました。
 また、リチャード・クワイン監督の’54年作品『殺人者はバッヂをつけていた』もWOWOWシネマで見ました。銀行強盗の2人組を捜すため、先に分かった1人の犯人の情婦(キム・ノヴァク、この映画がデビュー作)を見張る役目を上司(E・G・マーシャル)に命じられた刑事(フレッド・マクマレー)が、情婦に金を2人で分けて持ち逃げしようと持ちかけられ、彼女に一目惚れした刑事はそれを実行しますが、結局失敗してしまうというストーリーで、女の隣室に住む女性をドロシー・マローンが演じ、キム・ノヴァクの美しさが際立っていました。
 また、ロマン・ポランスキー監督・共同脚本の’13年作品『毛皮のヴィーナス』もWOWOWシネマで見ました。35人の女優のオーディションを終えて帰ろうとしていた、マゾッホの小説を脚色した演出家トマの許に、関係者も皆帰った時間に無名の女優アンナが飛びこんで来ます。19世紀の衣装を身につけ、トマを相手役に演技を始めたアンナは、トマを翻弄し始め、やがてアンナが演技を指導し始めます。新しいシーンを加え、討論しながら、また演技に戻る2人。トマの婚約者には「もう帰らない」と電話させたアンナは、やがて自分とトマの役を入れ替えて、トマを支配し始め、最後にはポールにトマを縛り付け、自分は全裸で毛皮を羽織って踊りながら、トマを残して去ります。登場人物が2人だけの実験的な映画でしたが、嵐の中、街路樹の中をカメラが縦移動する冒頭のシーンを超える画面には最後まで出会えませんでした。
 また、NHKプレミアムで、ヴィム・ヴェンダース監督、サム・シェパード共同脚本、ライ・クーダー音楽の’84年作品『パリ、テキサス』を久しぶりに再見しました。4年の放浪生活の後、弟夫婦の元に戻って来たトラビス(ハリー・ディーン・スタントン)が、7歳になる実の息子とともに、やはり4年前に失踪した母(ナターシャ・キンスキー)を探しに行くという物語で、テキサスの青い空はジョン・フォードを想起させ、シーンの終わりはフェイドアウトが用いられ、ライ・クーダーのギターの音に乗せて、静かに時間が流れて行く映画で、素晴らしい出来だと思いました。大人が子供を連れて人を探しに行くという点では『都会のアリス』と同じテーマであり、この映画でも自動車、列車、飛行機(そして会話の中には宇宙船まで!)と様々な乗り物が描かれていました。
 また、WOWOWシネマで、スタンリー・キューブリック監督・製作・共同脚本、アーサー・C・クラーク共同脚本の’68年作品『2001年宇宙の旅』も久しぶりに再見しました。CGを使わずにこれだけの画面を作るというのは驚嘆すべきものでしたし、不協和音が多用されていました。コンピュータのハルは明らかにゴダールの『アルファヴィル』へのオマージュ(いただき?)だとも思いました。

町田智浩『さらば白人国家アメリカ』その5

2016-12-11 05:45:00 | ノンジャンル
 また、昨日の続きです。
・「近代の民主主義はアメリカから始まったが、そのシステムには先住民起源のものも多い。そもそも連邦制自体が6つの先住民部族の連合であるイロコイ連邦からヒントを得たと言われる。アメリカ先住民は部族のリーダーを投票で決めていた」
・「ブッシュ政権の頃、石油に代わる夢の材料としてエタノールが注目され、政府から多額の助成金が出たが、トウモロコシの栽培には石油から作られる肥料が大量に必要だと判明して、エタノール幻想は崩れた。マヌケな話だ」
・「調査によると、トランプ支持者の半数の学歴は高卒かそれ以下だ。とはいえ、世帯年収の中間値は7万2000ドルと、かなり多い。対するクリントン支持者の中間値は5万6000ドルしかない。これは、クリントン支持者には貧しい黒人や若者が多いのに対して、トランプ支持者は学こそないものの苦労して働いてそれなりの生活をしている中年以上の白人が多いからだといわれる」
・「転機は1929年の大恐慌だった。失業対策として、民主党のフランクリン・ローズヴェルト大統領は金持ちに増税した金でダムや道路や橋を築き、労働者たちに仕事を与えた。このニューディール政策は、国民の半分以上を占めたブルーカラーから熱く支持され、選挙で勝ち続けた。リベラリズムとは本来は自由主義を指したが、この頃から『ニューディール的な国民の平等のための政府の積極介入』を意味するように変わった。そして60年代、民主党は、富の平等を人種の平等へと広げ、公民権法と投票法を成立させた。ただ、サインをしながらジョンソン大統領は『これで民主党は南部を失うだろう』とつぶやいた。彼の予想は当たり、南部の白人たちは民主党を離れ始めた」
・「4日続いた大会の最後はトランプの大統領候補指名受諾演説、共和党の新しい王の戴冠式だ。トランプは予想どおり、ニクソンの言葉『法と秩序』を引用して、アメリカの内外の敵を強調し続けた。だが、その中身は、恐怖を煽るだけのために事実を大きく誇張し、歪曲したものだった。『アメリカの50の大都市における殺人件数は去年に比べて17%増加した』実際に17%増加した都市は36。アメリカ全体での殺人件数は10年以上減少し続けている。『職務中に殺害された警察官の数は、去年に比べておよそ50%増加しています』これもウソ。実際の15年に対する増加率はわずか8%。しかも、この15年間、それは継続して減少している。『国境を越えて入ってきた一人の男がネブラスカで、サラ・ルートさんという無実の若い女性の命を奪った。優秀な成績で大学を卒業した翌日に殺害されたんだ』まるで殺人事件のように話しているが、実際は酒酔い運転による交通事故だ。トランプはこの演説で、中南米からの不法移民による事故と殺人4件を強調した。ヒスパニック・イコール殺人者というイメージを作り上げるように。『ヒスパニック系の貧困層は、オバマ大統領の就任以来、200万人も増えた』オバマ在任中の8年間でヒスパニックの貧困層が200万人増えた理由は、ヒスパニック全体の人口が700万人増えたからで、ヒスパニックの貧困率は25.3%から23.6%に減っている。『世帯収入は、16年前の2000年以降、4000ドル以上も下がった』6月の平均世帯収入は5万7206ドル。00年に比べて下がった額は580ドル。(中略)トランプの演説は75分に及んだ。最初、聴衆は『トランプ! トランプ!』とコールするなどで盛り上がっていたが、だんだん静かになり、その表情も不安げになっていった。トランプが語る現在のアメリカは、憎しみと暴力と貧困と恐怖と絶望に満ちた、地獄以外の何物でもないからだ。そして、この地獄から生き延びるには、アメリカは『移民の国』というアイデンティティを捨てなければならないという。『もはや我々はポリティカリー・コレクトでいる(政治的に正しくある)余裕はないんだ!』(中略)しかし、ポリティカリー・コレクトはアメリカそのものだ。独立宣言に掲げられた言葉『人は生まれながらに平等である』。書いた時点では白人の土地所有者だけを意味していた『人』は、その後、すべての人に広げられていった。奴隷制を撤廃し、世界中から移民を招き、女性に参政権を勝ち取らせ、難民を受け入れ……。独立宣言はアメリカの憲法の基本である。共和党の綱領を書き換えたトランプは、アメリカの憲法をも否定しようとしている」
・「この党大会は最初から最後まで、黒人、ヒスパニック、イスラム教徒、それに女性にたいするヘイト祭りだった。トランプが共和党に語る理想のアメリカとは、この大会のようなものだろう。巨大な壁の内側に閉じこもった白人だけの国」

 この本を読んで、今のアメリカの政治状況がよく理解できました。アーサー・ビナードさんが「トランプがヒラリーに負けたら、頭を丸める」と吉田照美さんに約束したことも、この本を読めば納得です。今回の大統領選挙に興味がある方にはお勧めです。

町田智浩『さらば白人国家アメリカ』その4

2016-12-10 04:20:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。
・「ディベートの翌日、『タイム』誌が調査すると、トランプの支持率は47%に跳ね上がっていた。『メギン・ケリーはくやしくて血の涙を流しているだろうな』トランプはディベートの際に自分を徹底的に攻撃したメギン・ケリーをからかった。さらに『他の場所からも血が出たかもね』と余計なセクハラ発言までつけて問題になった。(中略)他の政治家だったら、こんなセクハラしたらもう終わりだ。でも、トランプは最初から『意地悪で傲慢な資本家』というキャラ設定なので、まったく平気。プロレスラーの悪役が反則すればするほど人気が出るように、暴言するほど支持率が上昇する」
・「今回の大統領選出馬でサンダースは次のような改革案を打ち出している。まず『富裕層への税率をアイゼンハワー政権の頃に戻す』。(中略)次にサンダースは『不当な賃金格差のある企業に税金を課す』と言う。さらにサンダースは『最低賃金を現在の2倍に上げる』と約束する。(中略)サンダースは『公立大学の学費無料化』も打ち出している。(中略)他には、『政府による国民医療保険の実現』『病気や子育てによる欠勤の有給化』……。サンダースの政策はどれも具体的で身近な『カネ』の話だ。共和党の大統領候補たちは、人工中絶や同性婚の禁止や移民の取り締まりなど、宗教やモラルやイデオロギーの論争ばかりなのに」
・「サンダースは41年、ニューヨーク郊外ブルックリンのユダヤ人街に生まれた」
・「サンダースが目指しているのは北欧型の社会民主主義だ。累進課税のために極端な金持ちは存在しないが、極端な貧乏人もいない。だから犯罪は少ないし、やる気のある者は誰でも無料で大学に行ける。インドもどんなに貧しくても成績次第で行ける公立工科大学を何十校も設立したことでIT大国として大成功した」
・「黒人やヒスパニックは保守的で、社会主義へのアレルギーが強い。サンダースが尊敬するキング牧師も、貧困の撲滅を掲げて冨の再分配を打ち出してからは『アカ』と呼ばれて貧しい黒人たちからの支持を大きく減らしたのだ」
・「ただ、サンダースもトランプも、二大政党制とエスタブリッシュメント(既得権者)が支配する、硬直した政治にうんざりした人々から支持されている点で共通している」
・「最高裁判事のクラレンス・トーマスもそうだが、共和党を支持する黒人には、苦労して成功した人物が多い」
・「トランプはメキシコ移民叩きをするたびに共和党内で支持率を伸ばしてきた。共和党の支持者の約9割が白人だ。また、ピュー・リサーチ・センターが14年4月に発表した調査によると、民主党に比べて共和党支持者は大卒率が低く、平均年収が低めで、都会よりも郊外や田舎に住む人が多く、男性が多く、年齢が高い。つまりトランプは、白人でブルーカラーの高齢者の排他性にアピールして共和党内での人気を集めているのだ」
・「15年2月に発行された本『2016年を超えて いかにして共和党は新しいアメリカ大統領選に勝てるか』は、白人が減少し続けるアメリカで、もう共和党は大統領選に勝てないという事実を突きつけた」
・「ピュー・リサーチ・センターの12年の調査によると、69歳以上の有権者の47%が共和党を支持している(民主党支持は43%)(中略)それに、どの国でも同じく、高齢者ほど投票率が高いので、共和党はその層にアピールしてきた」
・「ただ、下院議会についてはしばらく共和党の多数支配が続くだろう。それはゲリマンダリングが原因だ。80年代に南部各州の議会を支配した共和党は次々に下院の選挙区の区割りを変更した。若年層や非白人が多く住む都市部を、白人の多い郊外や田舎の選挙区から分離することで民主党の票を一部に固め、共和党議員が常勝するシステムを作り上げたのだ」
・「アメリカは、宗教の自由を求めて入植した人々によって建国された。だから憲法の権利章典第1条に『信教の自由』が掲げられている。宗教による入国制限は憲法違反であり、建国の理念にも反する」
・「逆に、トランプが予備選に勝ったとしても、本選で勝つ可能性は低い。予備選で共和党内の人気取りのために差別発言やセクハラをしすぎたので、非白人や女性の支持を失ったからだ」
・「08年の金融危機が続くなかで就任したオバマ大統領は、破綻したGMとクライスラーを再生し、16年までに全米の失業率を5%下げ、企業の収益を166%増やし、S&P500の株価を139%上げ、暴力犯罪件数を16%減少させた」
・「(予備選は)混乱を防ぐために、投票は代議員数の少ない州から始めて、だんだん人口の多い、大きな州へと広がっていく」(また明日へ続きます……)

町田智浩『さらば白人国家アメリカ』その3

2016-12-09 03:56:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。
・「1953年、共和党のアイゼンハワー大統領は、最高裁長官にアール・ウォーレンを任命した。保守的だと思ったからだ。(中略)ところが(中略)ウォーレン率いる最高裁は『ウォーレン・コート』と呼ばれ、弱者の人権を守る画期的な憲法判断を次々と下していった」
・「16年2月、最も共和党寄りだったアントニン・スカリア判事が急死した。オバマ大統領は空席に新たに判事を任命する義務があるが、当然オバマはリベラルな判事を選ぶだろうから、リベラル5人、保守3人、中道(ケネディ)1人という内訳になってしまう。しばらく最高裁判決は共和党に不利になる。そこで共和党は次の大統領に代わるまでオバマ在任中は新判事の承認を拒否すると宣言した。もちろん、それは司法の運営に対する妨害になるが、共和党はもうなりふり構っていない。その意味でも今回の大統領選は重要なのだ」
・「アメリカ人の肥満は食べすぎのせいではない。肥満の子供は貧困層ほど多い。太っているが、実は栄養失調で飢えているのだ」
・「(前略)たとえ頑張って野菜を食べようとしても買えない。貧困層の住む地域にはスーパーマーケットがない。野菜が買えない地域を『フード・デザート(食料砂漠)』と呼ぶ。全米で2350万人がフード・デザートに住んでいる。(中略)そんな地域では、栄養失調で体の発育に異常があり、砂糖依存症で学習能力や知能に障害がある子供が増えている。そんな子供たちを救うために(オバマ夫人の)ミシェルは給食を改善しようとしている」
・「2013年10月から14年6月にかけて5万2000人の不法移民が流入した。(中略)みんな子供だ。(中略)その子たちは、メキシコの南のホンジュラス、グアテマラ、エルサルバドルから、500kmもの道のりを越えてやって来た。親たちが、我が子が殺されないように、母国から脱出させたのだ。その中米3ヵ国は、現在、世界で最も殺人事件が多い地帯で、特に国連によって世界で最も危険な国にランキングされたホンジュラスは、人口約810万人の小国だが、年間に7000人以上が殺されている。殺しているのはギャングたちだ。クーデター以降の政治の混迷、凄まじい貧困、異常に高い失業率、教育の不足で、ホンジュラスの子供たちには、ギャングに入るしか生きる道がない」
・「現在、ISに所属する欧米出身者は2000人。英国人が500人、米国人が100人と推測されている。英米国内にも当然いるはずだ。調査によればアメリカ人の7割が9.11のような米本土でのテロを恐れている。テロ戦争には戦線も国境もない」
・「オハイオ州のボウリング・グリーン州立大学の調査によると、近年、全米で年平均1000人もの市民が警察官に射殺されているが、そのうち、起訴されるのは4件程度にすぎない」
・「(黒人男性の)ガーナーが(白人警官の)絞め技で殺される映像を見て、関東大震災直後に憲兵隊の甘粕正彦大尉が無政府主義者の大杉栄とその内縁の妻と甥を拉致し、柔道の絞め技を使って3人を殺害した事件を連想した」
・「共和党はレーガン政権時代から『小さな政府』というリバータリアン的思想を掲げたが、外交政策では逆に力ずくの覇権主義を取った。これは明らかに矛盾している。しかも減税しながら、軍事行動を拡大した。そりゃ財政赤字が拡大したのは当たり前だ」
・「『FBIのデータによると、黒人の若者が警官に殺される率は白人の21倍も高い』『麻薬犯罪で収監されている者の75%は黒人だ』」
・「(ヒラリーの)夫クリントンのライカビリティ(好感度)は歴代大統領のなかでも飛び抜けていて、任期7年目の99年の支持率は70%を超え、モニカ・ルインスキーとのスキャンダルの後、任期の終わりでも60%以上を維持していた」
・「(ヒラリーの)問題は全然政策が話題にならないこと。ヒラリーの場合、彼女のキャラクターと、史上初の女性大統領の可能性ばかり先行してしまっているからだ」
・「ヒラリーが掲げているのは中流の再建。81年にレーガンが大統領になって新自由主義経済政策を始めてから、アメリカの貧富の格差は広がり続けて来た。ヒラリーは再び中流層を厚くするため、最低賃金を上げ、共働き家庭のために4歳児からの公立保育所の開設、大学学費の公的ローンなどを提案している」
・「でも、ヒラリーが勝つかどうかは政策とはあまり関係がない。過去の大統領選を見ると、投票時に現大統領の支持率が5割を超えていれば、同じ政党の候補が勝ち、逆なら敵対する政党の候補が勝つ場合がほとんどだ。つまり16年11月のオバマ次第ということ。ちなみにCNNが15年6月30日に発表した調査によると、支持率50%で不支持率47%。難しいところだが、大統領の支持率を最も左右するのが景気だ。15年現在、アメリカの株価は上がり、失業率は下がり続けている。(また明日へ続きます……)