開店前のレストラン

2014-03-30 22:25:58 | 日々

自宅の近くに、好きなフレンチレストランがあります。気軽に入れるお店ですから、ビストロとよぶのが正しいのでしょうか。初めてそのお店を見つけたのは偶然でした。自転車に乗って走っていると、「気配に呼ばれる」ようにして、いったん通り過ぎたのを店の前まで戻りました。

少し古いマンションの1階の店構え。小豆色に塗られた壁にシンプルに窓が横長に開けられ、そのなかには、真っ白なクロスが掛けられたテーブルに、カトラリーが印象的に鈍く光っていました。時間はまだ朝、開店前でした。客席には電気はまだ灯されず、朝日がそっと忍び込む室内は時間が止まったようで、どこか神秘的で、そう、シャルダンの静物画を観るような思いでした。

「発見」からしばらく経って、それでも気になって食事に行ってみた時に、はじめて壁・天井がすべて真っ白に塗られ、いたってこざっぱりとしたシンプルなインテリアであることがわかりました。ちょっと狭い店内で、テーブル間隔もやはりちょっと狭め。でもそれが心地よく感じられるような、ちょうどよい案配でした。

低く吊り下げられたテーブルランプ。使い込まれたカトラリー。親密なスケール。美味しい料理。それ以外の余計なものはいらない、と言わんばかりの体裁は、むしろ今まで経験したことのないものでした。要素が少ない分、そのひとつひとつの存在が際立っているようでした。

ある朝から、そのお店の窓にはカーテンが閉められたままになってしまいました。開店前のひっそりとした人気のない時間に、朝日がそっとさしこんで、清潔なテーブルクロスと美しく光るカトラリーを観るのが好きだったのに。この10年間で数度しか行かなかったけれど、思い起こすと心が温まるような時間と空間でした。

でもそのような場所がひとつ、なくなってしまいました。

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修学院離宮

2014-03-21 21:00:17 | アート・デザイン・建築

今年はこれといって行っていないのですが、3月のこの時期にはこれまで、よく京都に旅行に出かけていました。まだ肌寒くピリッと寒いのが、社寺を訪ねるのにもほどよく緊張感があり、観光客も少なめで、おまけにその分、宿泊費なども安く済むのですからありがたい季節です。

これまでの京都の旅を思い返す中で、脳裏にじわじわとよみがえってくるのは修学院離宮を訪れた時のことでした。もともと京都市の北の方で生まれ育ったこともあり、比叡山麓にある修学院離宮のある環境は、なんとなく肌身にしっくりとくるように思うのです。

修学院離宮は、もともとは江戸時代に皇室の別邸として造営されたものでした。派手さは一切なく、簡素で慎ましやかな美意識に貫かれています。

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そのなかでも、私がいちばん好きな眺めがこの写真です。寿月観という建物の正式なエントランスです。控えめでありながらも格調があります。斜面地に面して建っていて、ぐるりと回り込むと伸びやかな外観を見せてくれます。

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素朴な雰囲気で、まだ花咲く前の木々のなかで凛と建っています。

濡れ縁は束立てが少なく浮いているような軽やかさが感じられます。

障子の腰板は3本の化粧桟がうたれ、檜皮葺の屋根と頂部の棟瓦の不思議な調和を見せてくれます。

竹製の軒樋も、大振りでどこか愛嬌があります。

本質主義に一辺倒でつくるのではなく、適度な遊び心をもちながらつくってあるところに、素朴と洗練の不思議な調和があるように思います。

こういうのを、雅というのでしょうか。

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片倉の家

2014-03-13 23:22:23 | 進行中プロジェクト

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横浜市で建設中の「片倉の家」は、大工さんの工事が佳境にはいっています。

敷地の形状と、周囲環境をよく読みこみながら、部屋の配置と窓の大きさを検討しました。家の中心となるリビングは平屋になっているので、屋根の形がそのまま天井にあらわされています。ぎゅっと低めに抑えられた壁の端から、すうっと天井が高くなっていく。その空間のなかにいると、親密で、守られたような、包まれたような、不思議な感覚があります。

一見シンプルな造形ですが、屋根面すべての角度が異なり、大工さんの作業は精緻を極めています。ご苦労をおかけした分、きりっとひきしまった雰囲気になりました。

床板には幅が広めのブラックチェリーのフローリングを選びました。床から何かたくさん飛び出ているのは、紙片です。冬は木が乾燥しやせているので、床に貼っていく際に、紙をはさみながら作業をします。こうすることで、夏場に木が湿気で膨張しても、それを吸収するだけのスキマをあらかじめ見込んでおくというわけです。

工事作業中の照明が、天井をふうわりと照らしあげ、品のある落ち着いた雰囲気の空間になりそうなことを予感させてくれました。

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