福島のむかし話/福島県国語教育研究会編/日本標準/1977年
「旅人馬」をおもわせる話。
一軒の宿屋に泊まった坊さまが、夜中にへんてこな音がするので、ふすまの蔭からのぞくと、ばっぱ(ばあさま)が口で何やら言いながら、炉の中へ ごまの種をまいていたんだと。ばっぱが種をまき終わったか終わらないうちに、にょろ にょろ芽が出て、葉が出て、花が咲いて、ごまの実ができてしまった。坊さまは、なんて不思議なごまだべと思いながら見ていたと。そのうち、ばっぱは、うまそうな ごままんじゅうをつくったと。
つぎの日の朝、坊さまが起きだして、ばっぱのいる部屋に行ってみると、お膳の上に、ゆうべの ごままんじゅうがならべてあったと。「これは なにかあるな」と、思った坊さんは、「わしは、毎朝散歩してから 食べる」と、宿屋をでて、町で、ごままんじゅうを買ってかえってきた。
だされた、ごままんじゅうと、買ってきたごままんじゅうをすり替え食べ終わると、ばっぱに ばっぱのつくったごままんじゅうをすすめた。ばっぱが 何も知らないで食べると、ばっぱは、みるみるうちにベコ(牛)になってしまう。やさしそうなばっぱが、こんな風にして旅の者をベコにしては、それを売って金をもうけていたことがわかっただと。
坊さまが、「いままで、旅の者を苦しめてきたから、そのむくいで こんな姿になったんだ。」と、おしえてやったんだと。ベコになったばっぱは、「ベコになって、はじめてその苦しみを知ることができた。わたしは、なんてむごいことをしてきたんだべ。仏さま許してくんなしょ」と、拝んだと。
心を入れ替えたのならと、ばっぱは もとの人間のばっぱになることができたと。
昔話では、反省をすることが少ないが、あやまって、もとにもどるという安心感がありました。