息子が今春から通う小学校は、今年で創立145周年を迎え、区内最古だそうです。
学校の敷地も思いのほか小さく、傍に神社もあって、古くからあったんだろうなあという雰囲気がじんわりとにじみます。
でも、校舎は創立当初のものでは当然なく、鉄筋コンクリートの建物です。
小さな子どもが過ごす環境が、ずっと昔のことを感じ取れるような雰囲気だったら、もっと素敵だろうな、と思います。
そんなことを考えながら思い起こすのは、イタリア・フィレンツェにある「孤児養育院」です。
イタリアの初期ルネサンス建築の巨匠フィリッポ・ブルネレスキが設計した施設で、15世紀に建てられた古い建物が、今も子どもの養育のための施設として使われ続けています。
石造だから建物は残りやすいわけですが、現代の実用に合わないことがあるのは承知のうえで、大事に使われ続けています。
ルネサンスという時代は、それまでの形式から離れて、人間本位に立ち返るような時代でした。
この孤児養育院も、子どものスケール感に合わせるかのようにして、それまでの時代には考えられなったこじんまりとした居心地の良い回廊と中庭を、ひっそりと抱いています。
数世紀の時間を隔てて、そこを走る子どもたち。
長い年月の間に無数についた傷と、褪せてくすんだ色。ずっと昔からあった場所に、身を置くということ。
それだけで、何かに守られるような安心感とともに、自分以前の存在や時間を大切にする心が育まれるようにも思います。
いつか僕が子どものための施設を設計することがあったら、必ずブルネレスキの養育院を思い出し、そこに浸みわたっていた親和性と穏やかさと包容力に思いを馳せながら設計するのだろうなあ。