文保百首歌奉りける時 民部卿為藤
露むすふしのゝを薄ほに出ていはねとしるき秋は来にけり
(続後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
題しらす よみ人しらす
小倉山麓の野へのはな薄ほのかにみゆる秋のゆふくれ
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)
ひとむらは植ゑてだに見む花すすき露おく秋の袖のたぐひに
(大永六年内裏屏風和歌)
題しらす 平貞文
今よりはうへてたに見し花薄ほにいつる秋はわひしかりけり
(古今和歌集~国文学研究資料館HPより)
ひとかたになびきもはてず花すすき吹きもさだめぬ秋の野風に
(蓮愉集)
荒れたる家に、尾花の折れ返り招くを見てよみ侍りける うつほのおほきおほいまうち君
吹く風の招くなるべし花すすき我呼ぶ人の袖と見つるは
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)
うちなびく尾花が末の気色(けしき)にはたれか心をとどめざらまし
(平家花ぞろへ)
枯れ枯れなる前栽の中に、尾花の、ものよりことにて手をさし出で招くがをかしく見ゆるに、まだ穂に出でさしたるも、露を貫きとむる玉の緒、はかなげにうちなびきたるなど、例のことなれど、夕風なほあはれなるころなりかし。
「穂に出でぬもの思ふらし篠薄招く袂の露しげくして」
(源氏物語・宿木~バージニア大学HPより)
つねよりも思ふ事ある比、尾花が袖の露けきをながめいだしつゝ、
露のおくをばなが袖をながむればたぐふ涙ぞやがてこぼるゝ
(建礼門院右京大夫集~岩波文庫)
人を行方知らずなして嘆き侍りけるころ、尾花の風になびくを見て 浜松の中納言
尋ぬべき方しなければ古里の尾花が袖にまかせてぞ見る
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)
去年の春石山に詣(ま)でたりしに、山中にとまりて休みなどせしを、又の年の秋前をわたるに、さぞかしと思ふに、あはれにて、問はすれば人なし、薄ぞ情(なさけ)なげにすくみて立てるに、書きて結びつく
過ぎゆけど招く尾花もなかりけりあはれなりしは花の折かな
(和泉式部集~岩波文庫)
藤原のとしもとの朝臣の、右近中将にてすみ侍けるさうしの、身まかりてのち人もすます成にけるに、秋のよふけてものよりまうてきけるついてに見いれけれは、もとありしせんさいいとしけくあれたりけるをみて、はやくそこに侍けれはむかしをおもひやりてよみける みはるのありすけ
君かうへし一むら薄虫のねのしけき野へとも成にける哉
(古今和歌集~国文学研究資料館HPより)
家に五十首歌よませ侍りける時 入道二品親王性助
たかうゑし形見とたにも白露の一村薄何なひくらむ
(続拾遺和歌集・異本歌~国文学研究資料館HPより)
(草の花は)
これに薄を入れぬ、いとあやしと人いふめり。秋の野のおしなべたるをかしさは、薄にこそあれ。穗さきの蘇枋にいと濃きが、朝霧にぬれてうち靡きたるは、 さばかりの物やはある。秋の終ぞいと見所なき。いろいろに亂れ咲きたりし花の、かたもなく散りたる後、冬の末まで、頭いと白く、おほどれたるをも知らで、昔おもひいで顏になびきて、かひろぎ立てる人にこそいみじ
(枕草子~バージニア大学HPより)