常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

河童(かっぱ)

2012年07月03日 | 読書


夏になると、子供のころの川遊びを思い出す。生まれが北海道であったから、遊んだ川は石狩川である。浅瀬に手ぬぐいを網代わりにして、小魚を追ってすくい取った。
蛇行して流れにぶつかるような場所で泳いだ。急に深くなる淵がある。足を取られて、溺れそうになることもあった。「深いところに行くと、河童に足を引っ張られるぞ」と大人たちから注意を受けたものだ。

夏、水かさが減る川を200mも先の対岸に渡る冒険をする子供もいた。夏休みにそんな子どものグループが溺れ死んだ。たしか死んだ子供は7人であったと記憶する。今日、こんな事故が起これば、テレビの報道が一日中続くことであろう。この事故には河童が関わっていたと、想像することもあながち的外れでないかも知れない。

川には、洪水のように人力では太刀打ちできない自然の力があり、人はその力を畏怖しながら生きてきた。河童が川に住んでいるという説話も、自然への畏怖のひとつの表現とみることができる。

『遠野物語』に出てくる河童は、川端の家に住む女を孕ませ、子を産ませた。
河童の子は、醜悪な容貌である。身内赤く、口の大きいまことにいやな子であったので、切り刻んで樽に詰め、土中に埋めた。

河童はどうやって女を孕ませたのか。
家のものはその家の娘が深夜に急に笑い声を出すので、河童がきていることを知り、一族で守ったが、いざその場へ踏み込もうとしても、手足が動かず朝になってしまう。朝、娘のところへ行ってみると、すでにも抜けのから河童はいず、ことが済んで娘が呆然として取り残されている。こうして、娘は河童の子を身ごもり、醜い子を産んだ。

河童にも弱いところがあった。
馬を冷やしに川へ馬を入れていると、河童が馬を引き込もうとして引いた。反対に河童は馬に引きずられて、丘に上げられ捕らえられた。人は懲らしめにどうしたものか考え、こんご悪さを絶対しないという約束をさせて放免した。その河童は、その少し上流でおとなしく長く住み着いたという。

芥川龍之介の『河童』は上高地の梓川の辺を歩いていて、思いがけず河童の国へ紛れこんで暮した人の話である。この人は、精神病院にいる心を病んだ人物であるから、眉唾ものの話に仕掛けられている。

梓川の辺で弁当を食べていると、河童が岩の上でじっと様子を見ているのに気づく。河童を捕らえようと追いかけ、組み付いて争っているうちに、突然深い穴に落ち込んで気を失ってしまう。気がついて見ると、僕は、河童の取り囲まれている。河童の医師が聴診器を胸に当てて僕を診察している。

穴の先に広がっている世界、それは陶淵明の桃源郷を想起させる。
しかし、河童の国は桃源郷ではなく、人間世界をさらに進化させた国であった。医者がおり、弁護士や詩人がいる。エリートの集団である超人クラブへは、詩人のほか小説家、戯曲家、批評家、画家、音楽家、彫刻家が集まり芸術論を闘わせる。創作に疲れた詩人がピストル自殺を遂げるという事件が起こる。

河童の国に紛れ込んだ僕は、この国に飽き、人間世界へ帰るための穴を探す。
穴に通じる一本の縄梯子を指し示したのは、子供のような河童であった。河童たちが呼ぶ長老である。この河童は全能の老人として生まれ、年を取っていく毎に若返っていくのだという。もう115ぐらいになっているという。「出て行くのはいいが、後悔しないように」とその長老の河童は言った。芥川の創作意図を暗示するエピソードである。

ついでにもうひとつ、井上ひさしの『新釈遠野物語』にも河童の話が出てくる。
今度は河童が姿を変えて小学校へ転校してくる話だ。川辺幸太郎、これが河童の名である。母が病気で家で寝ている。あるものを食べるとじきによくなるのだという。

太吉は幸太郎と席が隣り合わせになったこともあって、すぐに友達になった。学校の帰りには、太吉の家に寄って、弟の良吉と三人遊んだ。遊ぶばかりではない、太吉の家の薪割りなどを手伝い、太吉の両親にもすっかり気に入られた。

幸太郎の忘れ物を届けに、太吉は幸太郎の川辺の家を訪ねる。
ここで太吉は、幸太郎の秘密を知ることになる。幸太郎の病気を治す食べものは、人間のキモであった。

幸太郎は飛び込みの達人であった。ある日、遊び仲間の3人が川遊びをして、飛び込みを見せ合うことになった。良吉が飛び込んだまま上がって来なかった。2日後、見つかった良吉の死体から肝臓や腸が尻の穴から抜かれていた。

河童は人間が作った架空の生きものである。しかし、伝承や説話の世界に長く住み着き、人と関わり、人間のなかにある闇に包まれた醜悪な部分を暗示してきた。

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