ロッジア

2011-11-28 18:05:07 | 青葉の家

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仙台で進行している「青葉の家」の現場。

上の写真は2階部分にあるロッジアの写真です。ロッジアというのは、屋根で覆われたテラス空間、というような意味合いをもっています。16世紀イタリアの建築家アンドレア・パッラーディオは、ロッジア空間の名手で、美しい半屋外空間を数多く設計しました。イタリアには心地よいロッジア空間が、住宅にも都市建築にも多くみられます。エアコンなしに屋外で積極的に過ごそうとすることは、今後ますます重要になるのではないでしょうか。

「青葉の家」のロッジアは個室の前に位置しており、椅子と小さなテーブルでも出してくつろぐ場所ですから、物干しテラス、というわけにはいきません。この後デッキを敷いて、腰壁がちょうどよい高さになると、適度に開かれた居心地の良い場所になりそうです。あまり開放的になりすぎると、個室とのつながり上、落ち着いた雰囲気になりませんので、ちょうど良いぐらいがいいですね。

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1階部分のリビングの大きな木製窓枠も、大工さんの手によってつくられました。西洋しっくいが塗られた外壁に、タモ材の窓枠の風合いが調和します。幅・高さともに2メートル60センチもある大きな窓。十字に切った桟が、庭の風景をきれいに切り取ってくれそうです。

大きな窓、小さな窓。向き合う光景や環境に応じて、いろいろな雰囲気の窓がしつらえられているのが、この住宅の特徴です。それぞれが個性的で美しい窓辺になることを願いつつ、設計してきました。そのぶん手間のかかる工事内容になりますが、ひとつひとつ丁寧につくってくださっています。できあがったら、またこのブログでもご紹介していきたいと思います。

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カルロ・ドルチの絵

2011-11-21 17:55:25 | アート・デザイン・建築

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国立西洋美術館の常設展示のなかに、とても惹きつけられる絵があります。カルロ・ドルチ「悲しみの聖母」と題された、一枚の油彩。

常設展示ですから来場者もまばらなのですが、比較的多くの人が、すっと寄っていっては、しばらくご覧になっていることが多いようです。人を惹きつける何かが、きっとこの絵にはあるのでしょう。

カルロ・ドルチという画家について、ぼくは何も知りませんでした。この画家が描く絵だからすばらしいのだろう、というような予備知識にたよることなく、絵そのものに惹きつけられたことは、とても新鮮な経験でもありましたし、本来は大切なことのように思います。

この画家について少し調べてみると、17世紀のフィレンツェに生きた人であることがわかりました。宗教画家で、聖母像などの比較的小品をくりかえし描いたのだそう。いくつかは名画として名だたる美術館に収蔵され、そのひとつが、この西洋美術館の作品なのだそうです。

聖母像ですから、基本的な構図はすでに概ね決まっています。ですから画家の個性は、色の選び方や絵の具の付き方、そういったところに大きく表れるのだろうと思います。ですがこのカルロ・ドルチの作品は、作品を個性的たらしめようとする作為が感じられないのが、深く内省的な気分をより高めているように思います。

驚きや物語性があるような画面ではないのに、なぜ、ずっと観ていることができるのだろう。画面には描かれていないけれども、目には見えないけれども、それでも画面を通して滲み出ているものとは一体、なんだろう。西洋美術館に行くたび、そんなことを思いながら、この絵の前で時間を過ごしています。

展示室の周りに並ぶあらゆる絵画のなかで、この聖母像の絵は、極めて単純な構図と配色であることも、特徴といえるかもしれません。単純でありながら、その掘り下げ方に凄みがあるというべきでしょうか。ラピスラズリの印象的でありながらどこまでも深い青。自己の内面を見つめているような表情。それは決して説明的ではないですし、暗示的にふるまうこともないのですが、観る者を深い静けさと穏やかさのなかに誘うものだと思います。もちろん宗教画に課せられた本来の役目があるとはいえ、観る者の胸の内に、このような静けさや穏やかさをもたらすことにこそ、この作品の極めて重要な意味があるのではないか、そんな風に感じています。

17世紀に生きた画家が、くりかえし同じ題材を描くことによって自身の技を磨き上げていき到達した画風。何世紀も昔に描かれたものとはいえ、フレスコ画などと異なり、「古びていく」美徳があるわけではありません。むしろモザイクタイル画のように変わることのない、普遍的ともいえそうな美しさに満ちていると思います。モザイクタイル画は、光を受けて美しく輝きますが、カルロ・ドルチのこの聖母像は、油彩ゆえ寡黙です。その分この絵は、まるで絵の内側から光が発せられるような美しさをもっているように思います。その美しさが、数世紀を隔てた人間の心にしっかりと届いているという事実に、感銘を受けずにはいられません。

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東山の家.6 ~取材の一日~

2011-11-14 18:23:28 | 東山の家

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気持ちのよい秋晴れの日に、「東山の家」で、雑誌の撮影取材が行われました。暑さ真っ盛りの8月にお引渡しをした、茶室のある住宅。その暑さのなかでも、四畳半と八畳の茶室はそれぞれ、室内に入ると背筋がぴっとのびる緊張感のある雰囲気に仕上がりました。精魂こめてつくってくださった工務店と職方たちの力によって、そのような雰囲気が得られたのだと思います。引渡し前後に現場に行っては、まだ茶道具やお軸も掛けられていない、まだ何も無い茶室のなかで、よく時間を過ごしたのを思い出します。

この度の撮影取材で、ぼくは初めて道具や床飾りなどが備わった茶室の姿を見ることができました。お施主さんが揃えてくださった道具類の数々が、然るべき場所に置かれると、それを待っていたかのように室内が生き生きとし始めたように感じました。道具に柔らかく降る、障子を通した自然光。同時にそれは道具に陰影と趣を与えてくれます。室内造作と、光と、陰りと、人と、道具。それらが居合わせることでできあがる空間の雰囲気を楽しみながら、撮影中の、静かで穏やかな時間を過ごしました。

撮影取材にあわせ、いろいろとご準備とご協力をしていただいたお施主さんには、本当に感謝の気持ちでいっぱいになります。そして、建築家としては、設計した空間について編集者・ライターの方に文章にしていただき、写真家によって空間の姿を記録していただけるのは、冥利に尽きる思いでもあります。

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京都さんぽ.13 ~壁の街~

2011-11-07 13:45:24 | 京都さんぽ

普段は公開されていない寺院のいくつかが特別公開になるとのことで、この機会に京都へ見学に訪れました。行先は、これまで何度も訪れている大徳寺。

大徳寺はいくつかの寺院が集まって成り立っている、いわば街のような風情をもつ寺です。そのなかにある、聚光院、孤篷庵、真珠庵といった寺院に訪れるのが、今回のぼくの目的でした。

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京都の寺はたいがいの場合がそうですが、背の高い塀が巡らされていて、なかの様子をうかがい知ることができません。大徳寺も、街並みに対して高い塀で囲まれ、そのなかの寺院各々がさらに塀で囲まれています。ですが、塀の上や切れ目から、緑や庭や建物の気配が顔をのぞかせていて、それが独特の情感を醸し出しています。大徳寺境内の道は折れ曲がりながら続いていて、大げさにいえば迷路のようでもあるのですが、歩き回るごとにいろいろな風景が現れては消え、独特の見え隠れの美しさがあります。

塀のひとつひとつをよく見ると、いろいろなデザインがあることがわかります。土壁や石壁のほか、古い瓦を埋め込んだ壁などもあり、レヴィ・ストロースの言うところの「ブリコラージュ」としての表現も見られて、興味は尽きません。

見えないことで喚起される、秘めやかで予感めいた雰囲気が、大徳寺の境内には満ちています。そして、それを形づくるひとつひとつの塀や敷石、樹木のひとつひとつに至るまでが、簡素でありながらもしっとりとした質感をもっていることも魅力的です。大徳寺境内へは、誰でもはいることができるので、観光客のみならず、地元の方々、それこそ買い物袋を自転車カゴに入れて走る姿や部活帰りの学生の姿も見られます。でも空き缶もゴミもひとつも落ちていません。日々の生活空間に溶け込んでいながらも、そんな清々しい感じが素敵です。

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寺院のひとつ、聚光院を訪れました。この寺院には「閑隠席」という茶室があります。ぼくが会社に勤めていた頃、資料室の奥に埋もれるようにしてあった茶室関連の本を見つけました。大きなビルを設計するのが主な仕事だった会社では、小さな茶室は専門外といったところだったのでしょう、古く、あまり読まれていなさそうだったその本には、印象的な茶室の写真と図録が数多く掲載されていました。

監修・千宗室、写真・田比良敏雄によるその本のいくつかのページをコピーし、資料として大切に持ち、よく眺めていました。そのなかに「閑隠席」の写真が載っていたのですが、それは、ぼくにとって茶室への興味を決定的にするものでした。躙り口周りの外部を撮ったモノクロの写真。木や石といった素朴な材料が陰影のなかでもたらす独特の情感。深く、印象に残りました。

閑隠席は江戸中期につくられた、利休好みの三畳敷の茶室。室内の天井はぐっと低く抑えられ、どうということのない意匠のなかに、揺るぎないプロポーションと構成が感じられ、気圧される思いでした。太目の床柱のある空間の、深い落ち着き。数年前の特別公開の折に訪れたときは、そんな風に感じることがありませんでした。この数年で少しは成長した、ということであれば嬉しいものです。

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