アクイレイアの色

2013-01-15 20:23:09 | アート・デザイン・建築

雑誌をパラパラとめくっていて、ある記事に目が留まりました。それは、アクイレイアの聖堂の改修についてのものでした。

アクイレイアの聖堂は、イタリア北部の街にある遺構で、聖堂内の床一面に、それはそれは美しいモザイク画が描かれていることで有名です。モチーフは海の静物であったり動物であったり。かしこまった画風ではなく、愛くるしく笑顔のお魚ちゃんたちが泳ぎ回り、動物たちが遊んでいます。石を細かく砕き、モチーフにあわせて色を使い分けながら丁寧に敷き並べられています。

最初にこの聖堂のことを知ったのは、須賀敦子さんのエッセイを読んだときでした。須賀さんもこの地を訪れ、そのモザイク画の素晴らしさに魅せられたことが書かれていました。須賀さんのエッセイは、感銘を受けた美術や絵画について、とても美しい文章でつづられています。言葉について美しいと感じるのは、それが単に視覚的な悦楽のみを指して語られるのではなく、その奥にあるもの、その背景にあるものを、深い海の底から静かに浮かび上がらせるようにしながら語られているから、というふうに僕は思います。アクイレイアのモザイク画についても、そんな風にして書かれていました。須賀さんの言葉を思い起こしながら、静かにこの遺構を観たいな、と素直に思います。

このアクイレイアの聖堂の改修記事によると、傷んだモザイク画の修復や展示方法の変更、そして新たな展示スペースの増設、前庭の計画などが長期間にわたり行われたそうです。全体が調和することを尊び、個性を敢えて沈め、遥か昔から存在してきたものに敬意を表するような手腕でおこなわれた改修は、誰の目にも納得のいくものだろうと思います。

聖堂は何世紀にもわたり増改築を繰り返されてきたようで、このモザイク画の部分は初期ロマネスクの時代のものでしょうか。平面的で簡素な図像やモチーフと、素朴でありながら味わい深い色合いをもつモザイク画の写真は、見ていて飽きませんでした。そして何より羨ましいなあ~と思ったのが、ちょうどモザイク画を修復している光景の写真でした。何人かの修復士がモザイク画の上で作業しています。傍らには美しいカラーパレットの色!各々、自分の内面で過去のモザイク画と対話をしながら、作業としては手堅く慎重にすすめていくのでしょう。そんな仕事の在りように、憧れのようなものを感じます。

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