「戸(門)を鎖す」という用語の「戸をしめる。戸をとじる。」という語釈は、日本国語大辞典・第二版では、『日葡辞書』(1603-04年)の用例を早い例として挙げていますが、もっとさかのぼる用例が複数あります。
門(かど)たてて戸も閉(さ)したるをいづくゆか妹が入り来て夢(いめ)に見えつる
門たてて戸は閉(さ)したれど盗人(ぬすびと)の穿(ほ)れる穴より入りて見えけむ
(岩波文庫「新訂新訓万葉集 下巻」佐佐木信綱編、1927年、67ページ)
風吹くと人には言ひて戸はささじ逢はむと君に言ひてしものを
(古今和歌六帖~『校註国歌大系9』342ページ)
頼めて見えぬ人に、つとめて
やすらひに槇の戸をこそ鎖(さ)さざらめいかであけつる冬の夜ならん
(和泉式部集~岩波文庫)
卯の花の垣根ばかりはくれやらで草の戸ささぬ玉河の里
(寂蓮集~日本国語大辞典・精選版「草の戸」の用例より)
01370 しのすすき-あきはかけても-まきのとを-ささてありあけの-つきをみるかな
02374 まきのとを-ささてそあくる-きみはこす-われやゆかむの-やすらひのまに
02426 いまはとて-おもひたゆへき-まきのとを-ささぬやまちし-ならひなるらむ
(千五百番歌合~日文研の和歌データベース)
まきのとを(も)-ささてふけゆく-うたたねの-そてにそかよふ-みちしはのつゆ
(秋篠月清集・00553~日文研の和歌データベース)
連夜の水鶏
あれはててさすこともなき真木の戸を何と夜がれずたゝくくひなぞ
(建礼門院右京大夫集・28~岩波文庫)
陵園妾
松の戸を一たひさしてあけねとも猶いりくるは有明の月
(源師光集~群書類従15、125ページ)
ねやのとを-ささていくよに-なりぬらむ-きみこひしらに-つきをなかめて
(万代集・02461~日文研の和歌データベース)
はかなしな-わかこころなる-まきのとを-ささぬたのみに-ひとはまたるる
(建長三年閏九月 閑窓撰歌合・00056~日文研の和歌データベース)
まきのとも-ささてすすしき-よひのまの-すたれにすきて-ゆくほたるかな
(夫木抄・03266・為相~日文研の和歌データベース)
せきのとを-ささてもみちや-へたつらむ-あふさかやまの-あきのゆふきり
(新後撰集・01301~日文研の和歌データベース)
せきのとを-ささぬみよにも-ふりつもる-ゆきにやすらふ-ふはのなかやま
(延文百首・01667~日文研の和歌データベース)
あふさかや-をさまれるよの-せきのとは-ささぬにあくる-とりのこゑかな
(続草庵集・00399~日文研の和歌データベース)
柳弁春色
春にあふ柳もまゆをひらく門戸ささで御代のめぐみまてとや
待恋
戸もささずまだ深けぬ夜に人音のしづまるさへや契なるらん
山家
此峰も世のうきことのたづねこば柴の戸さして雲に入らなん
(草根集~新編国歌大観8)
さゝぬ物をやまきのとをなとまつ人のこさるらん
(「魔仏一如絵詞考」~『絵巻物叢誌』海津次郎、法蔵館、昭和47年、87ページ)
よしや旅寝の草枕、今宵ばかりの仮寝せむ、ただただ宿を貸し給へ 我だにも憂き此庵に ただ泊まらんと柴の戸を さすが思へば痛はしさに。
(「黒塚」~岩波・新日本古典文学大系「謡曲百番」503~504ページ)
六四七 向かへば月に人ぞ待たるる
六四八 夕露に花咲く草の戸を鎖さで
(『新撰菟玖波集全釋 第2巻』奧田勲、三弥井書店)
虫声非一
草の戸もさせてふこゑにこぬ人をなほ松むしの恨みわぶらん
(春夢草・1180~新編国歌大観8)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます