日本、ベトナム、ブルガリア、韓国とまったく違った地域で、同じような構成の昔話です。
ねこ、ねずみがでてきて、宝物?が行方不明になり、みつけだすと、それを川に落としてしまい、魚の中からでてくるという構成です。ただしブルガリア版では、アヒルとネコという組み合わせです。
「犬とねことうろこ玉」では貧しいおじいさま、「黄金のえび」では金持ち。
・犬とねことうろこ玉(子どもに語る日本の昔話1/稲田和子・筒井悦子/こぐま社/1995年初版)
じいさまは三毛ねこと子どもにいじめられていた犬を買いとって大切に飼っていました。
ある時、たきもの置き場をこわしていたときでてきた白いヘビを世話して、ひとり立ちするほど大きくなったので、家をでていくように話すと、白いヘビは庭の五葉の松の根方の穴にするすると入っていきます。じいさまは、その穴の中にうろこ玉を見つけます。
このうろこ玉をからは、毎日黄金のつぶがわき、じいさまは金持ちになり、その金で呉服屋商売をはじめると、これも大繁盛。
ある日、上方から一人の若者が番頭に使ってくれと頼むので、雇ってみるとりこう者ですっかり、じいさまに気に入られ、たちまち店のことをまかされるようになります。
ところが、ある日、番頭は、たんすの鍵をあずかったのをこれさいわいと うろこ玉を盗み出し、消え失せてしまいます。するとじいさまは日に日に貧乏になってしまいます。
じいさまが犬と三毛ねこに貧乏で飼えなくなったことを言い聞かせると、2匹は家を出て、番頭を探しに行きます。
とくいの鼻で番頭の足あとをかぎながら上方で見つけたのは、おぼえのある番頭の店。
ここで、ねずみをおどし、うろこ玉をもってじいさまの家をめざして行きますが、途中、きつねとあそんでいるうち、うろこ玉を川に落としてしまいます。
あちこち探してもうろこ玉はみつかりません。手ぶらでじいさまのところに帰るわけにはいかないと、一軒の魚屋の魚をさらってじいさまのところにかえります。じいさまが喜んで魚に包丁を入れるとなかからでてきたのはうろこ玉でした。
それからは一家はまた昔のように栄えます。
・イヌとネコと青い玉(新潟のむかし話/新潟県小学校図書館協議会編/日本標準/1976年)
うろこ玉が青い玉。それも、一日に、にぎりめしを三つずつ青い玉にあげれば、のぞみしだいのものがでるというもの。(玉が食べるというのも昔話らしい)
助けたヘビからもらった青い玉で、おじが立派な家を作り、きれいなよめさんを もらったのはよかったが、そのよめさんが宝物の青い玉を盗んで家に帰ってしまいます。
ネズミに、倉を七日七晩かじってもらい、青い玉を取り戻します。ネコがイヌの背中におぶさって川をわたっているとき、イヌが深いところにはまり、ネコの耳に水が入ったとき、口にくわえていた青い玉が、川のなかに落ちてしまいます。
そのとき、おじが 子どもたちからいじめられていたのを助けてやったカメが、青い玉をくわえて あがってきます。
・黄金のえび(ベトナム)(世界の民話10 ベトナム・タイ・インドネシア/小澤俊夫・編/ぎょうせい/1999年新装版)
黄金のえびといううろこ玉に似たものがでてきます。
美しいねこを飼っていた金持ちの男が金細工師の親方に黄金のえびを作ってくれるよう頼み、できあがったえびを大切にしていました。
ところが急な用事ででかけてえびをもっていくのを忘れ、帰ってみるとえびはどこを捜してもみつかりません。
ねこに聞いてもわからず、ねこがねずみに尋ねると、どうも盗んでいったのは金細工師です。
ねずみが黄金のえびをみつけ、帰る途中、ねこが黄金のえびを川に落としてしまいます。
ねことねずみが、あれこれ相談しているとき川の水面を泳いでいた魚をみつけ、魚を捕まえると、魚は、あまり固すぎるので吐き出してしまった言います。
魚をおどして、川底に落ちていた黄金のえびを持ち帰る途中、今度はカラスにとられてしまいます。ねこは死んだふりをして、黄金のえびを取り戻すのですが・・・。
・パーペルじいさんの光る石(吸血鬼の花よめ ブルガリアの昔話/八百板洋子:/編・訳/福音館文庫/2005年)
ブルガリア版を段落ごとにみてみます。
<羊飼いのおじいさんが、トカゲを助け、お礼に光る石を手に入れます>
<おじいさんは、光る石で立派な屋敷を手に入れます>
<隣に住んでいるイワンが、光る石をもっていってしまいます>
<アヒルとネコが、光る石をとりかえすためにでかけますが>
<ネコとアヒルが光る石を取り戻しますが、川に落ちてしまいます>
<漁師が魚を釣って、それをアヒルとネコにあたえると、魚のなかから光る石が出てきます>
このおじいさん、欲はなく、光る石に、なにか特別なことを頼むわけでもなく、やがておじいさんが亡くなると、どこからトカゲがやってきて、石をくわえて立ち去るという余韻の残るおわりです。
・男の子と指輪(西アフリカおはなし村/文・江口一久 画・アキノイサム 編集・国立民族学博物館/梨の木舎/2003年)
「犬と猫とうろこ玉」のうろこ玉が指輪になっているちがいはありますが、構造はおなじです。”うろこ玉”は日本の昔話では比較的長い方ですが、この話はその三倍以上の長さになっています。
子どもが生まれるとき、父親は五フラン硬貨七枚を残し亡くなります。
男の子が15歳になったとき、硬貨をもって遊びにいき、虐待されているネコ、イヌ、ヘビ、そして小鳥を、いずれも五フランでもらいうけ、残っていた硬貨で、動物たちに食べ物を用意します。
さて、この町の王さまにはきれいな娘があって、男たちはみんな結婚させてくれとおねがいしますが、その条件というのが、牢屋で七日間絶食して死んでいないこと。
何人も挑戦しますがうまくいきません。もちろん男の子も挑戦し一旦は、牢屋にはいりますが、急に王さまが心変わりし牢屋から出ます。
男の家にはヘビがいましたが、殺されかけたとき命を救ったお礼に、ヘビの父親から不思議な指輪を手に入れます。男の子がほしいものはすべて指輪がくれます。
男の子はもういちど王さまのところへでかけ、牢屋の中で七日間の絶食を行います。
指輪が食べ物と水をもってきますから、七日後に元気で牢からでてきます。
娘との結婚が許されますが、そのためには黄金でできた何階もある家をもってくるのが次の条件でした。
黄金の家も指輪がもってきてくれて、娘と結婚します。おそろしいほど娘が好きだった男の子は、指輪を娘にはめさせます。
王さまの娘と結婚したいと思っていたもう一人の男がいました。この男は、この家の隣にすむおばあさんが、娘とよく話をしている間柄を知って、おばあさんに指輪を手に入れてほしいと頼み込みます。
ほしいものはなんでもやるという男につられて、おばあさんは指輪を手に入れ、もう一人の男にわたします。もう一人の男は、指輪の力で、娘の住んでいる屋敷ごと、自分のものにしてしまいます。
王さまは、娘が消えてしまった男の子に、三日間のうちに、娘がかえってこなかったら、首を切ってしまうといい、牢屋に入れてしまいます。
これから、ネコ、イヌ、小鳥が川を七つこえて、もうひとりの男から、指輪を取り戻します。ネコが指輪をとりもどしたのですが、イヌがこんなに苦労した指輪を川に投げ込んでしまいます。
漁師が魚をとっているところで、ネコは魚のはらわたを手に入れ、はらわたのなかを探ってみると、そこには指輪がはいっていました。
この指輪は男の手にもどり、王さまの娘も屋敷ももとどおりに。最後は因果応報で、男もお婆さんも殺されてしまうと結末。
かなり長い昔話で、1995年にアラビア語で語られたとありました。
発端は「慈悲ふかき 信じるものに慈悲ふかき アッラーのみ名によって」とイスラム風です。
いぬとねこ/再話:ソ・ジョンオ 絵:シン・ミンジェ 訳:おおたけ きよみ/光村教育図書/2007年
おばあさんが漁師にとらえられていたすっぽんを助けことから、おばあさんは竜宮にいきます。
竜宮には、乙姫ならぬ竜王がいました。
楽しく暮らし、竜王の杖に埋め込まれている玉をもらって、家に帰ります。
でだしはスッーと進んでいきます。
竜王の玉は、大きな家に住みたいと思えば、立派な家が、新しい着物が着たいなあと思うときれいな着物が、おいしいものを食べたいと思うと、ごちそうが、パッとあらわれる魔法の玉。
やがて噂を聞いたよくばりばあさんが、小間物売りに変装しておばあさんのところへやってきて、魔法の玉をにせものの玉にかえてしまいます。
おばあさんのくらしはもとどおり。
そこでいぬとねこが、玉をとりもどすべくでかけます。
よくばりばあさんのところへいくには、川をわたらなければなりません。
ねこは、王さまねずみをつかまえて脅し、玉を見つけてくれるように頼みます。
やがてねこが玉をくわえ、いぬがねこをおぶって川を泳いでいきますが、ねこは玉をくわえているので、いぬから「玉はあるか?」と聞かれても、返事ができません。いぬが大きくからだをゆすると、ふりおとされては大変と、ねこはおもわず「玉は口にあるとも」とこたえると、その瞬間、玉は川にポチャンと落ちてしまいます。
いぬはそそくさとかえりますが、ねこは川辺をさがしまわります。
おなかがすいたねこが、こいをみつけガブリとかみつくと、こいのおなかから探していた玉がポロリと転げ落ちます。
ねこがいえのなかで、いぬは家の外で暮らすようになったのは、こうしたわけがあるというオチ。
国が違えば、表現もちがいます。ネコは「ヤオン!」、イヌは「モンモン!」、後記には、ぶたが「クルクル!」、とらは「オフーン!」とありました。
竜宮がでてきたり、よくばりばあさんがでてくるなど、より昔話の特徴がつまった再話でしょうか。
絵は色鉛筆とコラージュ技法で描かれたとありましたが、色鉛筆でここまで表現できるのにはビックリ。ねずみや船の窓からみえる海の様子も注目です。
ねこといぬとたからの玉/藤かおる・文 梶山俊夫・絵/太平出版社/2001年
韓国・朝鮮の昔話がもとになっていますが、日本人コンビによる絵本です。イェンナル(むかし)、イェンナレ(むかし)ではじまり、最後はクー(おしまい)でおわる
じいがやっと釣りあげたのは、でっかいでっかい金の魚。
金の魚から「わたしは、竜宮の王子で、いのちを たすけてくれたら 竜宮の たからの玉を あげます」といわれ、じいは にどと はりにかからないようにいい、海に はなしてやります。
次の日、一人の立派な若者が、じいの小屋を訪ねてきて、ほしいものが手に入るという たからの玉をおいて かえっていきます。
それから、大きな屋敷、米、味噌、小判を出して村一番の長者どんになったじい、ばあは、川の向こうにすんでいるよくばりばあに騙され、たからの玉を 失くしてしまいます。すると、たからの玉をなくしたじいの屋敷は、もとの藁ぶき小屋にもどってしまいます。
じいと いっしょにくらしていた いぬとねこが これは いちだいじ たからの玉をとりもどそうと よくばりばあの 屋敷に のりこみます。
ねずみの協力で、たからの玉をとりもどし、小屋にかえるとちゅう 川の中で いぬの せなかにのったねこが 口をきいたとたん くわえていた たからの玉が川のなかに 沈んでしまいます。
二匹が川下にはしっていくと、川下の漁師が つりあげた大きな鯉の口から、たからの玉が ころっと とびだしました。その玉をもちかえり、またみんな仲良く暮らします。
展開がスムーズで、シンプルにまとめられています。ねずみの おおぜいのかぞくに びっくり。最後は、いぬ、ねこ、ねずみが、じいとばあの 餅のつきあがりを待っています。