以前から一般の投資家にはセミナーなどでファンドの高速取引あるいは高頻度取引を説明する際に、次のような説明をしてきた。
いまやネット取引ならば個人の感覚ではどこに居ても瞬時に注文を出せると思っているでしょうが、プロ・・・・というより(機械化された)ファンドは、それ以上の1000分の1秒を競い合っているのです。その世界では、距離もモノを言い東京の中央区にある取引所に注文を出すにあたり、この場合福岡の投資家より大阪が有利。大阪より横浜が有利、さらに東京が有利。さらに細分化すれば、八王子より新宿が有利、新宿より日本橋が有利・・・という具合で1000分の1秒すなわち「ミリ秒」を争い注文を出したり引込めたりということを繰り返しているのです・・・と。もちろん注文を受ける方の取引所も処理能力を上げるためにシステム投資を進め、これらの注文に対応する受け皿になっていると。むしろなっていなければ、注文は他の市場に行ってしまい受けられない取引所は廃れると・・・・。
対応していても時に、わずかな間に膨大な売りや買いが出され、システムが混乱する事例も見られている・・・・と。3年前だったと思うが5月のNY証券取引所で、大量の売り注文が瞬時に出されNYダウが週間的に1000ドル超下げるということがあった。当初は何が起きたかわからず、大きな誤発注(Fat finger・・・・キーボードの操作ミス)が原因とされたが、後に高速取引により大量の売り注文が瞬時に出され、買い注文を浚(さら)うような状況で値がストンと落ちたことが判明する。この時から“Flash Trade(フラッシュ・トレード)”の存在が、広く一般投資家の間でも知られるようになった。
市場の攪乱要因とする見方から、流動性を提供する大切な市場参加者という見方まで賛否が分かれ、そのまま今日に至っている状況だ。
既に報道を見聞きされた人も多いだろうが、今回のFOMC(連邦公開市場委員会)の決定をめぐりシカゴの一部トレーダーに事前に声明文の内容が漏れた可能性があり、それを基に金の買いトレードがされたのではないかとの疑念をシカゴの調査会社の話として米CNBCテレビが報じ物議を醸している。
内容は冒頭に書いたようなものだが、「FRBがあるワシントンからの距離を踏まえると、通常ニューヨークのトレーダーはシカゴのトレーダーよりも5ミリ秒程度早く情報を入手できる」という。ワシントンからシカゴに情報が伝わるのに1000分の7秒すなわち7ミリ秒かかるのだという。しかるに今回は声明文発表後シカゴの方がニューヨークより5~7ミリ秒早く取引が活発化したのだが、そのためには発表時刻の午後2時より前に情報が伝わっている必要があるのではとの指摘を「Nanex」という調査会社がして、CNBCが報じたもの。
FRBは発表時間直前にFOMCの声明文を報道機関に配布するが、厳格に解禁時間を定めているとされる。したがってフライングは通信社ということになるとされる。通信社はFRBからの問い合わせに約束は遵守していると答えているようだ。しかし、1000分の1秒単位のものを検証し証明するというのも大変な時代になったものだ。立証は難しいのではないか。
このミリ秒単位の攻防が利益に大きく跳ね返ると見られるが、少なくとも個人は、近いところでは来週の米雇用統計発表前後の乱高下を利用して一儲けなどと考えない方がよかろう。高度なシステムを持たぬ身が対抗するには、動物的勘とひらめきが必要となりそうだ。
ノックインを組み込んだ金融商品を所有していた人にとってはたまらない取引ですよね ましてやそれがお年寄りだったとすると、やりきれない気持ちになるでしょう・・・