昨日の段山御旅所での能番組の最後は、喜多流の半能「熊坂」だった。シテを務めた狩野祐一さんは弱冠23歳。彼を初めて見たのは4年前の同じ段山御旅所能舞台で演じた「敦盛」だった。あれから4年経ったが能役者としてはまだ若手も若手。薙刀を振り回しながらのダイナミックな「飛び返り」を見ながら、「あゝ若さっていいな…」と思った。能ではよく、身体性と精神性という言葉を目にする。所作で体現することと、深い思いや感情を観る人に感じさせることのバランスがとれていなくてはならないという意味だと解釈している。この「熊坂」は盗賊熊坂長範が金売吉次の一行を襲い、一行に加わっていた牛若丸(義経)に逆に切り伏せられる場面を長範の霊が再現するところがクライマックスとなっている。長範の怒りや悔しさがダイナミックな動きによって表現されるわけだが、面をつけて視界が限られ、重い装束でしかも長い薙刀を振り回しながらの「飛び返り」を見ていると、これは若い肉体でないとあのキレは出ないのではないかと思ってしまう。やゝもすると深い精神性の方が尊く見られがちな能にあって、もっと身体性を重視した能を観たいというのが一能楽ファンとしての率直な想いである。
