どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

日記帳 冬ものがたり

2024年12月23日 | 創作(日本)

   日記帳/那須正幹・作/ものがたり十二か月 ふゆ物語/偕成社/2008年

 

 新年をむかえる時期になると、今年こそという気持ちになるが、結局は三日坊主になるというのもたびたび。今年こそ禁煙をとおもっていたら、いつの間にか 何十年! 一日も続かない。

 

 今度こそ、日記をつけようとして日記帳をもとめたヤスオ。「つけだしたらやめられなくような、そんなやつがあればいいんだけどね」というヤスオに、店のおやじさんが、自分も愛用しているという、布ばりの装丁がしてある緑色の当用日記をすすめてくれた。

 本屋のおやじさんがいう、「だまされたと思ってつかってごらん、一年間つづけずにはいられたくなるから」という日記帳を買って帰ったヤスオ。

 新しい年がはじまり、ヤスオはあたらしい日記帳をつかいはじめた。二週間がすぎたころ、うっかりわすれて布団に入った。しかし布団にもぐりこんだものの、すこしもねむれない。なにかの力がはたらいてヤスオをむりやりおこしているみたいだ。きょうはまだ日記をつけていないことを思い出したヤスオが、日記帳をつけたとたん、たちまちねむくなって、朝までぐっすり眠った。

 修学旅行の際、日記帳を持たずに旅行すると、二泊とも一睡もできなかった。どうやら日記帳になにかのしかけがあるにちがいなかった。おかげでその年、ヤスオは生まれてはじめて一年間日記をつけた。

 十二月もおしせまったころ、「去年買った日記帳ね。あれすごくよかった。ことしもあれください」と、ヤスオはふたたび本屋をたずねた。

 ここ、十年ばかりのあいだ日記帳をつけていたという本屋のおじさんは、「あの日記の紙には、とくべつな薬がしみこませてあって、ペンのインクと化合すると、そいつが人間のからだに作用するしかけになっていたんだ、一種の中毒作用でね。一日に一度はそいつを吸収しないとねむれなくなるってわけさ。」といいながら、ゆううつそうな顔でつづけた。

 「この夏、あの日記帳を製本している会社がつぶれてしまってね。もうあの日記帳は売ってないんだよ。いったい来年はどうしたらいいのかねえ。へたをすると、あんたもわたしも永久にねむれないことになっちまうぜ。」

 

 三日坊主を克服するのも大変です。


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