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古典の季節表現 夏 牡丹

2021年04月30日 | 日本古典文学-夏

 牡丹
何(いづ)れの處(ところ)の種(しゅ)なるかを知らず
喜びて見る 牡丹(ぼうたん)の花
雨を帯(お)ぶれば 傾(かたぶ)きて架(たな)に臨(のぞ)む
風の随(まにま)に 引きて沙(いさご)に亞(た)る
あに 塵容(ぢむよう)の苑(その)に攀(ひ)かむや
當(まさ)に 玉仙(ぎょくせん)の家(いへ)に翫(もてあそ)ばむ
朗詠(らうえい)して 叢(くさむら)の邊(ほとり)に立(た)てれば
悠悠(いういう)として 日(ひ)の斜(ななめ)なることを忘(わす)る
(菅家文草~岩波「日本古典文学大系72」)

花開き花落つ二十日、一城の人皆狂ふが若し
(白居易 「牡丹芳」~ウィキペディアの「ボタン(牡丹)」より)

まづ僧坊におりゐてみいだしたればまへにませゆひわたしてまだなにともしらぬ草どもしげきなかにぼうたん草どもいとなさけなげにて花ちりはてゝたてるをみるにも散るがうへはときといふことをかへしおぼえつゝいとかなし。
(蜻蛉日記~岩波文庫)

くれなゐのやしほの色のふかみ草を卯の花がきの庭に見るかな
ふかみ草やへのにほひの窓のうちにぬれて色こきゆふだちの空
(拾玉集)

夏木立庭の野すぢの石の上にみちて色こきふかみ草かな 慈鎮和尚
紅のいろ深見草さきぬればをしむ心もあさからぬかな 前参議教長卿
(夫木和歌抄~「校註国歌大系21」)

新院位におはしましゝ時牡丹をよませ給ひけるによみはべりける 關白前太政大臣
咲きしより散果つる迄見し程に花のもとにて廿日へに鳬
(詞花和歌集~バージニア大学HPより)

うゑたつるまかきのうちのしけりあひてはつかにみゆるふかみくさかな
(正治初度百首・生蓮(源師光)~日文研HPより)

はつかのつきそおそくいてぬる/さきちるはほとこそなけれふかみくさ 
(続草庵集~日文研HPより)

夏にいりて恋まさるといへるこゝろをよめる 賀茂重保 
人しれすおもふ心はふかみ草花開てこそ色にいてけれ 
(千載和歌集~国文学研究資料館DBより)

きみをわかおもふこころのふかみくさはなのさかりにくるひともなし 
きみのみやこころふかみのはなとみるわかおもかけにさらぬにほひを 
(経信集~日文研HPより)

むらさめのつゆさへのへのふかみくさたれかすみすてしにはのまかきそ
(壬二集~日文研HPより)

六条摂政かくれ侍て後、うへをきて侍ける牡丹のさきて侍けるをおりて、女房のもとよりつかはして侍けれは 大宰大弐重家 
かたみとてみれはなけきのふかみ草なに中++の匂ひ成らん 
(新古今和歌集~国文学研究資料館DBより)

 御子左入道大納言家旬十首、牡丹
咲きにけり何ぞは色のふかみ草さらでも人の花になる世に
(草庵集~「和歌文学大系65」明治書院)

牡丹
咲く花の露も心もふかみ草たたなほさりの色とやは見る
ともに見んことわりあれやもろこしの師子を絵かけはほうたんの花
(草根集~日文研HPより)

 名とり草
おる人の心なしとや名取草 花みる時はとかもすくなし
(纂題和歌集~明治書院)

扨も草花の大将に。牡丹は情も深み草。浅からざりし花の名の。真先かけて咲き乱れ。
(謡曲「花軍」~半魚文庫「謡曲三百五十番」より)

獅子団乱旋の、舞楽の砌、獅子団乱旋の、舞楽の砌、牡丹(ぼたん)の花房(はなぶさ)、匂ひ満ち、大筋力(たいきんりきん)の、獅子頭、打てや囃せや、牡丹芳(ぼたんばう)、牡丹芳、黄金(くゎうきん)の蕊(ずい)、あらはれて花にたはぶれ、枝に伏し転(まろ)び、げにも上なき、獅子王の勢ひ、(略)
(謡曲「石橋」小学館・日本古典文学全集)

二十日余りになりて、御前の牡丹の盛りに咲き満ちたるを、ところからは並ぶべうもなくめであへる。げにきらきらしう、花やかなるかたは、をかしき花のさまを、一枝折りてまかでぬれど、例の夕暮は、いづこをはかとなく、浮き立つ心のみまさりて、ながめゐたる空の気色さへ、少し曇(くも)らはしく、時雨うちそそぐよひのまに、ほのめきそむる郭公(ほととぎす)の初音は、いづれの国境(くにざかひ)にも変らざりけり。
(松浦宮物語~小学館・新編日本古典文学全集)

 ぼたんの花の、におひおほく咲きみだれたる、朝ぼらけに初ほととぎすの一こゑおとづれたるほどとや聞こえむ。
(「平家花ぞろへ」で、平重衡を花にたとえている部分~「室町時代物語集成12」角川書店)

この御だうの御まへのかたには。またいけのかたにかうらんたかうしてそのもとにさうひ。ほうたんからなでしこ。らんれんくゑのはなどもうつさせ給へり。 
(栄花物語~国文学研究資料館DBより)

(承安二年四月)二十日〈戊午〉右大臣兼実法性寺ノ牡丹ヲ法皇ニ献ス。
(玉葉~東京大学史料編纂所データベース・大日本史料総合データベースより)

(寛喜元年四月)十五日(壬子)。天陰る。朝より甚雨。昏に臨みて間々休む。聖法印国務・貞法印祇園・隆承僧都梨本の庄務、房中悦喜放光と云々。諸苦の因る所人の逃るる無きか。牡丹の花を折りて仏に供す。
(『訓読明月記』今川文雄訳、河出書房新社)

(寛喜元年五月)五日(壬申)。朝天晴る。(略)牡丹の花盛んに開く。此の花端午の日に逢ひ、年来之を見ず。瞿麦此の間に漸く綻ぶ。(略)
(『訓読明月記』今川文雄訳、河出書房新社)

(略)猶草むらに分け入りければ、ふかみ草のさかりさきたるを見て、「卯の花は、つぼみてだにもちるに、此の花の思ふ事無げにさかりなるや。如何にさくとも、二十日草、さかりも日数の有るなれば、花の命も限り有り。哀れ、身に知る心かな」と涙ぐみければ、五郎聞きて、「此の草の事は、花開き落ちて同じく、一城の人たぶらかすが如しと見えたり。是は、楽府の言葉なり。又、歌にも、
 名ばかりはさかでも色のふかみ草花さくならば如何で見てまし 
と口ずさみければ、十郎聞きて、「此の歌は、未ださかざる時も、色深き草とこそ詠みたれ。さかりの花にも、心や違ふべからん」とたはぶれけるにも、哀れ残さぬ言の葉は無かりけり。
(曾我物語~国民文庫)

深見草今を盛りに咲きにけり手折るも惜しし手折らぬも惜し 
(良寛歌集~バージニア大学HPより)

 女の牡丹を見たる絵に
ます鏡見ませわが背子君(きみ)をわが思ふ心の深見草(ふかみぐさ)これ
(平賀元義集~校註国歌大系19)

 牡丹
夢にだにみぬもろこしの顔よ人おもかげにほふ深見草かな
(千々廼屋集~校註国歌大系19)

 楊貴妃
ふかみ草よそに香をしも漏らさずば花のはつかに色はあせじを
(空谷伝声集(やまびこしゅう)~校註国歌大系19)

わが友魚淵といふ人の所に、天が下にたぐひなき牡丹咲きたりとて、いひつぎきゝ傳 へて、界隈はさらなり、よそ國の人も足を勞して、わざわざ見に來るもの、日々多かりき。おのれもけふ通りがけに立より侍りけるに、五間ばかりに花園をしつらひ、雨覆ひの蔀など今樣めかしてりゝしく、しろ紅ゐ紫花のさま透間もなく開き揃ひたり、其中に黒と黄なるはいひしに違はず目をおどろかす程めづらしく妙なるが、心をしづ めてふたゝび花のありさまを思ふに、ばさばさとして、何となく見すぼらしく、外の花にたくらぶれば、今を盛りのたをやめの側に、むなしき屍を粧ひ立て竝べおきたるやうにて、さらさら色つやなし。是主人のわざくれに紙もて作りて、葉がくれにくゝりつけて、人を化すにぞありける、されど腰かけ臺の價をむさぼるためにもあらで、たゞ日々の群集に酒茶つひやしてたのしむ主の心おもひやられて、しきりにをかしくなん。
 紙屑もぼたん顏ぞよ葉がくれに   一茶
(おらが春~バージニア大学HPより)

折から這(この)客殿の庭に、牡丹花開満(さきみち)て、紅白色を交(まじ)へたる、香風馥郁として、得もいはれぬ看弄(ながめ)にあなれば、(略)
牡丹は上古(いにしへ)這(この)大皇国(おほみくに)になし。延喜・天暦の比なりけん、渤海国の商舩(しょうはく)、創(はじめ)て載(のせ)て来(き)にければ、牡丹の和名(わみゃう)をふかみぐさといふ。ふかみは渤海の仮字(かじ)なり。崇徳帝の御時より牡丹の歌あり。且(かつ)牡丹は、極寒(ごくかん)の地に宜(よろ)しからず。東南温暖の彼方(ところ)に、相応(ふさは)しと聞(きこ)えしかば、当時(そのかみ)詔(みことのり)して、其根(そのね)を紀伊・薩摩・安房へ植(うゑ)させ給へり。是(これ)よりの後(のち)処々(しょしょ)に分根(わけね)して、今は諸国(くにぐに)に多くあり。(略)
(南総里見八犬伝~岩波文庫)

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