亀井幸一郎の「金がわかれば世界が見える」

マクロな要因が影響を及ぼす金(ゴールド)と金融の世界を毎日ウォッチする男が日常から市場動向まで思うところを書き綴ります。

IMFの融資枠増額と金について

2012年01月19日 22時50分01秒 | 金市場

昨日、そして本日アジアの時間帯での金価格の上昇要因のひとつとなったのが、IMF(国際通貨基金)がユーロ圏への危機対応として融資能力を増強するため最大5000億ドル(約384000億円)の調達を検討しているというニュースだった。ユーロ圏を中心に時間の経過とともに状態が悪化した民間資金が当てにできなくなっており、IMFの増強という流れは国際協調抜きに事態の解決はないゆえに当然だろう。しかし、これも大国の政治的な思惑がからみそう簡単ではなさそうだ。

 

201111月時点でIMFの支援に回せる資金基盤は合計8389億ドルとされ、この内すでに融資済みのものを差し引いた融資可能な額は約3900億ドルとされている。イタリアの総債務残高で明らかだが、これでは足元のユーロ圏債務危機が広がった場合に対応ができない。したがって昨秋から増額は懸案事項となっていた。一部報道では6000億ドルを調達し合計で1兆ドルにする意向も浮上しているとされる。

 

ここでのポイントは、IMFへの出資比率を見直すことでの対応は、各国が持つ投票権の変動につながることから、一国で約17%の投票権を持ち重要事項の決定に実質的な拒否権を持つ米国の比率が下がる可能性もあるため、出資ではなく貸し出しという形を取るとされる。出資となると資金に余裕がある中国が名乗り出て、その増額分に応じた投票権の拡大を要求することになる。米国としては、もちろんそれを飲むわけにはいかない。

 

IMFは、融資枠増額の資金調達を目的に保有する金の一部(403トン)売却を2009年に決め、実行に移したが、こうした資産売却など重要事項には加盟国の85%以上の賛成が必要となる。したがって米国の賛成が欠かせないわけだ。力をつけてきている新興国の出資を認めれば、米国他主要国の投票権は薄まることになる。今回IMFが考えている借り入れは、日本や中国なども対象にしているとされるが、この方式でも確か米国やカナダは乗らない意向を昨年のうちに示していたと記憶している。したがって、56000億ドル実際に集まるのかというと不透明といえそうだ。

 

掛かる事態ゆえに再び保有金の一部売却という話が出る可能性は、昨年末の豊島さんとの書籍(「金はどうして騰がるのか」宝島社)で取り上げたが、話が出ても実際は米国の賛意を取り付けるには米国議会の判断に委ねられるということになる。つまり事務手続きに相応の時間が掛かることになる。前回の売却から間がないこともあり、米国議会が今回も賛同するかといえば、難しいかもしれない。仮に手放すとなると、新興国のどこかが買い取りに名乗りを上げそうだ。ちなみにIMFの投票権は日本が6%強で米国に次いで2位となっているが、圧倒的な差があるわけだ。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 価格上昇にもかかわらずスク... | トップ | 「みんな身構えているような... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

金市場」カテゴリの最新記事