赤い鳥代表作集1/小峰書店/1998年
1919年「赤い鳥」掲載。
「太郎もおいで。次郎もおいで。お末もおいで」父さんが、遠い外国で聞いたきたみやげ話をしましょうと、三つのごく短い話。国語教科書でしかなじみがなかったが、島崎藤村が、こんな話を書いていたというのもあたらしい発見でした。
・うさぎとはりねずみ
うさぎとはりねずみが競争しようということになりました。はりねずみは、メスとオスが、出発地点と到着地点にかくれて、うさぎが勝ったと思った瞬間、顔を出し、先についたといいました。もういちど、もういちどと、なんと七十四へんもやり直し。はりねずみは、力がつきたうさぎを、自分のたちの巣にはこんでいき、いいごちそうにありつきました。
・いちご
伯母さんは、庭にいちごがつくっていましたが、娘に、いちごに さわらにようにいっていました。ところが我慢できなくなった娘が、いちごを摘んで、四つ五つばかり食べました。
伯母さんから、いちごに さわっていないだろうねと聞かれた娘は、首をふってみせました。ところが、伯母さんから息をしてごらんといわれ、いちごの香氣で、いちごを食べたことがわかり、娘ははずかしい思いをしながら、じぶんの過失を白状しました。
・盲目のすずめ
あるところの奥さんが、ロンドンのラスキン公園で、編み物をしたり、本を読んだりして、ときをおくるのを楽しみにしていました。この公園には小鳥もたくさんきていて、パンのきれだのおかしだのをもっていって、いつのまにか小鳥仲間のいいともだちになっていました。
小鳥のなかに、毎日のようにやってくるすずめがいましたが、なげてやったパンを食べようとしませんでした。ときどきそのすずめがみじかくなくと、ちょうど巣にでもいるように他のすずめが、パンのきれを拾って食べさせてやりました。よくみるとそのすずめは盲目で、おかあさんらしいすずめや、他のすずめ仲間が巣にいるとおなじようについていて、その盲目のすずめをいたわっていたのだそうです。
奥さんは深く心に感じて、よけいにその小さな鳥の群れをかわいがるようになったそうです。