出版社から、ある本が届けられました。主婦の友社刊「建築士になるための完全ガイド」。以前に取材を受け、建築士の仕事について僕なりに思うことを書かせていただいたものでした。見開きのページに、コラムとしてまとめてあります。
僕は学校を出た後、大手設計事務所に就職し、ビルや学校、工場などの大規模建築の設計に携わりました。会社というもの、チームを組んで協働するということ、膨大な事務作業・・・。会社に居なければ経験できないことを多く経験できたことは、僕にとっては大切だったのだろうと思います。少人数のアトリエ事務所という小さな世界だけで過ごしてきたとしたら、あらゆる面で偏った人間になってしまったかもしれません。
その後、師事した村田靖夫さんからは、入所面接のときに「単に上司と部下という関係だと思うな」と厳しい表情で言われました。そして、オマエが今まで培ってきた価値観も、一度捨てろ、と。ずいぶんなことを言うヒトだなあ・・・と思いましたが、一人の作家としてものづくりに関わるというのは、そのような厳しさを伴うことを身をもって勉強することができました。
上司と部下。師匠と弟子。その両方の境遇に身をおきながら、それぞれの立場での喜びや苦しみを経験できました。
このブログでも、師匠の村田さんのことは時折ふれてきました。でも今の僕を育ててくれた方として、会社時代の上司がいます。先日、ある用件で久々に当時の上司と電話でお話する機会がありました。懐かしさと多少の緊張と。理想の上司は、と聞かれれば、迷うことなくこの方を思い浮かべることと思います。住宅設計をやりたいがゆえに、会社を辞めたい旨を申し出たときのことを思い返すたび、心を強くして進まねば、と奮い立ちます。