スケッチブックの山。これらは、ぼくがこれまでの旅先で描いたものです。
大学で建築学生だった頃、先生からは、とにかくスケッチを描きなさい手を動かしなさい、と呪文のように言われていたものですから、旅先には必ずスケッチブックを持っていって、気に入ったシーンがあればスケッチに描く、ということを続けました。
当時はデジタルカメラもまだ高価で、スマホで写真を撮るなんて考えもしない時代。
それでも、気取ってリバーサルフィルムを旅先に持っていきましたが、撮る枚数も限られますし、現像するまでちゃんと写っているかどうかもわかりません。
ですから、写真に撮れないぶんはスケッチに残すしかない、というわけです。
何回か海外へ建築を見る旅の機会を得るうち、現地でスケッチブックを買って描くようになりました。
そのまま持ち歩いてハードに使うので、旅が終わるころにはボロボロになっていたりして。でもそんなことも思い出になります。
風景を見たままペンで描いたり、コンテを使って陰影に凝った表現をしてみたり、メジャーで測って寸法を記録したり。思ったことを余白に書き留めたり。
今思えば、そんな不器用でゆっくりな旅の時間は、貴重だったんだなと思います。
スケッチをしながら続ける旅は、一緒に誰かがいると気兼ねしてしまうので、一人旅のことが多かったように思います。
スマホで情報収集もできない時代の海外での一人旅は、半分は不安と一緒に過ごしていたように思います。
夜、ホテル(というか安宿)に戻って、無事に帰ってこれたと安堵しながら、「執筆活動」と称してその日の記録や思ったことを文章にしたり、昼間に描いたスケッチに色エンピツで着色したり・・・。
そんな時間が大好きでした。
もうこの数年間になると、手元には手軽に撮れる膨大な量のデジタル写真が主となり、スケッチはごく僅かになってしまいました。
手軽に撮れるカメラがあると、仕方がないですね・・・。
でも、写真もいいけれど、するすると頭からこぼれ落ちて行ってしまうのです。
スケッチを見返して、この時にこんなことを思ったんだよな、とか、こういうことに感動したんだよな、などと思い返せるのは、かけがえのないことなのだと思います。
こんな時代にアナログ賛歌ではありませんが、この世に一品しかない、思い出いっぱいのこの下手なスケッチ集たちを、今後も大切にしていこうと思います。