昨年亡くなった市川崑監督の幻の名作と言われる「その木戸を通って」をやっとDVDで観ることができた。とうとう熊本では劇場公開されなかったようだ。何しろ16年も前にハイビジョンで撮影され、BSで1回放映されたきりだったらしいが、昨年11月、初めて劇場公開されたものだ。2002年に山田洋次監督の「たそがれ清兵衛」を観た時、それまでに観た時代劇にはない新しさを感じたものだが、その約10年も前に、既にこんな時代劇を作っていた市川崑の凄さをあらためて感じた。原作は山本周五郎の短編小説。時代劇と言ってもチャンバラがあるわけでもなく、ある城勤めの武士と一人の女とのミステリアスな出逢いと別れを淡々と描いている。しかし、その格調高い叙情性と映像美には引きずり込まれてしまう。出演者も浅野ゆう子、中井貴一、フランキー堺、井川比佐志、岸田今日子、石坂浩二、神山繁、榎木孝明など、そうそうたるキャスティングだ。スタッフの中に音楽の谷川賢作や助監督の佐々部清の名前があるのが興味深い。