山形のむかし話/山形とんと昔の会・山形県国語教育研究会共編/日本標準/1978年
若い貧乏な大工が、腕を磨くため出稼ぎにいって、大きな川のそばの村に着いた。その村は川をこえて向こうに行こうにも橋もなく、流れがはやくて渡し船も難儀していた。
なんとかしてこの川に橋をかけたいとおもった大工の夢に、神さまが現れ、船橋を作ればいいもんだと教えてくれる。大工は村の庄屋へいって、橋を架ける仕事をさせてくれるよう頼みこみ、船づくりの大工をあつめてたちまち百艘ほどの船をつくった。ところがあと一艘、川の真ん中に浮かべるおおきな船を作る木がなく、はたとこまった。
お宮さまにとまりにいった大工が、神さまにお願いすると、親船の木なら、このお宮のクスノキを切って作れ、人のためなら、喜んで切られるべ、という。つぎの日、さっそく村いちばんの大クスノキを切り倒して、親船をつくった。
よろこんだ村の人たちが、少しずつお金を集めて、大工にお礼にさしだしたが、大工は、「仕事させてもらったばかりでもありがたい。人の役に立ってえがった」といって、お金はもらわずまた旅に出かけることにした。その日、最後だと思ってお宮さまにとまっておれいをのべた。するとまた、神さまがあらわれて、「あのクスノキで作った親船の上に、これから三日、日の出に立っていると、きっといいこと聞くから」と言って、姿を消した。
若者は、神さまの言うことを信じていたから、つぎの朝、さっそく親船の上にいってみた。三日目に、馬をひいた人から、「朝早くから、なにして立っているなや」と声をかけられたから、「ここに三朝立っているといいこときくからって、神さまの夢見たから」と返事した。
声をかけた人は、「夢信じるなどばからしい。おらもゆうべ、親船をつくったクスノキの根っこを掘り返すと、金銀の宝物がでてくる夢を見たが、おら本当のこととおもわねえもの」と、せせらわらいしながら馬をひっぱって、さっさと行ってしまった。
これが神さまのお告げだべと、若者がクスノキの根っこをほってみると、馬をひいた人の言うように、目の覚めるみたいな金銀ぴかぴかつまっている壺がでてきた。
村の人たちは、「これは正直な大工さんへ、神さまの贈り物だべ」って、おおよろこびしてくれた。そこから大工の若者は、山の村へ帰って、困っている人へお金をくれたりして、金持ち大工の長者さまよばれるようになった。
善良な人しかでてこない ほっこりする結末。