伊達の町から、すっかり雪が消えた。
まだ朝夕の風は冷たいけど、陽光は春である。
そんな日差しを待っていたのか、
戸外に人の姿が増えてきたように思う。
私も、3月の声と共に、
ジョギングの場所を、体育館のランニングコースから、
路上へと変えた。
毎朝とはいかない。
週に3,4日、5キロか10キロをマイペースで、
ゆっくりと走っている。
くり返しになる。
私が走る道々にも、すれ違う人、見かける人が、
徐々に増えてきた。
見知らぬ人であっても構わない。
走りながらだが、出会った人へは必ず挨拶をする。
すると、走り抜ける私へ、挨拶と一緒に、
時々、何か声をかけてくれる方がいる。
走り抜けるわずかな時間だ。
そこでの言葉のキャッチボールは、
二言三言、いや一言二言だ。
早春のそのやり取りを、いくつか紹介する。
①
歩道の雪融けが進んだ。
「これなら走れる。」
そう思って、快晴無風の朝を選んで、
今年初めての路上ジョギングへ出た。
まだ、畑には雪が残っていた。
厚手のトレーニングウエアーにニット帽、手袋で、
ハアーハアー、ハアーハアー。
吐く息は、まだ白い。
しかし、大きな青空、真っ白な山々、まっすぐな道、
久しぶりの景観だ。
その広大さに魅せられながら、足を進める。
そして、約30分、5キロを走り、自宅が見えた。
その十字路で、愛犬と散歩する知った顔の奥さんと出会った。
走りながら私が、先に挨拶をした。
すると、
「ようやく春めいて、いい天気。今日が走りはじめ・・?」
確かにその通りだ。でも、「走りはじめ」を・・。
よくそんなことまでと驚く。
そして、次に、
「あら、奥さんは・・?」
とっさに、
「今日は、ひとりです。」
「そう、まだ寒いから、それはそれは・・。」
やり取りは、そこまでだ。
私は、小さな十字路を横切り、
奥さんに背を向け、
変わらないテンポで、我が家へと走った。
今までにあの方と、何回言葉を交わしただろう。
記憶をたどった。
1回か、2回だろうか。
こんな長いやり取りは、今日が初めて。
きっとこれを機に、
距離感が短くなるだろう。
自宅に着くなり、家内に
「・・それはそれは・・。だって」
笑顔で教えた。
②
歩道の雪融けが進んでも、
北側の道端には、雪かきでできた雪山が残っている。
そのままにしておいても、やがてその雪山も消える。
だが、多くの家々では、天気のいい日に、
その雪を路上にまき散らす。
雪山を崩し、雪融けを早めるのだ。
朝から好天だった。
明るい日差しに促され、久しぶりに10キロのジョギングに出た。
その途中だった。
車道と歩道の間にある街路樹の並木にそって、雪山が残っていた。
その雪山に上がり、スコップで車道に雪まきをする方が見えた。
2、3度、雪を放ると休み、また放っていた。
次第にその姿が近づき、ハッキリした。
真っ白なタオルで、キリリと頭をおおっていた。
しかし、私より明らかにかなり高齢の老人だ。
休み休みの作業テンポが理解できた。
その歩道を走り抜ける時、
私は、何のためらいもなく口にした。
「おはようございます。無理しないで。気をつけて!」
優しい声で、ねぎらいを込めた。
老人は、スコップをとめ、
雪山からじっと私を見下ろした。
そして、走り抜ける私の後ろ姿に向かって言った。
「あんたもな、・・無理しないでな!」
その声は、ハッキリと私に届いた。
ねぎらいの返礼だと思う。
素直に、右手でも挙げ、それに明るく応じればいい。
しかし、私よりずっと高齢の方からの、
「あんたもな」に、ショックを受けていた。
急に、足が止まりそうになった。
あの朝、老人の言葉を激励と思い直すまで、
随分と時間がかかった。
③
伊達ハーフマラソンまで、3週間余りとなった。
例年、この時期は、市内を走るランナーが増える。
みんな、その日に備えて頑張っているのだ。
そんな姿に、私は励まされている。
ハーフマラソン4キロ付近から約5キロのコースは、
伊達サイクリングロードと呼ばれる道幅3メートル程の遊歩道である。
つい先日、その道まで足を伸ばした。
マラソンコースの一部とあって、
スイスイと走るランナーが私を追い抜いていった。
そして、また1人。
そんな軽やかな後ろ姿を見ながら、
私はいつもと変わらず、マイペースでチリリン橋で折り返す。
そして、ついさっきUターン前に、
挨拶をしながら追い抜いた散歩の男性とすれ違った。
同世代だと思った。
「伊達ハーフ、走るの?」
走りながら、私はうなずく。
「走ってみたかったなあ俺も。頑張って!」
無言で、もう一度大きくうなずいた。
軽快な走りにはほど遠いが、
足どりが心持ち速くなった。
こうして走っていることに、幸せ感が加わった。
それから1キロも行っただろうか。
同世代の女性が2人、笑顔で話しながらの散歩だった。
次第に近づいた。
私の「おはようございます」に、話しながら笑顔で会釈した。
その会話が、すれ違う私の耳に小さく届いた。
「ここ、マラソンのコースだから・・。」
「走るのかしら、今度・・。」
「その練習よ、きっと・・!」
「頑張るわね。すごいね。」
それ以上は、聞き取れなかった。
しかし、近くには私しかランナーはいない。
すると、「あの会話は私のこと・・!?」。
そう類推した。
急に心も体も弾んだ。
呼吸が苦しくなり始めたことも忘れて、足が前へでた。
さて、どれだけ走ることができるか。
不安だけが先行している。
しかし、同世代のさり気ないエールを耳にした。
「よし、今年も頑張ってみよう。」
そんな気に、私をさせてくれている。
歴史の杜公園 せせらぎの小道も早春
※次回のブロク更新予定は、4月6日(土)の予定
まだ朝夕の風は冷たいけど、陽光は春である。
そんな日差しを待っていたのか、
戸外に人の姿が増えてきたように思う。
私も、3月の声と共に、
ジョギングの場所を、体育館のランニングコースから、
路上へと変えた。
毎朝とはいかない。
週に3,4日、5キロか10キロをマイペースで、
ゆっくりと走っている。
くり返しになる。
私が走る道々にも、すれ違う人、見かける人が、
徐々に増えてきた。
見知らぬ人であっても構わない。
走りながらだが、出会った人へは必ず挨拶をする。
すると、走り抜ける私へ、挨拶と一緒に、
時々、何か声をかけてくれる方がいる。
走り抜けるわずかな時間だ。
そこでの言葉のキャッチボールは、
二言三言、いや一言二言だ。
早春のそのやり取りを、いくつか紹介する。
①
歩道の雪融けが進んだ。
「これなら走れる。」
そう思って、快晴無風の朝を選んで、
今年初めての路上ジョギングへ出た。
まだ、畑には雪が残っていた。
厚手のトレーニングウエアーにニット帽、手袋で、
ハアーハアー、ハアーハアー。
吐く息は、まだ白い。
しかし、大きな青空、真っ白な山々、まっすぐな道、
久しぶりの景観だ。
その広大さに魅せられながら、足を進める。
そして、約30分、5キロを走り、自宅が見えた。
その十字路で、愛犬と散歩する知った顔の奥さんと出会った。
走りながら私が、先に挨拶をした。
すると、
「ようやく春めいて、いい天気。今日が走りはじめ・・?」
確かにその通りだ。でも、「走りはじめ」を・・。
よくそんなことまでと驚く。
そして、次に、
「あら、奥さんは・・?」
とっさに、
「今日は、ひとりです。」
「そう、まだ寒いから、それはそれは・・。」
やり取りは、そこまでだ。
私は、小さな十字路を横切り、
奥さんに背を向け、
変わらないテンポで、我が家へと走った。
今までにあの方と、何回言葉を交わしただろう。
記憶をたどった。
1回か、2回だろうか。
こんな長いやり取りは、今日が初めて。
きっとこれを機に、
距離感が短くなるだろう。
自宅に着くなり、家内に
「・・それはそれは・・。だって」
笑顔で教えた。
②
歩道の雪融けが進んでも、
北側の道端には、雪かきでできた雪山が残っている。
そのままにしておいても、やがてその雪山も消える。
だが、多くの家々では、天気のいい日に、
その雪を路上にまき散らす。
雪山を崩し、雪融けを早めるのだ。
朝から好天だった。
明るい日差しに促され、久しぶりに10キロのジョギングに出た。
その途中だった。
車道と歩道の間にある街路樹の並木にそって、雪山が残っていた。
その雪山に上がり、スコップで車道に雪まきをする方が見えた。
2、3度、雪を放ると休み、また放っていた。
次第にその姿が近づき、ハッキリした。
真っ白なタオルで、キリリと頭をおおっていた。
しかし、私より明らかにかなり高齢の老人だ。
休み休みの作業テンポが理解できた。
その歩道を走り抜ける時、
私は、何のためらいもなく口にした。
「おはようございます。無理しないで。気をつけて!」
優しい声で、ねぎらいを込めた。
老人は、スコップをとめ、
雪山からじっと私を見下ろした。
そして、走り抜ける私の後ろ姿に向かって言った。
「あんたもな、・・無理しないでな!」
その声は、ハッキリと私に届いた。
ねぎらいの返礼だと思う。
素直に、右手でも挙げ、それに明るく応じればいい。
しかし、私よりずっと高齢の方からの、
「あんたもな」に、ショックを受けていた。
急に、足が止まりそうになった。
あの朝、老人の言葉を激励と思い直すまで、
随分と時間がかかった。
③
伊達ハーフマラソンまで、3週間余りとなった。
例年、この時期は、市内を走るランナーが増える。
みんな、その日に備えて頑張っているのだ。
そんな姿に、私は励まされている。
ハーフマラソン4キロ付近から約5キロのコースは、
伊達サイクリングロードと呼ばれる道幅3メートル程の遊歩道である。
つい先日、その道まで足を伸ばした。
マラソンコースの一部とあって、
スイスイと走るランナーが私を追い抜いていった。
そして、また1人。
そんな軽やかな後ろ姿を見ながら、
私はいつもと変わらず、マイペースでチリリン橋で折り返す。
そして、ついさっきUターン前に、
挨拶をしながら追い抜いた散歩の男性とすれ違った。
同世代だと思った。
「伊達ハーフ、走るの?」
走りながら、私はうなずく。
「走ってみたかったなあ俺も。頑張って!」
無言で、もう一度大きくうなずいた。
軽快な走りにはほど遠いが、
足どりが心持ち速くなった。
こうして走っていることに、幸せ感が加わった。
それから1キロも行っただろうか。
同世代の女性が2人、笑顔で話しながらの散歩だった。
次第に近づいた。
私の「おはようございます」に、話しながら笑顔で会釈した。
その会話が、すれ違う私の耳に小さく届いた。
「ここ、マラソンのコースだから・・。」
「走るのかしら、今度・・。」
「その練習よ、きっと・・!」
「頑張るわね。すごいね。」
それ以上は、聞き取れなかった。
しかし、近くには私しかランナーはいない。
すると、「あの会話は私のこと・・!?」。
そう類推した。
急に心も体も弾んだ。
呼吸が苦しくなり始めたことも忘れて、足が前へでた。
さて、どれだけ走ることができるか。
不安だけが先行している。
しかし、同世代のさり気ないエールを耳にした。
「よし、今年も頑張ってみよう。」
そんな気に、私をさせてくれている。
歴史の杜公園 せせらぎの小道も早春
※次回のブロク更新予定は、4月6日(土)の予定