ほっぷ すてっぷ

精神保健福祉士、元新聞記者。福祉仕事と育児で「兼業」中。名古屋在住の転勤族。

橋本健二(2009)『「格差」の戦後史-階級社会 日本の履歴書』

2010-01-23 15:39:23 | Book
 著者は、社会学者。格差とは何か。敢えて定義をせず、所得、世帯所得、
職業、雇用形態、世相を現す映画や小説、事件などから表そうとしている。
特に、戦後から60年代あたりが勉強になった。というか、面白かった。

 具体的に書き留めておくと、戦争直後は、日本の格差は縮小したということ。
戦争被害が都市部に集中し、それまでの都市と農村の経済格差はなくなった、
むしろ反転した。食糧を求めて、着物を手に農村に行き、農家の言い値で
農産物を手に入れる都市の戦災者。農地改革も、格差縮小に大きく寄与した。
最大で実効税率が88%にもなる財産税が導入され、没落する富裕層もあった。
それが、太宰治の書いた『斜陽』だったりする。
 割と単純なストーリーなのだけど、具体的なデータ、たとえば
「東京露天商同業組合組合員の前職」などから、戦災者が貧困の中で商売を始めている
状況などを描き、「説得力」を持たせる手法として、なるほど、と思う。

 もうひとつ、共感できる時代範囲で書いておきたいのは、1980年代。
小泉首相の元祖?とも言われる中曽根首相の規制緩和、民営化の推進時期。
中小零細企業の労働者の状況は悪化した。
企業規模間格差は、78年を境に拡大、90年代以降も続いた。
2度のオイルショック、高度経済成長の終焉、プラザ合意による円高。
特に円高は、東南アジアからの安い製品の流入を招き、
競合製品を作っていた中小企業の経営環境を圧迫した。
大企業によるコスト削減の圧力、大企業の拠点の海外への移転。
同じ要因で、パート雇用も拡大した。新規の雇用は、正規労働者145万人に対し
非正規は226万人だったという。・・・現代に非常によく似ている。

 一つ違うのは、当時、そんな状況でも、中小零細の労働者の間で自民党支持が
拡大していたことだ。「おそらく、大企業労働者と官公庁の職員で占められ、
さらなる雇用環境の改善を求める革新野党に共感できなかったからではないか」。

 格差拡大でアンダークラスに強いられた人たちの、支持の受け皿となる
政党がなぜなかったのだろう。今なら、学生時代より『小説吉田学校』
(我が家にあるのは漫画版だけど)を興味深く読めると思う。

メモ:「戦後の日本における格差のメガトレンド」p56
指標:ワダ推計によるジニ係数、所得再分配調査によるジニ係数・当初所得、
   同調査によるジニ係数・再分配所得
   規模別賃金格差・サービス業を除く、規模別賃金格差・サービス業含む
   産業別賃金格差、新中間階級・労働者階級間収入格差
   管理事務職と生産労働者の賃金格差、男女間賃金格差
   生活保護率、非移動率、資産家階級のオッズ比、出身階級による大学進学率格差

橋本健二(2009)『「格差」の戦後史-階級社会 日本の履歴書』河出ブックス

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