このオブジェを置きたいんです。そう言いながら施主に手渡された一枚の写真には、木彫の女性像のオブジェが映っていました。
それは、アーティスト前川秀樹氏の作品でした。
中世の古画のように、静けさに誘う不思議な佇まい。僕も、惹きこまれました。
氏は流木を用いたオブジェをよく製作されるそうです。ゆっくりと流されてきたものが、オブジェとしてここに係留される。そんな物語に僕はわくわくしました。
家の隅に飾るのではなく、いっそのこと、生活動線の中心に置いて、一日のなかに何回も「出会う」ことを愉しみたいと思うようになりました。
家は、そんなオブジェの背景になるのです。
丸い天井は、かつて流木が身をゆだねた波のイメージのような。
あるいは、中世の古画が眠る、かつて訪れたフィレンツェのサン・マルコ修道院のイメージのような。
そんないろいろなイメージがゆっくりと重なり合って、「陶芸家の家」はできあがりました。
静かな光のなかで、左官壁の微妙なテクスチュアと、丸い天井の柔らかさが、背景としての優しい趣きを宿してくれます。
空間の主役となるのは、選ばれた家具と、陶芸家である施主ご自身の手によってつくられた器。
その中心にあるオブジェのために、天窓から光が降り落ちます。