風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

アメリカ大統領選・続報2

2020-11-14 14:01:10 | 時事放談
 投票から10日が過ぎ、CNNによれば、昨夕、アリゾナ州でバイデン氏に当確が出たのに続き、私たちが寝ている間にジョージア州(バイデン氏)とノースカロライナ州(トランプ氏)でも当確が出て、ようやく50州が赤と青に色分けされた(灰色が消えた)。獲得投票人数は、奇しくも前回と同じ306対232で、皮肉にも前回、トランプ氏は「地滑り的勝利」と評していたが、2州を除き州毎に選挙人総取りなので、激戦州と言われるところでは前回も今回も接戦だったのが実態だ。トランプ氏は、この日、バイデン氏の当選が確実になってから初めて、ホワイトハウスのローズガーデンで公に発言し、自分の政権ではロックダウンを行うつもりはない(将来何が起ころうとも・・・もっとも誰の政権になるか分からないが)などと述べて、政権交代可能性の含みを持たせた("I will not — this administration will not be doing a lockdown. Hopefully whatever happens in the future — who knows which administration it will be? I guess time will tell — but I can tell you this administration will not go to a lockdown.")
 トランプ氏にとって、前回との違いは、ウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニア、ジョージア、アリゾナの激戦五州がひっくり返されたことにある。マクロに見れば、白人票が少し減ったくらいで、概ね変わらなかったようだが、州毎に産業構造や人口動態などの詳細を見ないと分からない。ジョージアやアリゾナといった共和党が地盤の州で、伝統的な産業から情報通信産業などへの転換が起こって、時間の経過とともに掘り崩されているようだ。
 あらためて色分けされた全米地図を眺めると、民主党支持者は都市部に多く、共和党支持者は内陸部の農村地帯に多く分布している状況は、見事だ。ヴァーチャルなネットの世界では、SNSで似た者同士が繋がる傾向にあるが、物理的にもその傾向があるようで、成蹊大学の西山隆行教授によれば、他党支持者の友人が全くいないような有権者が増大しているようだ。有権者の分極化傾向は大統領に対する支持にも明確に現れており、例えばオバマ大統領、トランプ大統領ともに、自らの政党の支持者の中では80%以上の支持を誇るものの、オバマ氏の場合は共和党支持者から10~20%程度、トランプ氏に至っては民主党支持者から10%未満の支持しか得られない状態だということだ。
 他方、激戦五州から外れるノースカロライナは、トランプ氏が辛うじて獲ったが、ヴァージニアから民主党支持者が移住して接戦になったと言われる。もともと郊外は比較的裕福な白人層が多く、共和党が強い傾向にあったが、最近は都市部から移住したり、人種も多様化したりして、民主党支持が徐々に増えつつあるようだ。共和党=赤だったところに民主党=青が混ざって紫になる「パープルリング現象」と言われる。どうやら全米規模で民主党支持者が広がる傾向にあるようで、今後を見通すと、民主党優位の州を共和党が覆すのは難しくなって行くのかも知れない。
 そんな中で登場したトランプ現象である。社会主義が崩壊した冷戦以降、共和党は自由経済を主張して小さな政府を求めるのに対して、グローバル化が進展して所得格差が拡大し、民主党が大きな政府を求めるのが大まかな対立構図だった。そのような共和・民主で色分けされた世界に、トランプ氏は、ただ大統領として勝つためだけに戦術を尽くして成り上がって来たようなところがある。彼はもとからの共和党員だったわけではなく、実際に自由貿易には背を向けるし、国境の壁建設のような公共事業を推進し、財政規律に頓着しない。白人労働者や福音派と呼ばれる宗教保守やビジネスマンをコアなターゲットにして、「みんなの大統領」になろうなんて気はさらさらない。この岩盤支持層をがっちり握って、数々のスキャンダルが持ち上がっても、揺らぐことはない。国家の安全保障すらディールの材料にしかねない、まさに不動産セールスマンらしい、稀に見る極めてビジネス・ライクな大統領だったと言える。何だかんだ言って共和党として史上最高7200万もの票を獲得したトランプ氏が投げかけた波紋は大きく、共和党がどう咀嚼して行くのか、党内の路線対立はもとより、アメリカ社会としても深刻である。打倒トランプでいったんは結集した民主党内では、バーニー・サンダース氏やエリザベス・ウォーレン女史の入閣が取り沙汰されるなど、左派が勢いづいており、バイデン氏は党内左派とトランプ的なもの(言わば白人ナショナリスト)に挟まれて苦境に立たされるかもしれない。
 なお、慶應大学の渡辺靖教授を介した孫引きになるが、ペイパル創業者ピーター・ティール氏によると、トランプ氏のことを嫌いな人は、トランプという存在自体は軽く受け止め、小馬鹿にすらしつつも、トランプ氏の一挙手一投足はいちいち真剣に受け取るのに対して、トランプ支持者は、彼の一挙手一投足はどうでもよくて、トランプという存在そのものを極めて真剣に受け止めるのだそうだ。トランプ氏は変なことも言うし、人格的にもパーフェクトではないけれど、今のインチキな社会、制度を壊そうとしている、その姿勢は本物で、自分はそこに懸けているのだ、と。これって、日本の安倍・岩盤支持層とアベガーにも当てはまるのではないだろうか(笑)。勿論、日米社会のありようも、安倍氏・トランプ氏のタイプも異なるのだが、問題はこれら支持層と反発層の間でなかなか会話が成り立ちにくいことだろう。その日米でこれら主役が交代し、The Divided States of Americaや分断された日本がどう修復されるのか、されないのか、興味が尽きない。
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