年明けのおめでたいと日本人なら思う時節に、米・英の有力マスコミは揃って「南北戦争の再発」を警告する異常なことになったと、木村太郎さんが伝えておられた(*1)。
「南北戦争」という和訳を使うと、なんだかイメージがズレてしまう(苦笑)。150年ほど前の「南北戦争」では、商工業中心の北・中部が、奴隷制は「神の国」アメリカの汚点だとして、その廃止を訴えたのに対し、奴隷制に支えられた綿花王国の南部諸国が南部連合(アメリカ連合国=Confedelate States of America)を結成し、対立・抗争した。私たちが教科書で、リンカーンの奴隷解放宣言とともに記憶するもので、つい奴隷制廃止のための戦争とイメージしてしまうが、奴隷制は大きな争点ではあっても、問題はあくまで「内戦(Civil War)」であって、南部諸州が合衆国から離脱するのを防ぎ、国の纏まりを維持し得たため、The Great Warとも言われる。当時、60万以上の命が失われ、両大戦とベトナム戦争の犠牲者を合わせた数よりも多い。アメリカ合衆国誕生物語として、1630年の植民の始まり(1620年のピルグリム・ファーザーズ102人は象徴的な存在だが、ただの「移民」であって「植民」ではない)と、1776年の独立宣言(United ColoniesがUnited Statesになった)に続く、第三幕と捉える人もいる。
そのアメリカが保守・革新の新たな「内戦」で、分裂の危機にあるということだ。「民主党支持者の85%は共和党が人種差別主義者に乗っ取られていると考え、共和党支持者の84%は民主党が社会主義者に支配されていると信じている」(タイム誌)という。保守・革新の対立自体は目新しいものではなく、その異なるベクトルはある意味で人間の性(サガ)に根付くものと言ってもよく、普遍的だ。そこに、多民族国家アメリカならではの白人至上主義のように土地に固有の事情が絡み、あるいはもはや誰もが豊かになれる時代ではなく格差が広がりつつあるといった時代に特有の精神が影響して、時に対立は先鋭化する。「米国の政治は毀損し崩壊するかもしれない。カナダはそれに備えなければならない」(グローブ・アンド・メール紙電子版は2日)との、ややセンセーショナルな見出しは、ある研究者の発言を根拠にしているという。「米国の民主主義は2025年までに崩壊して政治が不安定化し暴力がはびこるだろう。さらに遅くとも2030年までに米国は右派の独裁者に支配されているだろう」(ロイヤル・ローズ大学カスケード研究所のトーマス・ホーマー・ディクソン所長)。
中国はとうの昔に見越している。習近平国家主席は、内部講話で「東昇西降」(東=中国が興隆し、西=欧米が衰退していく)と力説したと伝えられ、西側諸国は民主主義や富の分配といった面に大きな問題を抱え、自滅のプロセスにあると、冷ややかに眺めているようだ(*2)。習氏は中国共産党結党100周年の講話でも、「われわれは人類文明の新形態を創造した」と述べており、日本総合研究所上席理事の呉軍華氏によると、中国は西洋文明への依存から脱却できたという強い自信を持ち、米国との関係を融和的なものにする必要性を感じていない、と言う(同)。
確かに、自由の国アメリカでは、社会の分断がそのまま露出して「内戦」の様相を示し、あらゆる不穏な動きを封じ込めて静けさを装う中国のような権威主義国家の目には、弱さとしか映らないかも知れない。しかし、国の強さや弱さはそのレベルにとどまるものではない。むしろ内部事情が伝えられない中国にこそ、マグマのように不満が鬱積し、いつ爆発するとも限らない、かも知れない。中国共産党を脅かすものとして、巨大IT企業や大富豪から芸能人に至るまで、社会的影響力を増しかねない可能性の芽を先んじて潰し、社会統制を強めるのは、弱さの表れに他ならないと、自由社会の目に映っているとは、習氏は思いもよらないだろう。近年、若者の人気を集める「娘炮」(女性っぽい男性)と呼ばれる中性的な男性タレントを「いびつな美意識」と断じて禁止するのを、姫田小夏さんは、国境地帯で紛争を数多く抱える中国が「戦争」を意識し、まだまだ若い兵隊を欲しがっているからだと言われるが、その真偽はともかくとして、子供がオンライン・ゲームで遊ぶ時間まで国が規制するのは、どう見ても尋常ではない。
しかし、いずれの見方にもバイアスがかかる。中国が自由・民主的であったためしはないから、中国人民が実際にどう思っているかは、私たちには測り知れない。一部では、経済力の高まりに加えて(混迷する西側を尻目に)パンデミックに打ち克ったとして若者を中心にナショナリズムに沸き立つ事情が漏れ伝わって来る。他方で、歴史で鍛えられた民主主義の実態を知らない中国が思うほど自由・民主主義はヤワではなく、私はアメリカのレジリエンスを信じている。その米・中で、秋に中間選挙と中国共産党大会を控え、その結果のみならず、そこに至る過程でどのような動きがあるのか、注目される。米・中だけにフォーカスしていると、世界でその間隙(所謂「権力の真空」)を縫って、不穏な動きが広がらないとも限らず、東・西(台湾・ウクライナ)で中・露が連動するのではないかと懸念する声もある。その可能性は高くないとは思うが、私たちを取り巻く秩序の永続を望むなら、いろいろ小さい不満はあってもやっぱりアメリカに頑張って貰うほかはない。
(*1)「米有力マスコミが揃って“新南北戦争”を警告 カナダ紙も「米政治は毀損して崩壊か」と指摘 日本の備えは?」(1/11付FNNプライムオンライン) https://www.fnn.jp/articles/-/296713
(*2)「習近平氏の本音は『西側は自滅する』、米中の緊張が2022年も高まる理由」(1/9付ダイヤモンド・オンライン) https://diamond.jp/articles/-/291207
「南北戦争」という和訳を使うと、なんだかイメージがズレてしまう(苦笑)。150年ほど前の「南北戦争」では、商工業中心の北・中部が、奴隷制は「神の国」アメリカの汚点だとして、その廃止を訴えたのに対し、奴隷制に支えられた綿花王国の南部諸国が南部連合(アメリカ連合国=Confedelate States of America)を結成し、対立・抗争した。私たちが教科書で、リンカーンの奴隷解放宣言とともに記憶するもので、つい奴隷制廃止のための戦争とイメージしてしまうが、奴隷制は大きな争点ではあっても、問題はあくまで「内戦(Civil War)」であって、南部諸州が合衆国から離脱するのを防ぎ、国の纏まりを維持し得たため、The Great Warとも言われる。当時、60万以上の命が失われ、両大戦とベトナム戦争の犠牲者を合わせた数よりも多い。アメリカ合衆国誕生物語として、1630年の植民の始まり(1620年のピルグリム・ファーザーズ102人は象徴的な存在だが、ただの「移民」であって「植民」ではない)と、1776年の独立宣言(United ColoniesがUnited Statesになった)に続く、第三幕と捉える人もいる。
そのアメリカが保守・革新の新たな「内戦」で、分裂の危機にあるということだ。「民主党支持者の85%は共和党が人種差別主義者に乗っ取られていると考え、共和党支持者の84%は民主党が社会主義者に支配されていると信じている」(タイム誌)という。保守・革新の対立自体は目新しいものではなく、その異なるベクトルはある意味で人間の性(サガ)に根付くものと言ってもよく、普遍的だ。そこに、多民族国家アメリカならではの白人至上主義のように土地に固有の事情が絡み、あるいはもはや誰もが豊かになれる時代ではなく格差が広がりつつあるといった時代に特有の精神が影響して、時に対立は先鋭化する。「米国の政治は毀損し崩壊するかもしれない。カナダはそれに備えなければならない」(グローブ・アンド・メール紙電子版は2日)との、ややセンセーショナルな見出しは、ある研究者の発言を根拠にしているという。「米国の民主主義は2025年までに崩壊して政治が不安定化し暴力がはびこるだろう。さらに遅くとも2030年までに米国は右派の独裁者に支配されているだろう」(ロイヤル・ローズ大学カスケード研究所のトーマス・ホーマー・ディクソン所長)。
中国はとうの昔に見越している。習近平国家主席は、内部講話で「東昇西降」(東=中国が興隆し、西=欧米が衰退していく)と力説したと伝えられ、西側諸国は民主主義や富の分配といった面に大きな問題を抱え、自滅のプロセスにあると、冷ややかに眺めているようだ(*2)。習氏は中国共産党結党100周年の講話でも、「われわれは人類文明の新形態を創造した」と述べており、日本総合研究所上席理事の呉軍華氏によると、中国は西洋文明への依存から脱却できたという強い自信を持ち、米国との関係を融和的なものにする必要性を感じていない、と言う(同)。
確かに、自由の国アメリカでは、社会の分断がそのまま露出して「内戦」の様相を示し、あらゆる不穏な動きを封じ込めて静けさを装う中国のような権威主義国家の目には、弱さとしか映らないかも知れない。しかし、国の強さや弱さはそのレベルにとどまるものではない。むしろ内部事情が伝えられない中国にこそ、マグマのように不満が鬱積し、いつ爆発するとも限らない、かも知れない。中国共産党を脅かすものとして、巨大IT企業や大富豪から芸能人に至るまで、社会的影響力を増しかねない可能性の芽を先んじて潰し、社会統制を強めるのは、弱さの表れに他ならないと、自由社会の目に映っているとは、習氏は思いもよらないだろう。近年、若者の人気を集める「娘炮」(女性っぽい男性)と呼ばれる中性的な男性タレントを「いびつな美意識」と断じて禁止するのを、姫田小夏さんは、国境地帯で紛争を数多く抱える中国が「戦争」を意識し、まだまだ若い兵隊を欲しがっているからだと言われるが、その真偽はともかくとして、子供がオンライン・ゲームで遊ぶ時間まで国が規制するのは、どう見ても尋常ではない。
しかし、いずれの見方にもバイアスがかかる。中国が自由・民主的であったためしはないから、中国人民が実際にどう思っているかは、私たちには測り知れない。一部では、経済力の高まりに加えて(混迷する西側を尻目に)パンデミックに打ち克ったとして若者を中心にナショナリズムに沸き立つ事情が漏れ伝わって来る。他方で、歴史で鍛えられた民主主義の実態を知らない中国が思うほど自由・民主主義はヤワではなく、私はアメリカのレジリエンスを信じている。その米・中で、秋に中間選挙と中国共産党大会を控え、その結果のみならず、そこに至る過程でどのような動きがあるのか、注目される。米・中だけにフォーカスしていると、世界でその間隙(所謂「権力の真空」)を縫って、不穏な動きが広がらないとも限らず、東・西(台湾・ウクライナ)で中・露が連動するのではないかと懸念する声もある。その可能性は高くないとは思うが、私たちを取り巻く秩序の永続を望むなら、いろいろ小さい不満はあってもやっぱりアメリカに頑張って貰うほかはない。
(*1)「米有力マスコミが揃って“新南北戦争”を警告 カナダ紙も「米政治は毀損して崩壊か」と指摘 日本の備えは?」(1/11付FNNプライムオンライン) https://www.fnn.jp/articles/-/296713
(*2)「習近平氏の本音は『西側は自滅する』、米中の緊張が2022年も高まる理由」(1/9付ダイヤモンド・オンライン) https://diamond.jp/articles/-/291207
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