どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

えんのぎょうじゃ・・・小川町の民話

2014年03月10日 | 私家版
 平成4年に発行されている「小川町の民話と伝説」。
 一度、このブログで紹介しましたが、小川高校郷土部の取材がもとになっているユニークなもの。
 せっかくなので、語ってみたいと思い、少しだけかえてみました。

 ここに出てくる下里、腰越は当然のことながら、小川町の地名で、古寺というのも実際にあるお寺です。
 ここに住んであまり間がないので、なぜ「えんのぎょうじゃ」なのか説明できないのが残念ですが・・・

<えんのぎょうじゃ>
 むかしむかし、下里村の人が畑仕事をしていたときのことです。
ズシン!ズシン!ゴウ、ゴウ突然の地震です。
山々がたてに波をうっています。
畑仕事をしていた男も女も鍬を投げ捨てて叫びます。
「地震だ!竹藪に入れ。赤ん坊は大丈夫か」。
「わああ、きゃあ」
「コケコッコー」「ヒーン、ヒーン」動物たちも大騒ぎです。村は、ハチの巣をつついたようになりました。
やっと地震はおさまりました。そんなに長い間ではないのに、竹藪や押し入れで中でかくれていた人たちは、とても長く揺れていたように思いました。
そして、さっきの騒ぎがウソのような静けさがもどってきました。かくれていた人々は、しばらくはじっとしていました。それから口々に、いいあいました。
「おい、さっきの地震はすごかったなあ。」「田んぼのどじょうまでおどっていたぞ。でもなんか変な地震だったよなー。」「まるで大男でも歩いたみてえな調子だったよ」「それにしてもおっかなっかたよ。おらなんか声もでなかったよ」
 しばらくして、こんどはグオー、グオーという音が聞こえてきました。村の人たちは気味悪がって、誰も野良へ出かけようとしませんでした。夜がふけましたが「グオー」という音は消えませんでした。
次の日も、やはり「グオー」という音がしました。村人たちは、家の中でじっとしていましたが、べんぞうさんだけは、畑にでかけていきました。
次の日も、やはり「グオー」という音はやみません。地震のあった日から三日間も、その音は続きました。村人たちは気味悪くてたまりませんでした。
 村の人たちは、いつの間にか一つの場所に集まって、話し合いをはじめました。
「なあ、どうもあの音は、腰越のむこうからでているんじゃあないかな」
「うん、おらもそう思っただ」
「おらも」
「んだ、んだ」
「だれか腰越のほうに行って見てこいよ」
「おらやだ」
「おらもだ」
みんなだまってしまいました。
「そうだ、べんぞうにいかせるべー」
自分が行くのではないので、話はいっぺんにまとまりました。
 べんぞうさんはあまりいきたくありませんでしたが、みんなから、お願いされて、しかたなく、とぼとぼあるきだしました。べんぞうさんは腰越を越え、古寺にいきました。
 ズシン!ズシン!音が一段と強くなりました。
「オオオー!アアア!」
べんぞうさんは、言葉にならない言葉で叫んでいました。べんぞうさんは、なんと山より大きい大男を見てしまったのです。
「だれだ!」
鼓膜がやぶれるような、いや、地面まではりさけような声がしました。
べんぞうさんは恐ろしさのあまり、ペタリとすわりこんでしまいました。
しかし、大男はべんぞうさんには目もくれず、「いまいましい石ころめ!」と言いながら立ちどまり、ゲタの歯にはさまった石を、ポーンといせいよく蹴り上げました。石ころは、下里のほうまで飛んで行ってしまいました。大男は「ズシン!ズシン!」と足音をひびかせ、北へ北へと行ってしまいました。
べんぞうさんは、いちもくさんに村へ向かってはしりだしました。
 そのころ、下里ではべんぞうさんを心配して、村の人たちが走りまわっていました。
べんぞうさんが帰ってきたときです。べんぞうさんは、もう息もたえだえに、「え・ん・の・ぎょう・じゃ・が・げた・のあいだの石・・」と言っただけで、そのまま息をひきとってしまいました。
 村の人たちは、べんぞうさんの話と、飛んできた大きな石を見ながら、
「きっと、えんのぎょうじゃという大男が、腰越のほうの山にやってきたにちがいねえ。あの地震も、飛んできたあの石も、えんのぎょうじゃのしわざなんだんべえ。」
「それに、べんぞうの話からすると、その石はゲタの歯にはさまってんじゃあねえか。」
「それにしてもあれが、ゲタの歯にはさまった石かいのお。そんなに大きな男だったんだんべえか。」と、言い合いました。

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