いま、いくつかの住宅の設計の仕事をすすめています。設計がはじまってから、片時も離さないのが、ロール状のトレーシングペーパーと鉛筆です。このロール状のトレーシングペーパーは、僕の師匠がずっと愛用していたもので、僕も自然と手元に置くようになりました。
設計がはじまると、まずこのトレーシングペーパーの上に鉛筆でぐりぐりと描きながら、ラフプランを練ります。ある程度まとまるとコンピューターで製図をし、家の姿カタチの概略を決めていきます。
設計がすすんでいき、いよいよ細かい部分の設計にとりかかるときにも、このトレーシングペーパーは大活躍します。部分までは作り込まれていないラフな模型を前にどんと置き、それを見ながら細かい部分をイメージしてトレーシングペーパーに詳細スケッチを描き込んでいきます。
玄関扉はどんな構えになっていてほしいか。開けるときの重さの感じはどうか。音はどうか。木窓を開けるのに必要な金具はどんなもので、どんな風に取りつくのか。その窓からはどんな風景が見えるのか。
いろいろなことを考えながら、ほとんどの場合、原寸大でスケッチしています。きっとこの住宅でもっとも身近に接する部分を、このスケッチを描きながら考えているのだと思います。だからこの作業の時間は、僕の設計にとって要のようなものだと思っています。手でスケッチしながら考えていると、モノの実際の大きさはもちろんのこと、手ざわりや、重さや、経年による変化までもがイメージできるような気がするのです。