新型コロナ、重症度の高い患者ほど中和抗体価が高いと判明
神戸大ほか、研究成果(プレプリント)は、「MedRXiv」にオンライン掲載
神戸大学は8月12日、さまざまな重症度の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の血清を国内で初めて多面的に解析し、すべての感染患者において新型コロナウイルスに対する中和抗体が産生されており、重症度の高い患者ほど中和抗体価が高いことを明らかにしたと発表した。これは、同大大学院医学研究科附属感染症センター臨床ウイルス学分野の森康子教授らの研究グループによるもの。研究成果は、研究成果(プレプリント)は、「MedRXiv」にオンライン掲載されている。
COVID-19の症状は重症度により大きく異なり、高齢者や基礎疾患のある人ほど重症化しやすいとされている。また重症例では、炎症性サイトカインであるIL-6などが多く産生されており、過剰に炎症反応が起きていると考えられている。
一方で、同一の患者の免疫応答を詳細に解析した報告はあまりなく、重症化のメカニズムや、その抑制法は明らかにされていない。そこで研究グループは、さまざまな重症度のCOVID-19患者12人の血清を多面的に解析し、その免疫応答を調べた。
国内患者12人を、WHOのカテゴリーに基づいて、無症候1人、軽症1人、重症3人、超重症7人に分類し、解析を行った。超重症患者は急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を呈し、人工呼吸器を使用していた。
解析した患者(PCR陽性者)全てについて、血清中に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する中和抗体が誘導されていた。一方で、非感染者7人の血清では、ウイルスを全く中和することができなかった。10人の重症および超重症患者血清では、無症候患者の血清よりも高い中和抗体価が得られた。発症直後から経時的に解析した患者4人では、発症後4~10日の間に中和抗体価の上昇が認められた。ほとんどの患者では、抗体上昇後にPCRによるウイルスゲノムを検出できなくなっていた。全ての患者について、血清中のサイトカインおよびケモカイン等、48種類を定量した。重症者・超重症者では、炎症性サイトカインIL-6のみならず、多くのサイトカイン・ケモカインの上昇が認められた。
これらの結果から、重症患者の血清では中和抗体価が高く、新型コロナウイルスが体内で多く増殖することが、重症化の引き金となっている可能性が示唆された。また、非感染者の血清では、新型コロナウイルスに対する中和抗体が検出されなかったことから、風邪の原因として知られている流行性のヒトコロナウイルスは、新型コロナウイルスに対する中和活性に影響を与えていないと考えられる。今後は、COVID-19回復者における中和抗体価がどれだけ持続するのか、検討することが必要だという。
今回の結果は、重症化の可能性が高い高齢のCOVID-19患者に対しては、早期に血漿療法(中和抗体投与療法)や抗ウイルス剤の投与を、一旦重症化した患者(ウイルスゲノムが陰性であること)に対しては、ステロイド療法などによるサイトカインストームの抑制が重要であることを示唆すると考えられる。COVID-19に対しては、ウイルスの複製を阻害するレムデジビルおよび、炎症抑制を行うステロイドであるデキサメタゾンが治療薬として認可され、そのほかにも多くの治療薬が研究されている。
研究グループは、「COVID-19に対する根本的な治療薬や、重症化を防ぐ方法の開発のために、COVID-19患者の免疫応答を詳細に解析することが今後も不可欠であると言える」と、述べている。