都のコロナ死者「発表まで1か月」続々…専門家「予防対策に影響」
新型コロナウイルスの死者について、死亡の事実を発表するまでに1か月近くかかるケースが東京都で相次ぎ、国が集計して発表する全国の死者数にも時間差が生じている。感染の再拡大に伴い、重症者や死者の数も増える中、専門家は「現状把握が遅れれば対策が後手に回り、いっそう深刻な状況を招きかねない」と警鐘を鳴らす。(松山翔平、大舘匠)
都道府県などは、新型コロナの死者が確認される都度、年代や性別、発症~死亡の経過といった情報をホームページ(HP)などで発表する。厚生労働省は、この各自治体のデータを積み上げ、「全国の死者数」としてHPに掲載している。
都は、死者の〈1〉年代〈2〉性別〈3〉居住地〈4〉診断日(感染確認日)〈5〉死亡日――を発表項目に設定し、5月下旬からは、遺族の意向を問わずに発表している。
だが、7月以降、「死亡日」と「発表日」に大きなズレが生じている。例えば、ある男性が6月18日に亡くなった事実を都が発表したのは、43日後の7月31日だった。7月中に発表された他の6人の死者についても、死亡日(死後に感染が判明した場合は判明日)から公表までに4~24日を要した。8月にも、4人について9~14日のズレが生じている。
発表までに長期間を要する原因について、都の担当者は「医療機関から死亡の連絡が遅れるケースがあるほか、一部の保健所が遺族に配慮して発表前に連絡するため」と説明する。
本来、死者本人を特定できない情報の発表に遺族の同意は不要だ。しかし、都が死者に関する「発表案」を作成し、管轄の保健所に内容の確認を求めても、一部の保健所は「遺族に伝えなければならない」として連絡が取れるまで回答を保留するという。
他の自治体でも、発表前に遺族に連絡を取ったり、内容の了解を得たりしているという。ただ、都の発表の遅れは突出している。
読売新聞のまとめでは、6月1日~8月16日に全国の自治体が発表した死者205人のうち、死亡日がHPなどで確認されたのは168人。都内の死者34人は死亡日・判明日と発表日の間に平均7・56日のズレがあったが、東京以外の死者134人は、ほとんどが当日か翌日のうちに発表され、ズレも平均1・13日だった。
浦島充佳・東京慈恵会医科大教授(予防医学)は「国や自治体の対策を検証し、効果的な感染予防につなげるためには、日々の感染者数に加えて死者の増減のデータも重要となる。国が迅速かつ正確な情報発信の必要性を周知するべきだ」と指摘している。
即時発信「ハーシス」カギ…厚労省「本格運用なお時間」
自治体任せだった感染者情報の発表が迅速化するかどうかは、新型コロナ用に開発した国の情報共有システム「HER―SYS(ハーシス)」がカギを握る。
ハーシスでは、システム構築を担う155自治体の医療機関などが、感染者の年齢・性別や住所、発症日、感染判明日などの情報を、端末から直接データ入力できる。死者についても、死亡日や日付ごとの死者数、発症から死亡までの平均日数といった統計データを算出することが可能となる。
ただ、全国の感染者数・死者数の計4割を占める東京都と大阪府のデータ入力は、当初予定の5月から8月初旬にずれ込み、厚労省幹部は「本格運用にはまだ時間がかかる」と言う。
国内の重症者数は、8月16日までの1か月間で6倍に急増し、死者数も今後、増加していくとみられる。新谷歩・大阪市立大教授(医療統計)は「国がハーシスを軌道に乗せ、重症者や死者の情報を即時に発信することで、国民は医療機関の現状や病床の逼迫状況などを知ることができる。国民が危機感を共有することは、予防意識の喚起にもつながる」と指摘する。