母親と娘の関係考える 香山リカのココロの万華鏡
2017年4月25日 (火)配信毎日新聞社
2009年に首都圏で男性3人が不審死を遂げた事件が起き、その人たちを殺害した罪などで裁判を受けていた木嶋佳苗被告について、このほど最高裁が上告を退けた。本人は一貫して罪を否定しているが、これにより木嶋被告の死刑が確定することになる。
40代になった被告は、拘置所の中で日記や自叙伝を執筆し、支援者を通じて時々公表している。最高裁判決の前にも、長文の手記を週刊誌に発表した。
拘置所の生活の様子が詳しくつづられた手記によれば、被告は差し入れの缶詰やジャムなどでサンドイッチを手作りしたり、“トレンドの服”や“カシミヤの手袋”を愛用したりしているそうだ。裁判が始まってから文通や面会を繰り返した男性と結婚、その後、離婚や再婚までを経験しているともいう。無理やり「自分は楽しく生活している」とアピールしようとしている、としか思えなかった。
なぜそんなことをするのか。理由は分からないし、罪を犯しながら日々を楽しんでいるとしたらとても不謹慎で許しがたい。ただ、手記の冒頭に「今回、筆を執ることにしたのは、母親への思いをはっきりと記しておきたかったから」とあるのが気になった。
何度も、自分は「母によって否定された」という恨みや絶望を書いている。木嶋被告はいま、実の母親が娘である自分に対して「ほったらかし」だと感じているようだが、もしかするとそれは今に始まったことではないのかもしれない。
被告は教育熱心な家庭で子ども時代を過ごしたといわれるが、もしかすると昔から母親に「もっと甘えさせて、一緒に遊んで」などと言いたくても言えなかったのではないか。だからこそ今になって、母親に楽しさをアピールしてみたり、そうかと思うと唐突に、母は「私の死を誰よりも強く望んでいる」から死刑の早期執行を請願すると言ってみたりしている気もする。
安易に比べることはできないが、おとなになってから母親に「もっとかまってほしかった、優しくしてほしかった」という思いを抱く娘たちは、今とても多い。特に優等生として過ごした女性は、母親の前でも子どもっぽく振る舞えず、後になって「ほったらかし」と感じて恨みを抱いたりする。もちろん木嶋被告は特殊なケースだが、「母親に素直になれなかった娘」という点のみにおいて、どこか共通点がある気もする。母と娘の関係はどうあるべきなのか、しばし考えてしまった。(精神科医)
2017年4月25日 (火)配信毎日新聞社
2009年に首都圏で男性3人が不審死を遂げた事件が起き、その人たちを殺害した罪などで裁判を受けていた木嶋佳苗被告について、このほど最高裁が上告を退けた。本人は一貫して罪を否定しているが、これにより木嶋被告の死刑が確定することになる。
40代になった被告は、拘置所の中で日記や自叙伝を執筆し、支援者を通じて時々公表している。最高裁判決の前にも、長文の手記を週刊誌に発表した。
拘置所の生活の様子が詳しくつづられた手記によれば、被告は差し入れの缶詰やジャムなどでサンドイッチを手作りしたり、“トレンドの服”や“カシミヤの手袋”を愛用したりしているそうだ。裁判が始まってから文通や面会を繰り返した男性と結婚、その後、離婚や再婚までを経験しているともいう。無理やり「自分は楽しく生活している」とアピールしようとしている、としか思えなかった。
なぜそんなことをするのか。理由は分からないし、罪を犯しながら日々を楽しんでいるとしたらとても不謹慎で許しがたい。ただ、手記の冒頭に「今回、筆を執ることにしたのは、母親への思いをはっきりと記しておきたかったから」とあるのが気になった。
何度も、自分は「母によって否定された」という恨みや絶望を書いている。木嶋被告はいま、実の母親が娘である自分に対して「ほったらかし」だと感じているようだが、もしかするとそれは今に始まったことではないのかもしれない。
被告は教育熱心な家庭で子ども時代を過ごしたといわれるが、もしかすると昔から母親に「もっと甘えさせて、一緒に遊んで」などと言いたくても言えなかったのではないか。だからこそ今になって、母親に楽しさをアピールしてみたり、そうかと思うと唐突に、母は「私の死を誰よりも強く望んでいる」から死刑の早期執行を請願すると言ってみたりしている気もする。
安易に比べることはできないが、おとなになってから母親に「もっとかまってほしかった、優しくしてほしかった」という思いを抱く娘たちは、今とても多い。特に優等生として過ごした女性は、母親の前でも子どもっぽく振る舞えず、後になって「ほったらかし」と感じて恨みを抱いたりする。もちろん木嶋被告は特殊なケースだが、「母親に素直になれなかった娘」という点のみにおいて、どこか共通点がある気もする。母と娘の関係はどうあるべきなのか、しばし考えてしまった。(精神科医)