手描きのスケッチ

2012-07-17 18:45:41 | 住宅の仕事

120717

いま、いくつかの住宅の設計の仕事をすすめています。設計がはじまってから、片時も離さないのが、ロール状のトレーシングペーパーと鉛筆です。このロール状のトレーシングペーパーは、僕の師匠がずっと愛用していたもので、僕も自然と手元に置くようになりました。

設計がはじまると、まずこのトレーシングペーパーの上に鉛筆でぐりぐりと描きながら、ラフプランを練ります。ある程度まとまるとコンピューターで製図をし、家の姿カタチの概略を決めていきます。

設計がすすんでいき、いよいよ細かい部分の設計にとりかかるときにも、このトレーシングペーパーは大活躍します。部分までは作り込まれていないラフな模型を前にどんと置き、それを見ながら細かい部分をイメージしてトレーシングペーパーに詳細スケッチを描き込んでいきます。

玄関扉はどんな構えになっていてほしいか。開けるときの重さの感じはどうか。音はどうか。木窓を開けるのに必要な金具はどんなもので、どんな風に取りつくのか。その窓からはどんな風景が見えるのか。

いろいろなことを考えながら、ほとんどの場合、原寸大でスケッチしています。きっとこの住宅でもっとも身近に接する部分を、このスケッチを描きながら考えているのだと思います。だからこの作業の時間は、僕の設計にとって要のようなものだと思っています。手でスケッチしながら考えていると、モノの実際の大きさはもちろんのこと、手ざわりや、重さや、経年による変化までもがイメージできるような気がするのです。

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フェルメール

2012-07-03 13:40:48 | アート・デザイン・建築

フェルメールの絵が2点、東京にやってきていますね。作品数の極めて少ない画家だけに、企画・交渉に4年ほど費やした・・・という話などを聞くと、とても貴重な機会なのだと思います。数年前にフェルメールの作品の展覧会があったときは、それこそ黒山の人だかりでした。静謐な画風を押し合いへし合いしながら観るよりも、画集でじっくり観る方がいい、という意見もありそうですが、実際に観るとその技巧と筆致が躍り上がるようで、息を呑みました。

ありふれた窓辺で、さして特別でない事物に囲まれ、人が佇む。フェルメールの絵は、そんな構図のものが多いように思います。でも、さして特別ではないはずのありふれた日常の光景が、独特の存在感を放つとき、その光景は得も言われぬ美しさを宿すように思います。

フェルメールの絵のような空間がつくりたい。そんな思いが、心のどこかにあります。具象的なフェルメールの絵を、そのまま引用すればどうか。でもきっとフェルメールは画布の上で、目の前に見えている光景と異なるイメージをつくりあげていったのでしょう。抑制された光、変形されたテーブルなど、写実的なようでありながら、フェルメールの絵は現実のものとは異なります。現実の室内空間で、そんな静けさと穏やかさに満ちた雰囲気をつくりだすにはどうしたらいいのだろう。そんなことをよく考えました。

建築の専門分野にいると、床、壁、天井やその細部など、有形のもののデザイン云々に興味がいきがちです。でも、それらの間に挟まれた、目に見えないいわば空気の部分に、いかに意図をもって色をつけるか。そんなことが大事なのだと思います。日常の事物や光景を、静かな画風で淡々とくりかえし描いた画家、たとえばフェルメールやモランディのような画家たちの作品を観ると、そんなことを考えさせられます。日常のありふれたものが、ほんのすこしだけ、意味深で特別なものに感じられるような雰囲気。そんな雰囲気が宿る場所をつくりたいと考えています。

120703

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