友々素敵

人はなぜ生きるのか。それは生きているから。生きていることは素敵なことなのです。

名演『はだしのゲン』

2013年09月18日 19時08分29秒 | Weblog

 「踏まれても踏まれても伸びる麦のように、強くまっすぐ生きるんじゃ」。名演9月例会は、この夏、話題になった木山事務所による『はだしのゲン』だった。泣き虫の私は、情けないほど涙が流れて止まらなかった。亡くなられた中沢啓治さんの漫画『はだしのゲン』を木島恭さんがミュージカルに脚色したもので、漫画とは別の、胸を打つ作品だった。「あの戦争が終わって68年、忘れてはいけない、伝えなければいけない、家族の物語」である。

 ゲンは父母、姉、弟の5人で暮らしていた。父親は下駄屋で、戦争には批判的なために、「非国民」呼ばわりされているが、家族は父親を尊敬し仲がいい。ところが運命の8月6日がやって来た。原爆投下によって、父と姉と弟は家屋の下敷きになり、やがて火の海に包まれて亡くなってしまう。ゲンは母とふたりの生活を始め、母は女の子を出産する。ゲンはますます一家の大黒柱の自覚を強めていく。そこに死んだ弟にそっくりな男の子が現れる。戦争孤児の隆太を弟として迎え入れ、ふたりは「何でもやります」と仕事を求めて奔走する。

 原爆のために手足がただれ誰も介護しない男の世話をしてやっとお金を得て、生まれた妹のためにミルクを買って帰るが、妹はすでに亡くなっていた。妹を守れなかったことでゲンはひどく落ち込んでしまう。元気のないゲンを隆太は何とかしようと必死になるが、ゲンは悲しみの淵から抜け出せない。そんな時、70年間は草木も生えないと言われたヒロシマの大地に草の芽を見つける。父親の「麦のように、まっすぐに生きろ」の言葉がゲンの心に甦る。

 漫画『はだしのゲン』が目指したものをミュージカルでよく表現できたと感心した。ぜひ全国の学校で上演して欲しい。このミュージカルに文句をつけるような人は、よほど偏った思考の持ち主だ。どんなに辛いことも、どんなに悲しいことも、人にはたくさんある。それを乗り越えていく勇気と忍耐そして努力、それがどこから生まれてくるのかをこのミュージカルは教えてくれた。「人に対する思いやり」である。今、この世で一番必要なものだろう。原爆投下後の悲惨な舞台なのに、未来が明るくなる演劇だった。

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