マディバ・マジック/ネルソン・マンデラ・編 和爾桃子・訳/平凡社/2023年
本の帯に”お思わないよね お思わないよね これから始まるお話を 本当だとは思わないよね”と、ねんをおしています。
マンジューザって女は、歌声がとても豊かで、踊りときたらもう絶品。大事なお祝いには踊ってくれと遠くからも近くからも呼ばれ、婚礼では一番人気の舞い手。
マンジューザは、まわりからお似合いだと認められたムティヤネと結婚し、男ふたりと、ひとりの女の子ができました。ムティヤネは狩人たちを連れて何週間も狩りに出かけると、こどもやマンジューザことに思いをめぐらしては、恋しさを持て余していました。
ある日、マンジューザは、二日後に帰る夫のためにビールを作っていたが、よそのおばあさんがやってきて、孫のために婚礼で踊ってくれないかとたのまれた。でも、マンジューザには先約がはいっていて、別の日にしてくれと言っても、たのみにきたおばさんから、せっかくの日取りを変えるのは縁起でもないと逆切れされ、それだけでなく、あなたの夫を呪ってやる、帰り道で災難にみまわれて、おそろしい化け物に変わり果ててしまうがいいと言い捨てて、帰りました。
ムティヤネが帰るはずの晩になりましたが、子どもたちが寝落ちしてもかえってこず、起きて座っているのは、母親だけでした。夜明け前にかえってきたムティヤネのすがたは、ずいぶんおかしな姿になっていて、妻の前で七つ頭の大蛇にかわり、おそろしい化け物になってしまいました。
マンジューザは、子どもたちがおきる前に、なんとかこの蛇をどこかにかくそうと、作物小屋の大きな黒い甕に、大蛇をかくし、こっそり食事をもっていきました。
その夜、マンジューザの祖母があらわれ、呪いを解くには、七つの婚礼で踊りさえすればいい、七つめの婚礼から帰ってきたら、夫はもとのとおりになる、しかし、いまの話はくれぐれも内緒にしておくようにといいました。
マンジューザは隠し通して蛇を養い続けました。子どもらは父が狩りにいってかえってこないことを母親に尋ねますが、何も言いませんでした。マンジューザは、それからひとつ、ふたつと婚礼で踊り、七つめの婚礼になる当日になると、じっくりと身ごしらえし、小屋のカギをもって出かけました。子どもたちには、けっして小屋に入るなといっており、小屋のカギはいつも かけていましたが、その日は戸締りを忘れていました。入るなと言われるとはいりたくなるのが、人情。一番上の子が戸をあけてみると、戸があき、なかの甕をあけてみると、七つ頭の巨大な蛇。
逃げだした子どもが、友だちとやってくると、甕からでてきた大蛇と遭遇しました。子どもたちが逃げ帰って、親に話すと、さっそく棒切れをもって蛇のところへ向かいますが、みんな金縛りにあったように動けません。親たちが村へ帰ると、女たちから、日没まで蛇を退治しろと厳命。というのは男たちが臆病になって、怖さをごまかしていると思われたからでした。男たちがそれでも言い訳して、でかけようとしないので、女たちは、熱いお粥の鍋をめいめいの頭にのせ、大蛇のところへいって、お粥を浴びせます。
みんな喜んで、「ひとつ、またひとつと蛇の頭をやっつけたぞ、やったじゃないか、蛇の頭を一つ、またひとつ」と、歌っていると、七つ目の婚礼から帰ってきたマンジューザは、夫が殺されたと、涙が出てきます。ところが人の肩越しにうかがうと、火ぶくれだらけになって死んだ緑の蛇皮から、愛する夫がのろのろおきだし、ずっと寝ていた人みたいにくしゃくしゃの顔をして、ろくに目も開かないありさま。マンジューザの夫が、まさかの場所からいきなり舞い戻ったのでびっくりして、歌声がやんだ。
ぼうっとしながらもたちあがったムティヤネに、マンジューザが駆け寄ると、ムティヤネはつらい日々から解放され泣き笑い。子どもたちも走りより、呪いの終わりを告げる日は、こうしてしめくくりをむかえました。
この話には、七つの大蛇の頭が、それぞれ会話する場面もあります。
日本にこれまで紹介されているアフリカのお話しとは、趣が違うようです。